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-分かっていますか?何が問題なのか- ㉝技術者育成と魅力ある業界に

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.01.01

1.キャリアレベルとスキルレベル

 私の説明を読む前に表‐1(人材モデルと必要となる業務内容)を見てほしい。

(図表はすべてクリックすると拡大します)

 この表には、維持管理業務にあたる人材を11に区分した人材モデルを縦方向に、各人材が担う業務との関係を示す目的で、維持管理業務を横方向に「施設保全マネジメント」、「点検・診断」、「維持工事」、「修繕・更新設計」、「修繕・更新工事」の5つに区分してみた。縦と横の交差する箇所でそれぞれの人材モデルが担う業務として相応しいとする箇所に丸印を付けてみた。例えば、人材モデル4の診断責任者は、5の診断士が行った個別施設の健全度等の妥当性を確認する技術や執行能力が求められる。表の丸印の横に「管理」と追記している趣旨は該当業務責任者としての立場であることを示している。さらに、人材モデルの左方向で対象者として区分けしているのは、施設管理者である行政技術者と業務として発注した委託及び工事を請け負う産・学側の技術者とを私の感覚で区分けしてみた。この表を見れば、関係人材が本来行うべき、責務を負うべき業務が一目瞭然となる。次に、技術者を評価・判定するレベル、キャリアレベルについて説明しよう。
(1)キャリアレベル(キャリア基準)の定義
 メンテナンス(維持管理)は、行政と請負業者、研究機関、大学等、複数の技術者がそれぞれ役割を分担して種々な業務を行っているのが現状だ。私は、メンテナンス業務への関わり方や範囲は組織によって考え方、処理の仕方は異なってはいるが、今後のメンテナンス業務における連携、分担の精度を向上させるためにも一定のパターンを示すことが重要と考えている。そこで、メンテナンス業務に関連する職種を定義し、それぞれのキャリアレベルをメンテナンスにおける専門領域を担う技術者として必要な要件と人事評価やキャリア診断が容易となるよう考えてみた。

 表‐2(キャリアレベル定義の考え方)を見てほしい。キャリアレベル(業務遂行能力)をレベル1からレベル4までの4段階に区分し、区分された各人材に求められる業務貢献範囲から、専門技術者としての貢献度・認知度、要求作業の達成度及び持てる技術の程度を示した。最上位のレベル4は、業務貢献度が事業レベルでも最高位、プロフェッショナルエンジニアとして業界で目標とされ、独自で応用技術を駆使して事業改革や方法論・テクノロジーの創造をリードすることが可能な課題解決にも優れたレベルである。見方によっては、このようなハイレベルな人材が現状において存在するのかとの意見もあるとは思うが、私は存在すると考えている。逆に、最下位のレベル1は、業務遂行も上位者の指導下で行え、基本的なスキル等を有する担当者レベルといえる。読者の方々は、日々関連している業務を考えていただければ、組織の各職域が本表のどのレベルを指すのかお分かりと思う。次に、先に示した各人材とキャリアレベルの関係を示すキャリアフレームワークについて説明しよう。

(2)キャリアフレームワーク
 お分かりにならない人のためにキャリアフレームワークとは、メンテナンス業務において必要となる技術者の一覧表と理解してもらえばよい。表‐1で説明した11の人材モデルと表-2で説明した4つのキャリアレベルを対比し、各人材が定義したキャリアレベルの何処に当てはまるのかを示したのが表-3(キャリアフレームワーク)である。
 例えば、キャリアレベルの最上位4には、事業を統括する立場のアセットマネージャー、点検業務を管理する点検責任者、診断業務を管理する診断責任者、修繕工事の計画・設計業務を管理する修繕工事設計責任者である。レベル4のキャリアレベルの人材は、専門的視点を持って統合的な提案、計画策定、事業判断や意思決定する、権限と責任のある高度技術者といえる。当然、社会的にも専門技術者として認められ、将来のニーズや技術の進展度を理解し、事業改革等に力を発揮できるレベルの人材なのだ。最下位に位置するレベル1は、責任ある立場ではないが、基礎的な技術力を保有し担当する業務を適切に遂行でき、成果に結びつける底辺に位置する技術者である。

 表-3ではキャリアレベルをどのような人材を指すのか補足説明を追記している。例えば、底辺的な立場に位置するレベル1の技術者は、上位レベルから指示された業務を確実に成し遂げられる技術と能力が必要と説明した。しかし、表-3のみでは、行政や民間企業における役職区分とは対比できないとも考えた。
 そこで、現状の職域における役職区分と対比し、分かり易く補足したのが表‐4(キャリアレベルと適用事例)である。

 レベル4は組織の長にあたる役職域、レベル3はその長を補佐し、職務遂行におけるリーダー的存在といえ、技術レベルや技術者育成についても中心的な役割を担う人材・技術者でもある。レベル2は、組織の担当者であるレベル1から該当する研修や業務経験を積み、身となった技術や業務執行能力が組織内外から認められるレベルである。レベル2として評価される技術者は、ある程度の責任と権限も付与される立場であるともいえる。なお、ここで示している適用例については、組織上で使われている一般的な名称を記述したと考えているが、組織によって違いがあるのでレベル区分の説明を読まれ類推するとよい。以上が、社会基盤施設のメンテナンス業務に関わる技術者のキャリア基準とキャリアフレームワークの説明である。次に、技術者の保有する技術力、スキルレベルについて説明する。

(3)スキルレベル(スキル基準)の定義
 スキルレベルは、技術者としての価値を判断される最も重要な評価基準と考える。まずは、表-5(スキルレベルとその定義)を見てほしい。

 スキルレベルをレベル4の最上級から、レベル3の上級、レベル2の中級、そしてレベル1の初級の4段階に区分けし、定義した。レベル4は、関連技術の修得度は非常に高く、専門技術者として業務だけではなく、学協会で認められている技術者レベルといえる。当然多方面の能力があることから、高度な維持管理、施設運営を創造し、それを実現できる人材である。人材育成に関しても卓越した能力を保有し、レベル3からレベル1の技術者まで先進的で役立つ技術指導が可能なレベルでもある。
 スキルレベル1は、最下位に位置はするが基礎的なメンテナンス技術や知識を持ち、技術能力も十分では無いことから単独で業務を行うことは困難なレベルといえる。スキルレベル1は、学生の立場で修得した技術や机上で得た知識が主を締めることから、メンテナンス業務の経験も浅く、業務における判断を任せるには荷が重く、リスクが高いといえる。しかし、将来の実りを期待するのであれば、このレベルで種々なスキル修得を自他ともに行えるように導くことが重要と考える。以上が、わが分野では聞くことの少ないキャリレベルとスキルレベルの説明である。次に、緊喫の課題、維持管理分野における優れた技術者を育てる人材育成について考えてみよう。

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