道路構造物ジャーナルNET

㉕非破壊検査を如何に活用するか

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2017.12.15

3.検証と言う行為の重要性

 良く質問を受けるが、自治体職員の技術レベルをどうするか?と言う問題に関しては、非常に悩ましい問題である。通常の日々の業務だけでは、無理だと思う。特に、メンテナンスに関しては、それまでに関わった橋の数が全てだと思う。これはコンサルも同じで、数橋、数十橋単位でしか経験していない者。橋梁の計画・実験・設計・製作・施工・運営・検査という流れを経験できていない者に、判断しろと言っても無理な話だ。

 さらに、インフラメンテナンスの問題は、そこに、数が絡んでくる管理しているインフラの数が問題となってくる。今までのように1橋1橋の話ではなく、管理している多くの橋梁、インフラを視ていかなければならないという問題が有る。これはどちらかと言うと、官庁の経験が活きる。民間企業はどうしても、受注した1橋もしくは数橋をキチントこなせばよかったが、そうでは無い。数百、数千と言う膨大な数のインフラを視ていかなければならないので、今までのような、悠長なことは言っていられない。マネジメント力が必要になるわけである。幅広い目で考えていかなければならない。


 いわゆる橋梁の法定点検は、来年度で1順目が終わる。これを、どう判断し、どう補修するのか? という、新たな課題に入ってくるわけだが、ここに新たな大きな問題が有ると感じる。適切な判断を出来る職員がほとんど居ない中、其れをどうしてやるのか?と言うところに問題が有る気がする。(コンサルだって、前述したようにほとんど経験の無い分野だ)岐阜のME(メンテナンスエンジニアリングの会)や長崎の橋守、などのように、とりあえず橋を見れる人間を多く創るしくみも必要だ。しかし日本人の悪いところは、それが形骸化してしまうところ。資格がいつの間にか優先し、的確に判断できる人間では無い有資格者が出てくる。(これは前述の2方策がそうだと言う話ではない)的確に判断できる人間は元々少ないので、其れを、それぞれの地方でどのように活用するか? のほうが重要だと考えている(数を増やすのではなく精度を確実に上げること)。どうも、皆さんの(職員、コンサル、ゼネコンも)仕事ぶりを見ていると、やることは、一生懸命やっていると思うが、「検証する」という意識が無いのではないかと思う。上辺だけですんでしまえば良いのだが、維持管理の問題は、リアリズムの世界で、バーチャルでは無い。物事には、検証が重要である。設計においても、施工や点検においても、出てきたものが正しいのか? を検証することは重要だ。現在のように、多くのプロセスがブラックボックス化していればなおさらなのだが。


 私が、一番危険視しているのは、自治体の職員は、「まちづくり」が主体だ。其の部署が花形だ。ソフトの世界なのだ。ソフトの世界はバーチャルに近い。インフラメンテナンスの現実は違う。今までに十分に経験が有るような者でも、ソフトとハード、バーチャルとリアリズムの違いが分からないと、大きなミスを犯す可能性が出てくる。同じ物を見てもどう感じられるか? の違いが将来にかかっているような気がする。
 役所の仕事は検証を施すことによって、国民市民に安全安心を提供する義務が有る。だから、厳しくやらなければならない。検証方法も考えなければならない。イニシャル時から欠陥があるものを見過ごして受け取ってしまうようでは、長寿命化も何も無い。現存する構造物を見てほしい。明らかに欠陥品というものがある。欠陥が原因で劣化が進行している。たとえば、かぶり不足、ジャンカ、配筋ミス、溶接不良・・・・などなど。これで長寿命化をやれと言うのも無理な話である。少なくとも今後造る物は欠陥の無い者を作らなければならない。施工だけではなく設計時も同様である。不安定な構造物にいくら耐震補強をしても無駄だと感じる。そのくせ余計な移動制限装置が付いている。設計時も施工時も「検証」という事を意識しなければならない。

4.まとめ

 今回は「検証」と言う行為に関して、現在の懸念を書いた。どう検証するかという事も含めて、重要である。施工計画書を見ていても、検証に関しての記述が無かったり薄い。設計も解析も検証を行うことによりミスが少なくなる。
 先日、JICAの沖縄研修センターで、「橋梁マネジメント」の講義を、聴講生の南国系の国々の公共事業省の役人の方々に話した。皆、熱心で質問も多かった。この講座の講師は3年目であったが、過去で一番熱心だった。彼らが興味を持ったのは、
日本のスタンダード(基準)と荷重体系
耐震設計
耐風設計
マネジメント
であった。これからしても、つぼを押さえていると感じた。

 さらに、冗談半分に「コンサルタントの成果を信じてはいけない」と言うと、全員がうなずいていた。やはり苦労しているようだ。これは、コンサルの皆さん、考えたほうが良い。仕方ないのかもしれないけれど。
 さらに、「The only source of knowledge is experience」(Albert Einstein)。これが、私のモットーだと言ったところ、共感を得たのはうれしかった。
 今の技術者の方々、これを実践してますか? わが国ではなかなか、出来ないし、損な生き方になってしまう。「技術立国」と言う。「日本の(土木)技術は世界一だ」ともよく言うが、本当にそうなのだろうか? 職員からの質問で「どうしたら一流の技術者になれるのか?」と言う質問がある、さらに「どうしたら人脈が出来るのか?」という事も言われる。これの回答は、答えたいができない。各個人で考え方も生き方も違い、生活も違う。まず、答えたからと言って、実践できるのか? という事である。それぞれの戦略と努力である。ある意味、各自治体のインフラメンテナンス対策と似ている。自分の能力と経歴、おかれた立ち位地、周辺環境で変化してくる。全国一律にと言うのは、無理な話であり、それぞれ考えなければならない。そこで大切なのが、「実証」という事であり、一つ一つの「検証」なのだ。
 置かれたところで実績を上げていく方も、もちろん居る。私のような凡人は、自分で試して見ないと、分からない。さまざまな経験をすることにより、ものの見方考え方が変わってくると考える。これを、補う方法はそれぞれの分野のしかるべき方に教えを請うことであるが、これもまた難しい。
 ということで、私のところでは、実証のためのフィールドを極力オープンに提供したい。せめてそのくらいのお手伝いはしたいのだが……。(次回は2018年1月16日に掲載します)

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