道路構造物ジャーナルNET

③点検について

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市 
建設技術管理監 

植野 芳彦

公開日:2016.02.16

社長さんの思いと、現場のギャップは無いですか?

5.下町ロケット
 「下町ロケット」が高視聴率だったと言う。これは弱者が信念と精神力をもって、大企業や権力に立ちかい、成功に導くという如何にも日本人好みのストーリーであるからであると思う。冷静に企業分析をすると、あの社長さんの知識や実績、熱意は尋常な物ではない。大企業の幹部や社員以上の物がすでに存在しているのだ。さらに、其の熱意が若い社員にも伝わり、必死で課題に取り組んでいる。挫折してもめげない執念もある。
 今、世の中を見ていると、そもそも「技術」というものに関して、関心そのものが薄くなっている。そもそも、わが国においては「技術者」を軽視する風潮がある。さらに、企業や個人の慢心や過信が、あるのではないだろうか?わかったつもり、理解しているつもりが、事故を生む可能性がある。私たちが社会に出たころは、本州四国連絡橋の工事が真っ盛りで、将来に夢があった。上司や先輩に実際の仕事で鍛えられた。担当した橋梁数も年間10橋以上であったろう。技術の一つの裏づけは、「経験」である。わが国の設計は、「仕様設計」であるので、比較的初心者でもできる。ましてや、現在は民間の市販ソフトが充実しているので、ゲーム感覚でもできてしまう。我々が社会に出たころは、必要なプログラムは自分で作った。大手では、自社用のプログラムを開発していた。その後、図化のプログラムもできたり、CADが使われるようになってきた。ここで大きく個々の技術者の差が出てきたと思う。単にソフトを「使うだけの者」と「中身を理解している者」である。さまざまな企業の方が、「わが社の技術力は・・・」と言う。「技術力」とはいったい何を言うのか?非常に疑問である。さらに、経営者の社長さんや、営業の方の思いと、現場の技術者のギャップがある。社長さんや、営業さんがいくら、よいことを言っても、実際の対応が悪ければ最悪。「当社の技術力は・・・」という社長さんには、「社長さんの思いと、現場のギャップは無いですか?」と皮肉をこめて言っている。
 富山市の管理している橋梁等を見ていると、劣化の原因が、もともと施工不良が原因と思われる物が相当数ある。あきらかに、技術力不足、設計・施工上の配慮の無いものもある。そういうものを、管理していかなければならないのである。「下町ロケット」で感動した皆さんの仕事ぶりはどうでしょう?

富山市が求める2つの提案

6.たかが点検、されど点検
 最後に、もう一度言う。多くの皆さんは、「点検業務は今後もたくさんあり、とりあえずお金になる。」と思っていることと思う。しかし、橋梁をはじめとした社会インフラの維持管理を運用していくためには、点検よりもその後の補修・補強のほうが重要であり、金額も一桁以上多く必要である。予防保全と言われるが、健全だと言う条件があって初めて「予防」なのである。最初から、問題がある物は、予防にはならず、まず、健全な状態にしなければならない。ここが、今の議論で抜けてしまっている。少なくても、今、健全でなければ、予防保全もありえないし、耐震補強もありえない。状況を見ていると、高度成長期に作られた負の遺産(本当にひどい)を、なんとか健全なレベルにもって行き、その後、供用寿命を全うさせなければならないのは、大変なことである。
 したがって、今後、財政難が予想される中では、どこかでコスト縮減を計らなければならない。当然、今言われているように新設は減少し、維持管理の時代に突入する。ここで、皆さんの期待している点検業務は、何とか、安価に有効に実施しなければ、財政が成り立たない。合理的点検方法を安価に設定できれば、それを考案した企業が勝ち組になる。しかし、確度の期待できない点検に予算を投入する余裕はない。
 そうなるので、「直営点検」ということも言われているのである。点検すれば、見るだけで自然に物が直るはずは無いのである。富山市においては現在、①特殊な点検手法を用いなければ点検できない物を具体的にどう点検するか?②モニタリングが何処まで実用できるか? 等を検討している。この辺の提案こそ、お待ちしているので、そういった技術を開発した企業、開発中の方はいらしていただきたい。フィールドは提供できる。しかし「点検はお金になる」と思っていらっしゃる皆さんは、早めに手を引いたほうが無難である。点検にも責任を問う時代が来るはずであるし、どう、責任の所在を明確にするかも考えている。
 私は、今後は「5年に一度の定期点検」と決められている物を、物によっては「2年に一度」必要な物も有れば、「10年に一度」でもよい物があっても良いと考える。(特に自治体は)最初に一通り、点検が済んだら、管理者が的確に判断し、計画的に点検・補修さえしていけば問題はない。また、現状を見ていると早期に点検だけではなく、補修・補強に注力すべきであると考える。それも、今のような、安易な補修設計によって行う補修ではなく、合理的な点検判断に基づく補修・補強である。結局は、自治体はそれぞれ、状況がことなるので、各々検討し自分の所に合った手法やサイクルを構築し対応していくべきだと考えている。それも、1度構築し終わりではなく、運用した結果からフィードバックして修正を加えていくべきである。また、今後は、点検のための新技術等も積極的に採用していかなければならないが、それに関しては、また別の機会にする。次回は、診断と補修に関する考えを示したい。(次回は3月16日に掲載する予定です)

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