国土交通省四国地方整備局土佐国道事務所は、国道32、33、55、56、四国横断自動車道の5路線341.4kmを所管している。四国8の字ネットワークの一端を担う南国安芸道路、安芸道路、奈半利安芸道路(安田~安芸)、海部野根道路、野根安倉道路の事業を進めている他、ケヤキ谷橋や高知橋など、難しい橋梁構造の補修補強も進めている。その他、トンネルの維持管理や豪雨災害が多発する高知の国道に面する法面の対策なども含めて、森山崇所長に話を聞いた。(井手迫瑞樹)
災害に強い道路ネットワークの強化
――管内の特徴と道路の現状および整備方針について
森山所長 高知県は四国の南部に位置し、面積は約7,104km2で四国四県では一番広く、このうち、森林面積は約84%を占めています。太平洋を臨む海岸線は長く、西部はリアス式海岸、東部は隆起海岸で平坦な砂浜が続いており、このような複雑な地形、温暖な気候、そしてたびたび訪れる台風の猛威などの自然が高知県の特徴です。
土佐国道事務所では主に高知県内の中部・東部を管轄し、管理路線は国道32号、33号、55号、56号および四国横断自動車道の一部で、雨量による事前通行規制、冬期には積雪が発生する路線もあります。また、今後30年以内に70~80%の確率で発生するとされる南海トラフ地震では、沿岸部などを中心に甚大な被害が想定されており、災害に強い道路ネットワークの強化を鋭意進めています。
――中村河川国道事務所との境界は
森山 中土佐町と四万十町の境までとなります。ただし、維持管理については、四万十中央ICまでは当事務所が担当しています。
――災害に対する対策は
森山 盛土区間の高規格道路に蹴破りのドアと階段をつくり、道路の空きスペースに周辺住民が避難できるスペースを確保するようにしている。基本的に、津波浸水地域よりも高い位置に高規格道路を造るので。
――「高知は上から雨が降るのではなく下から降る」と高知の人に聞きました。台風や豪雨での道路冠水などに対して、ハードでどのように対応していきますか
森山 8の字ネットワークの高規格道路が津波浸水地域よりも高い位置に、かつ大雨でも通行止めにならない、災害が起きても途絶しない道路となっています。台風やゲリラ豪雨だけではなくて、総合的に安全、安心な道路をつくっているということに尽きると思います。
南国安芸道路 高知龍馬空港IC~香南のいちIC間を全面展開
芸西西IC~安芸西IC(仮称)間についても事業進む
――主な事業中路線の目的と概要、現況は
森山 一般国道55号南国安芸道路は、高知東部自動車道の一部を構成する路線として、安芸地方生活圏と高知中央生活圏の連携強化を図るほか、広域交通ネットワークを形成することを目的として計画された延長21.0kmの一般国道の自動車専用道路です。平成12年度に高知龍馬空港IC~安西西IC間(延長12.5km)、平成23年度には安西西IC~安芸西IC(仮称)間(延長8.5km)がそれぞれ事業化されています。これまで、香南のいちIC~芸西西IC間の延長9.0kmを開通(暫定2車線)しているところであり、現在は、高知龍馬空港IC~香南のいちIC間(延長3.0km)の令和7年春頃開通予定に向け、改良や橋梁工事を全面展開しています。また、残る芸西西IC~安芸西IC(仮称)間(延長8.5km)についても、調査・設計および用地買収、改良や橋梁工事を進めているところです。
現在の事業進捗率は、南国安芸道路は約82%、南国安芸道路(芸西西~安芸西)は約45%となっています(令和4年度末現在)。
――高知龍馬空港IC~香南のいちIC間は改良や橋梁工事を全面展開しているとのことですが、上部工に着手していますか
森山 最後の構造物であるONランプ橋(の上部工)が完了したところです。現在、盛土工を進めており、舗装、安全施設工を行い、令和7年春頃の開通を目指しています。
――芸西西IC~安芸西IC(仮称)間の構造物比率、および主な構造物は
森山 構造物比率は約33%(トンネル延長457m、橋梁延長2,476m)です。
安芸道路 安芸川橋と伊尾木川橋で鋼桁架設を施工中
海部野根道路 事業区間6.8km中トンネルが約3.9km
――次に安芸道路について教えてください
森山 一般国道55号安芸道路は、阿南安芸道路の一部を構成する路線のうち、安芸市伊尾木~馬ノ丁までの延長5.8kmの自動車専用道路事業です。南海トラフ地震などの災害時に緊急輸送道路の確保とともに高知東部地域の高速ネットワークを形成し、安芸市街地部の交通混雑の解消、第三次救急医療施設への速達性向上などを目的とし、平成24年度に事業化しました。令和4年度末の事業進捗率は約37%となっています。
――改良および橋梁工事の進捗状況は
森山 橋梁上下部工で工事を全面展開しています。
――橋長があるものなど、主な構造物について
森山 今年度、安芸川橋(鋼9径󠄀間連続少数鈑桁橋、橋長385m)と伊尾木川橋(鋼5径󠄀間連続少数鈑桁橋、橋長306m)で鋼桁の架設をクレーンベント工法で行います。
安芸川橋上部工架設状況/伊尾木川橋上部工架設状況(国土交通省土佐国道事務所提供、以下同)
――海部野根道路について教えてください
森山 一般国道55号海部野根道路は、阿南安芸自動車道の一部を構成する路線のうち、徳島県海部郡海陽町多良~高知県安芸郡東洋町野根までの延長14.3kmの自動車専用道路です。当事務所では高知県側6.8kmを所管しています。
都市部や空港からのアクセス改善による観光振興や地域産業の発展などを支援するとともに、南海トラフ地震発生時の住民の避難や緊急物資輸送を支えることを目的として平成31年度に事業化しました。現在は調査・設計、用地買収を進めています。事業進捗率は令和4年度末で約4%となっています。
――構造物比率は
森山 約59%で、トンネル延長3,870m、橋梁延長175mとなります。残り、2.8kmは土工区間となります。
奈半利安芸道路 トンネル延長が約1.2km、橋梁延長が約1.4km
野根安倉道路 8.5km中、トンネル延長が4.7km占める
――奈半利安芸道路について
森山 一般国道55号奈半利安芸道路(安田~安芸)は、阿南安芸自動車道の一部を構成する路線のうち、安芸郡安田町東島~安芸市伊尾木までの延長9.1kmの自動車専用道路事業です。南海トラフ地震発生時に住民の避難や緊急物資の輸送を支える「命の道」として機能する信頼性の高い道路ネットワークを形成すると共に、物流拠点や空港、高次救急医療機関などへのアクセス向上により、高知県東部地域における産業振興や観光振興、緊急輸送など医療活動を支援することを目的とし、令和4年度に事業化しました。現在は調査・設計を進めており、事業進捗率は約1%となっています。
――事業区間内の構造物比率は
森山 延長9.1kmの構造物比率は約28%です。トンネル延長が1,213m、橋梁延長が1,378kmとなっています。
――橋梁延長が長いですが、高架橋がほとんどですか
森山 渡河部に橋梁が多くなっています。令和4年度に事業化されたばかりですので、橋梁形式等はこれからです。橋梁延長も若干変わるかもしれません。
――野根安倉道路について
森山 一般国道493号の野根安倉道路は、阿南安芸自動車道の一部を構成する路線のうち、安芸郡東洋町野根~安芸郡北川村安倉までの延長8.5kmの自動車専用道路事業です。高知県からの権限代行事業として進めているもので、豪雨などによる土砂災害や南海トラフ地震による津波発生時に国道493号及び国道55号の代わりに地域の分断・孤立を解消し、円滑な救命・救急活動に寄与するほか、地域住民の安全性・利便性の向上や高知東部地域の産業・観光支援を目的として、令和2年度に事業化されました。現在は調査・設計を進めており、事業進捗率は令和4年度末で約2%となっています。
――構造物比率は
森山 約66%です。トンネル延長が4,715m、橋梁延長が881mとなっています。
――トンネルは1本ですか
森山 数本ありますが、長いトンネルもあります。
――国道493号はいわゆる「酷道」ともいえる場所です、同地は地盤もあまりよくなかったように記憶していますが。トンネルの地山状況は
森山 野根安倉道路(土佐管内)は、四万十帯の東部地域にあたり、安芸構造線より南側の四万十帯南帯のうち、北側にある室戸半島層群の奈半利川層の分布域となっています。
同地域の岩層は、砂岩と砂岩泥岩互層が主体となり、砂岩は厚さ4~5mの硬質な塊状を成します。砂岩泥岩互層は、砂岩優勢の互層から等量互層がみられ、風雨等により浸食された風化の著しい露頭も確認されています。
このように地質状況はよくありません。令和3年度の事業化ですので、現在、トンネルの岩盤調査や湧水調査を行っており、今後詳細を詰めていきます。
越知道路 1.2kmを残し完成
ケヤキ谷橋は拡幅・補強を施す
――越知道路について
森山 一般国道33号越知道路は、高知松山自動車道の一部を構成する路線のうち、高岡郡越知町における異常気象時事前通行規制区間の解消とともに、線形不良区間の解消及び、地滑り地の回避を図ることを目的として計画された延長約4kmの路線です。これまでに野老山(ところやま)地区(延長1.0km)は完成しており、越知地区(延長3.0km)の整備を推進しています。残区間のうち、バイパス区間(1.8km)については令和5年6月10日に開通したところであり、残る現道活用区間(1.2km)についても早期開通に向け、ケヤキ谷橋の補修・補強工事や改良工事を進めています。
ケヤキ谷橋施工状況/ケヤキ谷橋改良後のイメージ
――現道活用区間で橋梁はケヤキ谷橋以外、ありませんか
森山 ありません。拡幅と法面のみです。
――ケヤキ谷橋の補修補強について
森山 現在の同橋の構造は、昭和31年道示を用いて1963年に建設された橋長55.9m、幅員7mの鋼単純合成2主箱桁橋です。下部工は重力式橋台、基礎工は直接基礎を用いています。
現橋は、大型車のすれ違いが困難であることや、TL-20およびB活荷重に対して耐荷力が不足している事、地震時の水平力に対しても不足していることから、桁を下面からアーチで補剛するなどして補強し、合わせて拡幅を行うものです。
ケヤキ谷橋補修補強一般図(側面図)/拡幅図
――特徴的な構造物は
森山 計画ができているものでは、一般的なものしかありません。細幅箱桁橋でしたら、越知道路などで数橋採用しています。架設済み、もしくは供用済みですが、開断面の橋梁もあります。
例えば越知道路の横倉大橋(既に上部工完了済み)では橋長約200mの鋼3径間連続細幅箱桁、南国安芸道路の下井川橋では橋長28mのPC単純コンポ桁橋を採用しています。
上部工施工時の横倉大橋
――細幅箱桁の合成床版はありますか
森山 合成床版は基本的に少なくなってきています。非合成が多いです。
――防食上工夫している点は
森山 供用済みですが、越知道路の橋梁で耐候性鋼材を採用しています。具体的には、横倉大橋、立花大橋です。今後、施工するところではありません。
――エポキシ樹脂鉄筋の採用は
森山 下部ではあります。ランプ橋でも採用。具体的には、のいち国道橋、下井川橋、西分高架橋、赤野高架橋(A1-P5)などで採用しています。
下井川橋下部工施工状況、エポキシ樹脂塗装鉄筋を採用している
施工中橋梁一覧
施工中トンネル一覧
設計中橋梁一覧
設計中トンネル一覧