道路構造物ジャーナルNET

災害で改めて感じたダブルネットワークと4車線の大切さ

九州地整 災害からの復旧や地域の再建に大きな使命

国土交通省
九州地方整備局
前 道路部長

沓掛 敏夫

公開日:2021.07.16

塩害 判定区分Ⅲは16橋、ASR 判定区分Ⅲは23橋
 愛野大橋 胸壁だけでなく下部工や壁部でもASR

 ――九州地方整備局では塩害及びASRによる損傷が出ている個所はどの程度ありますか
 沓掛 平成26年度~30年度までの1巡目の点検結果によりますと、塩害は50橋で見られ、健全度判定区分の内訳はⅠが10橋、Ⅱが24橋、Ⅲが16橋となっています。ASRは138橋で見られており、判定区分Ⅰが48橋、Ⅱが67橋、Ⅲが23橋、となっています。
 国道10号など海岸部にある箇所や、山岳部の融雪剤を大量に散布する箇所で、そうした損傷がいくつか出ております。塩害事例の例を挙げますと、延岡河川国道管内の国道10号に架かる砂田橋(RCT桁)で、主桁の下部に剥離や鉄筋露出が生じており、今後断面修復工を施工する予定です。

塩害による損傷事例

ASRによる損傷事例

 ASRの例を挙げますと、長崎県内の国道57号愛野大橋の橋台後ろ側の胸壁の部分でASRを要因とするひび割れが生じており、こちらも断面修復工を実施する予定です。
 ――愛野大橋では、他の部位でも同じ骨材で造ったコンクリートを使用していませんでしたか。使用しているとすればどのような健全度であると判断されておられるのでしょうか
 沓掛 愛野大橋の診断結果は健全度Ⅲとなっています。ご指摘の通り、ASRが疑われる損傷は胸壁以外にも、下部工柱部や壁部にも見られました。コンクリート床版部についてはASRが疑われるひび割れ等は確認されていません。

塗替え 今年度は21橋21,000㎡で実施
 新高良川橋では塗膜剥離剤を7回塗布して塗膜除去

 ――2020年度の鋼橋塗り替え実績(橋数と面積)と、2021年度の鋼橋塗り替え予定(同)は。また塗り替えの際の全体的・部分的な用途でもいいので溶射など新しい重防食の採用などについてもお答えください。また、PCBや昨年の厚生労働省・国土交通省から出ている2014年5月30日に出た文書をはじめとした一連の文書・通達を受けて、鉛など有害物を含有する既存塗膜の処理についてどのような方策をとっているのか教えてください
 沓掛 令和2年度は21橋約10,000㎡で鋼橋の塗替えを実施しました。令和3年度は21橋約21,000㎡で鋼橋の塗り替えを実施する予定です(右写真は実施例)
 塗膜に含まれる有害物対策としては、塗替え前に塗装履歴を示して発注し、工事着手前には成分調査を実施し、有害物質を含んでいれば湿式で既存塗膜を除去するという手法で施工しています。
 しかしながら、塗装をはがすのはなかなか大変で、福岡県内にある国道210号新高良川橋(橋長49.55m、1973年竣工、鋼単純合成鈑桁2連)では、湿式(塗膜剥離剤)で塗膜除去を行いましたが、平滑部でも3回、特殊部では最大で7回塗膜剥離剤を塗布し、ようやく剥がれました。

国道210号新高良川橋での塗膜剥離状況

 ――塗膜除去工については、厚労省の判断が変わる傾向にあり、さらには中部地方整備局や首都高速道路、NEXCOの一部のように循環式ブラストやIH工法を採用するケースも出てきています。九州地方整備局はそのような傾向をどのようにとらえていますか
 沓掛 今のところは湿式で施工していますし、当面はその方向で行きます。ただ、新高良川橋のように手間暇がかかりすぎることが予想される個所については、法令などに基づき、様々な手段を模索していきたいと考えています。

IH工法の施工例(北九州国道事務所管内)

耐候性鋼材採用橋は170橋 健全度判定区分はⅡが43橋、Ⅲが6橋
 供用(2014年)後、10年未満で腐食が生じた第二串良川橋

 ――耐候性鋼材を採用した橋梁で錆による劣化・損傷が報告されている事例が出てきていますが、整備局では採用事例が何橋あり、現状どのような健全度を示しているのか教えてください
 沓掛 耐候性鋼材採用橋梁数は管内全体で170橋あります。健全度判定区分はⅠが119橋、Ⅱが43橋、Ⅲが6橋、初回未点検が2橋となっています。
 東九州道の第二串良川橋では、主桁下フランジに相乗剥離を伴う腐食が生じています。原因は床版からの漏水で、早急に補修を行います。桁端部など水が溜まりやすい箇所で損傷が起きている事例は確かにあります。そうした個所については、耐候性鋼材といえども、予防保全的に塗装しておくことが大事であると考えています。とりわけ峠部においては、九州といえども多くの降雪が生じる地域もあり、昨年度は、凍結防止剤を散布した後に散水車を走らせた際、橋桁にも水をかけて塩を洗い流しています。

第二串良川橋における耐候性鋼材を用いた橋梁の損傷状況

 ――耐候性鋼材といえども水が溜まりやすい環境にある箇所において、予防保全的に塗装するということは橋梁の長期耐久性の向上に寄与すると思います。ただ、国交省からNEXCOに移管された鹿児島の飯牟礼橋(南九州道)では、一部で激しい腐食や孔食が生じています。耐候性鋼材の場合、いったん腐食が生じると、ブラストなどを施工してもなかなか錆は取り除けず、NEXCO西日本も苦労していますが、第二串良川橋ではどのような方策を考えていますか
 沓掛 補修方法については、これからです。まずは床版という根元の補修にしっかりと対応し、その後で腐食についても先行事例などを参考にしながら対策していきます。
 ――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、整備局として道路に面する斜面や、古い法面などをどのように補強・補修して道路を守っていくのか具体的な事例や計画などがございましたら教えてください。また具体的な要対策箇所数と進捗状況などについてもお答えください
 沓掛 先ごろ東日本高速が所管する常磐道で斜面が崩れた箇所がありましたが、あの被災状況を受けて、緊急点検、詳細点検を行いました。その点検の結果を見ると、九州はもともと地質が悪い箇所も多く、斜面が崩れたりすることもあり、のり面防災などは適宜行っています。
 ――要対策個所と実施済み箇所数を教えて下さい
 沓掛 要対策箇所数は1,075箇所(H8_道路防災総点検時点)で、このうち実施済み箇所数は809箇所(2021年3月末時点)となっており、進捗は約75%となっております。

新技術 橋梁点検で『ひびみっけ』を活用
 トンネル点検で『MIMM-R』や『MMSDⅡ』

 ――保全関連の新技術・新工法の実施例は
 沓掛 主に点検分野の技術を紹介します。筑紫野高架橋(PC箱桁)では橋脚などコンクリート部材のひび割れなどを点検する近接目視の代わりに、撮影画像によるクラック自動抽出技術を活用しています(下資料参照)

 また、先ほどお話しした愛野大橋では、近接目視や損傷図の作成を自動化できる社会インフラ画像診断サービス『ひびみっけ』を橋台や竪壁のひび割れ、剥離鉄筋露出、漏水・遊離石灰の自動検出、自動図化を行う技術として活用しています(下資料参照)

 国道3号湯治トンネル外では、延長1,166mの覆工コンクリートにおけるひび割れ、漏水などについて、従来の近接+スケッチから、走行型画像計測による変状写真展開図を作成できるMIMM-R/MIMMを活用しています。同様に東九州道の猪八重トンネルでは、延長4,858mの覆工コンクリートにおけるひび割れ、漏水などについて、走行型三次元計測とMMSD解析によりひび割れを自動抽出できるMMSDⅡを活用しています。

MIMM-R/MIMMの活用事例

MMSDⅡの活用事例

 ――直轄診断、直轄修繕代行について
 沓掛 最近では、上部工において、ASRや塩害などによる損傷が目立つ薩摩川内市の天大橋(PC橋)について直轄診断を行い、引き続き直轄による修繕代行も行っています。

直轄診断を行い、その結果直轄修繕代行に移行した「天大橋」

 ――呼子大橋でも直轄修繕代行を行っていますが、どのような状況でしょうか。呼子大橋では委員会が解散せず、風対策などにおいて経過観察をされているようですが
 沓掛 そうですね。呼子大橋は佐賀県唐津市からの要請を受け直轄修繕代行事業中であり、斜張橋のケーブル振動抑制対策効果について、ご指摘の通り経過観察を実施しています。結果が纏まり次第、委員会にてご確認いただくこととしています。
 ――ありがとうございました

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