道路構造物ジャーナルNET

災害で改めて感じたダブルネットワークと4車線の大切さ

九州地整 災害からの復旧や地域の再建に大きな使命

国土交通省
九州地方整備局
前 道路部長

沓掛 敏夫

公開日:2021.07.16

 九州地方整備局管内はここ10年、災害が度重なっている。熊本地震、2度にわたる九州北部水害、そして昨年7月に球磨川や玖珠川などを襲った水害。その都度、大変な努力を払って復旧ないし復興を図ってきた。まずは道路分野では最終盤を迎えている熊本地震からの復興について聞くとともに、これから本復旧・復興が本格化する昨年7月の水害への対応。そして、各災害でいよいよその必要性が増している高速道路の整備状況、そして維持管理上の課題について沓掛敏夫道路部長(取材当時、7月1日で本省高速道路課長に異動)に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

大規模災害復興法を初適用して国が権限代行
 北側復旧ルートの二重峠トンネルでは、ECI方式を採用

 ――熊本地震に関する道路の概成状況と昨年7月に起きた熊本や大分豪雨への対応、主要道路事業の進捗状況からお答えください
 沓掛部長 九州の気象条件や地形条件から、近年は大規模災害に頻繁に見舞われています。今年は九州南部の梅雨入りも例年に比べて19日も早くなっています。梅雨の前半は九州の南側で被害が出やすく、後半は北部で被害が出やすくなりますし、特に偏西風の影響を受けた時は、九州の西側で被害が出やすくなります。球磨川の水害やその前の熊本地方を襲った水害はまさにその影響といえます。線状降水帯がとどまってしまい水害となるものです。そして秋になると今度は台風が上陸し、台風の渦の関係で宮崎や大分など九州の東側に風水害を生じさせます。ここ数年は、程度の差はあれ毎年災害が生じています。そういう意味では4月や5月は、豪雨災害などは比較的少ないのですが、そこに5年前、4月に生じたのが熊本地震でした。そうした災害からの復旧や地域の再建が我々としても大きな使命であると感じています。

熊本地震による阿蘇大橋の崩落

 熊本地震は2016年4月14日に前震、同16日に本震がそれぞれ起き、国道57号が寸断され、国道325号の阿蘇大橋が崩落し、その他にも少なくない数の橋も大きな被害を受けるなど、直轄だけでなく自治体が管理する道路も大変な被害でした。元々、阿蘇大橋は補助国道でしたので、すぐに国が権限代行で復旧を担うことになりましたが、県道以下のレベルの道路、俵山トンネルなどがあった県道や阿蘇長陽大橋などがあった村道は、東日本大震災の教訓を経て制定された大規模災害復興法を初適用して国が権限代行して災害復旧に当たりました。まずは俵山ルートを暫定復旧(2016年12月)させて、阿蘇長陽ルートを2017年8月に応急復旧し、2019年9月には俵山ルートが全面開通。2020年の10月3日には現道の57号と、北側復旧ルートを同時に開通した時は、住民の皆様に大変喜んでいただきました。2021年3月には新阿蘇大橋が開通して、ようやく5年で復興の大きな節目を迎えたと感じています。ここに至るまで地元の建設業の皆さまの献身的な努力と大手建設業の皆さまの高度な技術、何よりも用地などに関して、地域の皆さまに甚大なご協力をいただいたことが、5年という短い期間で節目を迎えることができた力であると感じています。

新阿蘇大橋
 工期の短縮を図るため、様々な工夫をしました。北側復旧ルートの二重峠トンネルでは、ECI方式を採用し、施工業者が設計の段階から関与することによって、非常に早い段階から、設計と作業を並行で行ったものですから、それだけでも工期は縮まりましたし、最初から設計に関与していましたので、例えば工事用道路の場所や入り方なども設計段階から注文を付けることが出来、施工開始と同時にスタートダッシュが切れ、工期短縮につながりました。トンネル掘削自体も、5断面で掘削していったということもあって、1年以上工期を短縮することができました。
 災害が起きるたびに被災する道路ではなくて、災害が起きたときに迅速な復旧に貢献する道路を作ろうということで、新阿蘇大橋で推定活断層がある箇所は、単純桁にして飛ばすことで、大きな被害を受けないような、被害を最小限にできるような工夫を施しながら復旧に当たりました。


阿蘇工区側坑口/大津工区側坑口

新阿蘇大橋 施工にはインクラインを採用して効率的に資材搬入
 戸下大橋の本復旧に際しては基礎をもう一本打設

 ――新阿蘇大橋は柱状節理という非常に難しい岩質でしたが、よくもこのような短期間で供用できましたね
 沓掛 崩す部分は最小限にとどめ、施工にはインクラインを採用して効率的に資材搬入するなど随所に工夫して施工を進めました。新阿蘇大橋の供用後の交通状況は、1日12,700台(平日)で、被災前と比べると1割程度増加しています。

新阿蘇大橋の架替え位置と橋梁概要

インクラインを使って施工/完成した新阿蘇大橋

 ――道路線形もよくなりましたし、かなり短絡化されましたよね
 沓掛 橋長は若干長くなりましたが、線形はかなり良くなりました。
 ――阿蘇長陽大橋が落橋しなかったことが、新阿蘇大橋の橋梁形式を決めたようですね
 沓掛 そうですね。阿蘇長陽大橋から新阿蘇大橋を見ると非常によく栄えて観光にも一役買っています。阿蘇長陽大橋を含む村道ルートでは戸下大橋が現状では仮橋の部分(P4-P6間)があり、これを本復旧するために、一部区間を通行止めにして施工することを始めています。

 戸下大橋の本復旧に際しては基礎をもう一本打設し、仮橋を撤去して本復旧桁を架設します。規制は今年度末を予定しています。桁形式はPC(PCプレテン単純中空床版桁10m+PCプレテン単純T桁20m)で施工する予定です。施工時期はP5-P6が9月中旬、P4-P5が10月中旬を予定しています。

球磨川流域で道路橋10橋が被災 直轄権限代行 
一部仮橋で復旧 8月11日にルートを啓開

 ――昨年7月の水害に対する対応はいかがなってますでしょうか。私も取材しましたが、球磨川や玖珠川流域の護岸や道路橋梁の被害は甚大なものがありました。球磨川では10橋が流され、玖珠川では新天瀬橋などの橋梁が流失しました
 沓掛 実は、私は昨年6月27日に道路部長に着任して、1週間でこの災害に対応することになりました。
 まず球磨川流域ですが、河川両側100㎞に及ぶ道路と河川に架かる道路橋10橋が被災し、これを権限代行で復旧はしていくことが決定しました。奇しくも昨年5月の改正道路法で権限代行の適用の幅が広がったのですが、それが初めて適用された事案でした。被災からすぐに、国道219号を含めて、球磨川沿いを一気通貫で緊急車両が走れるようにしようと復旧に取り組んだ結果、8月11日には一気通貫のルートを啓開することができました。

球磨川流域は大きな被害に見舞われた(右写真は井手迫瑞樹撮影)

相良橋の落橋した桁/現在では仮橋がかかっている(井手迫瑞樹撮影)

沖鶴橋の被災状況(井手迫瑞樹撮影)

 10橋流された橋のうち、基礎に影響を受けておらず、両側に集落があるようなところは、仮橋を付けて早く渡れるようにしようということで、西瀬橋は基礎の被害が軽微であったということと、同橋が小学校の通学路であり、この橋を使うルートでなければ、子供たちを大きく迂回させなければいけなかったので、整備局が保有していた応急組立橋を持って行くことで、9月4日には仮復旧しました。現在は国道219号と対岸の県道や村道の応急復旧、加えて渡河する橋梁が一定距離以上ないと、大きく不便が生じてしまうことから、西瀬橋と同じように基礎や橋脚がしっかりしていて、両岸に集落があるようなところ、鎌瀬橋と相良橋、坂本橋の3橋については仮橋をかけて仮復旧しました。


西瀬橋の仮橋設置状況(上)と設置された仮橋の上を歩いて登校する子供たち(下)


坂本橋(左:位置図及び復旧進捗状況、右:仮復旧直前の坂本橋(井手迫瑞樹撮影))

 ――坂本地区は集落の方針も決まったみたいですね
 沓掛 3mかさ上げするという方針を決められました。
 相良橋が5月21日、坂本橋と鎌瀬橋が5月28日にそれぞれ仮橋をかけて復旧しました。

これまでの豪雨をはるかにしのぐ降雨量
 流出橋架替え 地元の方々も親しんできた景観を考慮

 ――今後は
 沓掛 令和2年(2020年)7月豪雨は、これまでの豪雨をはるかにしのぐ降雨量がありました。そのため河川計画と一体となって道路の復旧に臨まねばならないと考えています。そこは地域の街づくりとも関りがありますので、例えば地盤のかさ上げなどがありますが、そうした対応と連携しながら、我々としても復旧道路の高さなどを検討して復旧していきます。それと並行して初めて本復旧の橋の検討を進めていきます。橋梁も流された状況を解析すると、橋梁の架設地点がちょうど水衝部に当たり、大雨時に危険な場所があったりしたものですから、利便性を阻害しない範囲で架設地点をずらすようなことも考えています。橋梁構造も、球磨川の緑の深いところにトラス橋やアーチ橋が架かっていたという経緯がありますので、景観性も含めた地元の意見を反映しながら形式を決めていこうと考えています。

 ――県管理橋梁はともかく、基礎自治体が管理する橋梁でアーチやトラス形式を用いるのは、その後の維持管理負担でも厳しいという声もありますが
 沓掛 斜張橋など吊り材を要する橋梁であればそうしたことも言えますが、被災前と同じ形式の橋梁であれば、被災前まで基礎自治体が管理してきたわけですから維持管理上の負担が大きく増加することにはならないと思います。それに地元の方々も親しんできた景観が大きく変わることは望んでいないと思います。

 ――今回の水害では橋脚や橋台などの洗堀による倒壊も目立ちます。これは今次の水害だけで引き起こされたわけではなく、もともと洗堀が進行していたのではないか? という指摘もあります。新しい橋梁を作る場合に水害を考慮した基礎の選定は考えていますか
 沓掛 有識者から意見をいただいて決めていきたいと考えています。今次の水害ではどういうメカニズムで落橋したかという検討はしていただいており、水位の上昇により上部工のトラス桁に流木などが引っかかって、水圧で引きずられるように落ちたところもあります。原因を分析しながら橋脚に影響があったとすれば、どのように対策すれば避けられるのか、対策も求めていきたいと考えています。特にここは人吉地層という特殊な地層があります。見せかけは強いのですが、岩が一旦緩むとどんどん緩んでいってしまう地盤であるということは聞いていますので慎重に意見交換しながら対策を決めていきます。
 ――基本的には河川内にできるだけ橋脚を作らずスパンを飛ばすという形になりますか
 沓掛 それも一つの案であると思います。
 ――スケジュール感ですが、熊本地震は5年でおおむね復旧できましたが、球磨川の現場はどのように考えていますか
 沓掛 スケジュール感は示せる状況にありませんが、できるだけ早く不便は解消していくよう努力します。

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