橋梁耐震や大鳴門橋の作業車改造なども着々と進む
2020年新春インタビュー 本四高速鳴門 塩害、鋼床版疲労など様々な対策必要
本州四国連絡高速道路株式会社
鳴門管理センター
所長
磯江 浩 氏 氏
床版防水は8割で設置完了
グレードⅠが基本、地覆部はグレードⅡ
――床版防水の施工状況について
磯江 管内対象橋梁数の約80%が完了しています。
――グレードは
磯江 基本的にはグレードⅠです。
床版防水の施工
――交通量が多いのでグレードⅡは考えないのですか
磯江 NEXCOではグレードⅡが標準になっていますが、費用と施工時間の課題がありますので、グレードⅠで施工しています。
――飛来塩分による床版の損傷はありませんか
磯江 ないです。
――擦り磨き現象が生じている劣化もないですか
磯江 ないです。どうしても施工不良はあるので、鉄筋のかぶり厚が少ないところで、床版上面に浮きがでてきている橋梁も少しはありますが、ひどい損傷のところはありません。基本的には、断面修復を行いグレードⅠで施工しています。
――地覆部は
磯江 基本的にグレードⅡとしています。
――地覆部はポリウレタンで行って、床版は塗膜系やシート系の防水工を行うということですね。一番損傷するのは排水桝の縁(排水枡?)ですが、その部分は
磯江 グレードⅠです。グレードⅠを巻上げておき、アスファルト系の乳剤で塗って、シームをなくしています。
特定更新の対象橋梁については、最初からグレードⅡで施工しています。
――本四は、地覆に隣接する縁石がある構造ですか
磯江 ありましたが、全て撤去しています。
伸縮装置は劣化部を取替
――支承および伸縮装置の取り替えについて
磯江 支承取替は単独では行っていません。耐震補強の関係で構造系を変える場合に支承の取替えは行いますが、支承が悪くなって取り替えた事例はありません。
伸縮装置は劣化した部分は取替えています。今年度発注をしていますが、志知高架橋で鋼製から鋼製に取り替えます。過去には、トランスフレックスジョイントでゴムが劣化して、中の鉄板が飛び出る事故がありましたので、すべて撤去して、簡易鋼製などに更新しています。
トランスフレックスの損傷
――大型のジョイントで、溶接している歯の部分が欠けるような事故がありましたが、そのようなタイプは
磯江 亀浦高架橋にマウラージョイントがあって、溶接部分が切れた事象があったので、平成29年度に鋼製櫛型に取替えています。
マウラージョイントの変状
鋼橋塗替え 2018年度は2,500m2強で実施
大鳴門橋、門崎高架橋、撫養橋では局部補修塗装を随時実施
――2018年度の鋼橋塗替え実績と2019年度の予定は
磯江 2018年度は、第二伊毘高架橋(1A-2P間、延長42m)で下地処理工・塗替塗装工2,515m2を実施しました。2019年度の塗替予定はありません。ただ、大鳴門橋、門崎高架橋、撫養橋では局部補修塗装を随時実施しています。
――撫養橋の塗替えは
磯江 まだ行っていません。
――建設は1988年で約32年経過している海上橋ですが
磯江 構造がそれほど複雑でないことがあると思います。また、潮風がそれほど吹きつけない場所に架橋していることも影響していると考えられます。さらに、重防食塗装です。
――第二伊毘高架橋の塗替え理由は
磯江 過去に塗替えを1回行っていますが、無機ジンクの箇所が凝集破壊で塗膜が剥がれる変状が発生して塗替え塗装を行うことにしました。
――今回はブラストでの施工ですか
磯江 そうです。第二伊毘高架橋の前には第六伊毘高架橋も塗替えを1回行っていますが、凝集破壊で変状が発生しました。鉛を含有していたため、湿式ブラストを行いました。
――PCBや鉛・クロムなどの有害物質を含んだ塗膜はありますか。あった場合どのような方法で塗膜を除去していますか
磯江 伊毘高架橋・孫崎高架橋の下塗りに鉛が含有しています。第六伊毘高架橋の塗替塗装、孫崎高架橋主桁下フランジの部分補修の際には、湿式ブラストや塗膜剥離剤を用いた塗膜除去を実施しています。
――塗替えの際の溶射などの新しい重防食の採用は
磯江 塗替塗装での採用はありません。門崎高架橋作業車レール補修、伊毘高架橋・門崎高架橋支承補修では使用しています。
溶射を用いた防食の実施例(第六伊毘高架橋支承部/門崎高架橋架設作業レール)
塗替えではありませんが、孫崎高架橋では、上下合わせて14主桁の鈑桁橋であり、塗り替えに大きなコストを要するため、それを削減することと維持管理性の向上を図り、チタン製のカバープレート(『NSカバープレート』)を採用し桁全面を覆いました。
NSカバープレート設置前の孫崎高架橋
NSカバープレート設置後の孫崎高架橋(井手迫瑞樹撮影)
――耐候性鋼材を採用した橋梁は
磯江 ありません。
新技術 赤外線サーモグラフィを用いた鋼床版疲労き裂の検出
――新技術・新材料の活用は
磯江 先ほどの、TRSを用いた鋼床版疲労き裂当板補修や、赤外線サーモグラフィを用いた鋼床版疲労き裂の検出があります(右写真群)。
――赤外線サーモグラフィの活用というのは
磯江 Uリブとデッキプレートを溶接していますが、ここの温度を測定します。貫通亀裂がなければ、温度が徐々に下がってきます。しかし、ここに貫通亀裂があれば、温度ががくんと下がります。この温度変化をみて、疲労き裂の有無を計測しています。
――計測する際に温めるなどするのですか
磯江 路面温度が伝わってきますので、夏場などの路面温度が上がる時期に調査を行っています。塗膜割れがなくても温度変化が出ます。
――磁粉探傷試験などでは塗膜割れがあると正確に把握できないと言われているので、それは長所ですね
磯江 検査時に溶接ビートに塗膜割れがあれば、塗膜を除去して磁粉探傷を行ってき裂を確認しますが、これは赤外線で測ればわかります。
赤外線による鋼床版の疲労損傷検出方法
――(近接目視との)一致率は
磯江 ほぼ100%です。温度変化があるところに行くと、き裂があります。ただ、温度変化がないところを調べに行くことはありませんから、そこはわかりません。あくまでも、ビード貫通き裂なので、まだ貫通していないものはわかりません。
――それでは、赤外線サーモグラフィだけでなく、従来の磁粉探傷なども使っているのですか
磯江 赤外線サーモグラフィでき裂の有無はわかるので、その後に塗膜を除去して磁粉探傷を行って、き裂の起終点を確認して、必要であればストップホールなどの対策を行っています。
塩分環境が一番過酷な鳴門管内
検査路防食も順次SGめっきに変更
――今後の管理・保全上の課題などがありましたら
磯江 管内は本四のなかでも塩分環境が一番過酷ですので、塩害対策が重要になっています。大鳴門橋でも塗替えをして弦材は塗膜がそんなに損傷していませんが、添接部や塗膜がきれいに塗れていない箇所は錆が出てきます。そのような箇所の補修を継続して行わなければなりません。
検査路などの橋梁付属物も損傷が進んでいて、その修繕も課題です。亜鉛めっきの検査路の更新は、SGめっきに変更しています。
――FRPやアルミ検査路もありますが
磯江 FRPはかなり以前に本社が大鳴門橋で部分的に試験施工をしています。ボルトで固定した箇所に割れが出たこともあって、本四としては現在のところ、FRP検査路を積極的に採用する方向になっていません。ただ、暴露試験を行って、継続的に調査しています。
――アルミ検査路は
磯江 現時点では考えていません。
――課題は費用面ですか
磯江 そうです。また、作業車関係が多いので、長く使うためのメンテナンスも重要です。橋梁本体も腐食環境が厳しいので、適時適切な補修をしていかなければなりませんが、それを行うために必要な検査路や作業車といった付属物も同じように維持していく必要があります。
門崎高架橋の例ですが、作業車が走るH型レールが腐食して断面欠損してくるので、レールを維持するために溶射をしています。
――どのような溶射を
磯江 亜鉛アルミ合金溶射です。
――先ほどの耐震補強の工期の話ですが、橋脚数が多く、池や高力ボルトの課題、さらに人手の問題があるなかで、発注側として考えていることは
磯江 今回の工事ではあまり高力ボルトを使用していないので、そこは心配ないと思います。人手も大林組で手配をかけていると聞いています。ただ、池の工期の問題はありますので、通常の工法で無理ならば別の工法を考える必要があると思います。
――ありがとうございました
(2020年1月1日掲載)