8,260橋の点検を完了 健全度Ⅲが11%、Ⅱが82%
疲労、塩害が大きく損傷を助長
――所管構造物の管理状況について、点検を進めてみての管内各路線の劣化状況について教えてください
安達 橋梁については、2018年度末までに8,194橋の点検を実施しました。その結果、健全度Ⅳはなく、健全度Ⅲが11%、Ⅱが82%、Ⅰが7%という結果でした。
経過年数の増加に伴う老朽化の進展、大型車交通による疲労の影響、海岸線通過路線の飛来塩分、塩化物総量規制以前に海砂を使用して建設された橋梁における内在塩分、凍結防止剤散布の影響など厳しい使用環境により変状が発生しています。
桁端部の損傷例(上写真は四国支社管内)
――Ⅲが少ない一方で、Ⅱが8割を超える状況をどう見ますか。また部位的な傾向は
安達 Ⅲについては床版部を中心とした上部工が特に多くなっています。またⅡの多さについては手放しでは喜べず緊張感を持たなければいけないと考えています。橋梁の設置個所に応じて進行しやすい部位は違いますから、損傷要因や劣化が起きやすい部位を橋梁ごとに見極めて、損傷度合いに応じて優先順位を決めていき補修を進めていこうと考えています。
852チューブの点検を完了
健全度Ⅲが5割弱に達する
――トンネルは
安達2018年度末までに852チューブの点検を終えました。その結果、Ⅲが46%、Ⅱが53%、Ⅰが1%となりました(いずれも小数点以下切り上げ)。
トンネルについてはⅢ判定が多くありますが、覆工面に生じた浮き・剥離が膨大にある状況です。しかし、いずれもトンネル本体構造に問題が多いものではありません。
ただ、一部のトンネルにおいては、地中の湧水や地下水を起因とするトンネル周辺地山の風化、劣化による強度低下や吸水膨張によるトンネル周辺の土圧の増加により、路面の隆起や覆工のひび割れなどの変状も見られています。明神トンネル(高知道)では地山が長期的に強度低下を示す岩種や膨張性を示す岩種において盤膨れによる変状が顕在化しており、大規模更新事業の一環として対策を進めています。
明神トンネルにおける大規模更新の対策状況
橋梁耐震補強は6割が完了
落橋防止装置や橋梁耐震工法の標準化を進める
――耐震補強の進捗状況は
安達 管理する全体橋梁資産のうち約60%において対策が完了しています。
大規模地震の発生確率が高い地域では、2021年度までに落橋・倒壊の防止対策に加え、路面に大きな段差が生じないよう、支承の補強や交換等を行う対策の完了を目指し、現在、設計や工事を進めています。
――残っている橋梁の進捗は
安達東京オリンピック関連工事などで、施工における人手も設計も厳しい状況であり、落橋防止装置や橋梁耐震工法の標準化を何とか進めていきたいと考えています。落橋防止装置に関しては、ブラケットタイプで桁を抑える構造であったり、横桁的に当てる構造であったり、鋼製部材を中心に施工していきたいと考えています。
――落橋防止装置の設置状況は
安達 現在設計を進めており、設計が完了した橋梁から順次対策を進めていきます。
ロッキングピア対策は今年度完了
今後はロッカーピア50橋の対策進める
――ロッキングピアやロッカーピアの対策については
安達 ロッキングピアの高速道路の本線橋の対象は89橋であり、橋脚をコンクリートで巻き立てして壁化し、上部工との剛結化を図る工法を標準として耐震対策を行っています。2019年度内に完了する予定です。
補強前後のロッキングピア
ロッカーピアについては、約50橋が対象となっており、現在照査設計を進めています。対策工法としては両ヒンジとも剛結する、ロッキングピアと同様の工法を採用する方針です。構造的には面構造で上下にヒンジがあり、曲げをヒンジに逃がしているので、壁の厚さも非常にスリムな構造であることから、速やかに対策を図っていきます。
今後はロッカーピアの補強も必要だ
長大特殊橋の耐震補強は約100橋が対象
四国支社管内でまず対策を開始
――長大・特殊橋の耐震補強の進捗状況は
安達 特殊橋については、約100橋が対象で設計が完了した橋梁から順次工事発注を進めており、現在、四国支社管内の高知自動車道の曽我部川橋(鋼トラス橋)を始め、6橋(上下線別)の工事を進めています。長大・特殊橋の耐震補強については、今後10年を目途に対策を完了させたいと考えています。
以前(2013年)に耐震補強した阪和道の大規模鋼π型ラーメン橋(井手迫瑞樹撮影)
曽我部川橋
入野橋
――現下の状況では、まず入札に参加してもらえるかが課題ですね
安達 あまり人気のある工種でないことは確かです。課題として感じています。
大規模更新 19年度は施工中が40橋、発注済みが40橋
技術提案・交渉方式で最適な工法の導入図る
――大規模更新・大規模修繕事業のここ数年の実績と今後の予定について詳細に述べてください。また、発注の工夫、施工上の対策、新技術・新工法の活用について、現場ごとに行っている対策を詳細に述べてください
安達 2018年度末までに、床版取替は5件40橋、トンネルインバート設置工事は1件(Ⅰチューブ)で完了しています。
2019年度は、施工中が床版工事6件(40橋)、トンネルインバート設置工1件(Ⅰチューブ)、発注済みが床版取替工事4件(約40橋)です。
大規模更新で施工中・発注済みの橋梁一覧(クリックで拡大して見てください)
発注の工夫、施工上の対策ですが、大規模更新事業を進めていくためには、長期間の交通規制や車線切り替えなどの交通運用が必要になることから、特に迂回路となる他道路管理者とは工事実施時期などについて綿密な事業調整を図らねばなりません。また、場合によっては、一定期間終日通行止めなども必要となる可能性があり、大規模な交通渋滞も予想されることから、工事計画が具体になった段階においては、事前広報をきめ細やかに行い、社会的影響の最小化に努めています。
一部では床版だけでなく桁取替も行っている(写真は中国道福崎新高架橋)
沖縄道の床版取替
寺河内橋における床版取替
技術的難易度が高く、通常の工法で施工条件を達成しえないリスクが大きい工事では、発注者側において最適な工法の選定が困難であり、施工者独自の高度で専門的な工法などを活用することが必要であるため、技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)を2017年10月から導入しています。技術提案・交渉方式では、技術提案に基づき選定された優先交渉権者と設計業務の契約を締結し、設計過程で価格などの交渉を行い、成立した場合に工事契約を締結します。
――発注規模が大きくなるほど、ゼネコンが受注するケースが増えていますが、ゼネコンと橋梁ファブとの垣根はどのように考えますか
安達 確かにゼネコンが受注するケースが増えていますが、ファブ同士がJVを組んで契約するケースも結構あります。偏りが無いようにバランスよく契約して行ければいいと思っています。ただ当社としては各社が有する技術をうまく活用して頂き、良好な品質を確保しつつ、社会的影響がミニマムになるような受注者を選定していきたいと考えています。