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合成桁の桁上床版切断で「走行台車付きダブルワイヤーソー工法」を初採用

NEXCO中日本 東名高速 所領橋で約2,070㎡の床版を2カ月半で取替え

公開日:2023.04.17

合成桁部は550t吊クレーンをA2側に設置して施工
 新設床版は1日あたり5枚を架設

 床版取替は、合成桁部が550t吊オールテレーンクレーンをA2側に設置して、非合成桁部が160t吊オールテレーンクレーンでP3からA1に向かって施工した。合成桁上は耐荷重の関係でクレーンを据え付けることができなかったため、A2側から支間38mの施工ができる能力を有するクレーンとして、550t吊クレーンの採用を決定している。
 床版取替工のための補強として、支点間に主桁下フランジの当て板補強と部分的な横構の設置に加え、鈑桁部では横桁の設置も行い、施工に臨んだ。


新設床版架設概要図

(左写真)左側がA2(東京)側の合成桁部。新設床版が架設されているのが非合成桁部(清水建設提供)
(右写真)A2側に設置された550t吊オールテレーンクレーン(撮影=大柴功治。以下、撮影=*)

新設床版割付図

 合成桁部では舗装切削後、橋軸方向4mに切断した壁高欄を先行撤去してから、桁間の中間床版と張出床版を撤去していった。中間床版の標準的な撤去サイズは、橋軸方向4.5m×橋軸直角方向1.8m(重量5.2t)で、その数は67ブロックとなった。あわせて、前述の桁上床版の撤去作業を進めて、上フランジの研掃と塗装を行っている。既設床版撤去の作業日数は19日だった。


既設床版の切断と増桁部の床版撤去作業

 新設床版の架設はすべての既設床版の撤去が完了してから開始している。施工方法は、まず1日の架設枚数である5枚を本線上の仮置きヤードからトレーラーでクレーン後部に運び込み、クレーンで吊上げて90度回転させた後、路肩とクレーンの間をすり抜ける形でクレーン前面に5枚を移動させている。その後、架設する1枚を約1mの高さに吊上げて前方移動して所定位置に設置していった。架設枚数は15枚で、3日間で施工を完了している。
 合成桁部はJR御殿場線と交差していたため、クレーン旋回時の安全対策としてレーザーバリア警報監視システムを設置したほか、作業中は線路脇に見張り員を配置して施工の万全を期した。



新設床版の架設(撮影=*)

 新設床版は、標準版で橋軸方向2.2m×橋軸直角方向13.17m、厚さ220mm、重量16.6tで、川田建設那須工場で製作を行い、現場まで陸送した。鉄筋は、防食のために床版内および接合部ともにエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用している。なお、壁高欄や場所打ち部もすべて同鉄筋とすることで防食性の向上を図った。

非合成桁部 桁上のケレンと塗装を1日の最終工程とすることで時間のロスを防ぐ
 1日に4~5枚、合計59枚の床版を架設

 非合成桁部の施工では、合成桁部と同様に壁高欄を先行撤去した後、既設床版を橋軸中央から2分割で切断、剥離して、160t吊クレーンで1日あたり10~12ブロック(床版枚数では5~6枚)を撤去していった。撤去サイズは橋軸方向2m×橋軸直角方向約5.5m、最大重量は約7.3tで、総数は137ブロックとなった。


既設床版の撤去作業

 非合成桁部のみでも施工延長は132mあり、合成桁部の施工および前述の資材搬入路の制限があったためにクレーン2台を用いて中央部から両端に向かう両開きでの施工ができず、クレーン1台での施工となった。
 そのため、1日の工程でも時間ロスを防ぐ工夫を行っている。既設床版撤去後には桁上のケレンと塗装を行っていくが、「塗装の乾燥時間が工程上響いてくる」(清水建設)ことから、桁上のケレンと塗装を1日の最終工程とすることで、夜間に塗装が乾燥するようにしてその時間のロスを防いだのだ。具体的には、朝からソールスポンジ設置⇒新設床版架設⇒既設床版撤去⇒桁上のケレン・塗装の順で施工を進めた。


桁上のケレンと塗装作業

 新設床版は1日あたり4~5枚を架設していき、合計59枚を施工した。同橋の横断勾配は2.797%~-2.439%と変化していて、架設時の高さ管理が難しくなることから、床版の設計段階でハンチ部の高さを変えて事前に勾配調整を行っておくことで、施工時の高さ管理の省力化を図っている。また、斜角も約59度を有していたが、可能な限り標準版を多くすることで架設時の効率性を高めている。非合成桁部59枚のうち、標準版は46枚、調整版は13枚とした。


新設床版の架設

新設床版架設後(撮影=*)

床版接合はKK合理化継手を採用
 打設では仮設の屋根を設置して雨天時でも施工可能に

 新設床版の接合には、「KK合理化継手」(川田建設特許保有技術)を用いた。同継手はナット付き鉄筋と橋軸直角方向鉄筋で構成され、接合面にせん断キーを有する構造で、間詰め部配筋の鉄筋の横取りが不要になるなどの施工性に優れている。また、従来のループ継手と比較して床版厚を薄くできるとともに、間詰幅も小さくできる(本現場での間詰幅は280mm)ことから、その採用を決定した。


継手は「KK合理化継手」を採用した(撮影=*)

 間詰部は、膨張剤(太平洋ハイパーエクスパン)20kg/m3を添加した早強コンクリートを用い、強度50 N/mm3、スランプ12cmで打設した。
 打設にあたっては、単管で組み立てた仮設の屋根を設置して作業を行うことで、短工期のなかでの雨天などによる工程遅延を防いでいる。冬期の打設となるため、コンリートが冷害を受けないように養生にも配慮した。湿潤マットを敷設後に、仮設屋根内にジェットファーネスで温風を送気して、養生期間も通常の倍である10日間としたのだ。


間詰部の打設

仮設屋根を設置して打設と養生を行った/ジェットファーネスで温風を送気(撮影=*)

打設高さと平坦性の管理では3Dスキャン計測システムを利用
 プレキャスト壁高欄はDAK式壁高欄を採用

 場所打ち部は両端部の173㎡で、間詰部と同様のコンクリートで打設している。打設時には、3Dスキャン計測システム(3Dサーフェス)を利用して、高さと平坦性の管理を行うことで、施工精度と品質の向上を図った。同システムは設計値との差分や変位量をメッシュの色により現場で視覚化できるので、作業員が個々に測量するよりも施工性の向上にもつながった。


場所打ち部(左写真=*)とその打設状況

高さと平坦性の管理では3Dサーフェスを活用

 壁高欄はプレキャスト壁高欄であるDAK式壁高欄を採用し、現場作業の省力化と工程短縮を実現している。
 施工は間詰めコンクリートの養生完了後に、13t吊クレーンを用いて1基橋軸方向4mの同高欄を1日あたり約10基、合計74基を7日間で設置している。また、壁高欄上の遮音壁は「富士山が見える区間でもあるので、透光板を採用した」(NEXCO中日本)。


DAK式壁高欄の架設

遮音壁は景観に配慮した。右写真は左ルートの遮音壁(撮影=*)

非合成桁部の床版取替完了

 床版防水は高性能床版防水工法(グレードⅡ)を採用し、マスターシールRブリッジ5100で施工した。舗装は基層がFB13、表層は高機能舗装Ⅰ型となっている(本工事とは別発注。施工はNIPPO)。


床版防水工完了/舗装工完了(施工完了写真)

 足場は、A1~P3は「クイックデッキ」(2,460㎡)、P3~A2は「SKパネル」(538㎡)を採用している。清水建設が足場施工を担当したクイックデッキについては、最大吊チェーンピッチが2.5m×2.5mとなっているために足場内の施工性が良いことに加え、最大積載荷重が350kg/㎡で通常足場よりも大きいことから、その採用を決定したという。


「クイックデッキ」外観と内部

 床版取替工事後は、本工事で支承取替(21基)や塗替え塗装(約9,680㎡)を実施していく。塗替え塗装では既設塗膜に鉛の含有が確認されていることから、塗膜剥離剤(リペアソルブS)を使用して除去した後、循環式ブラスト工法で素地調整を行っていく。

3Dモデルで関係者と工程共有
 VRにより施工の疑似体験をすることにより安全面の周知を徹底

 本工事では施工計画の検討や安全教育に3DモデルやVRを活用した。まず、3Dモデルで工事全体の流れを視覚的に把握できるシミュレーション動画をつくり、関係者との工程共有に役立てている。さらに、クレーン施工では、旋回時の照明柱の位置や交差する電車や左ルートの走行車両からの目線などをVRで事前に疑似体験することにより、「安全面の周知が早く効果的に行えた」(清水建設)という。



3Dのシミュレーション動画で工程共有と安全面の周知を図った

 元請は、清水建設。一次下請は、川崎技興(撤去・架設工)、ベステムサービス(既設床版・壁高欄切断工)、日本スタッドウェルディング(スタッド工)、佐藤組(クレーン工)、サンコーテクノ(アンカー工)。

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