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合成桁の桁上床版切断で「走行台車付きダブルワイヤーソー工法」を初採用

NEXCO中日本 東名高速 所領橋で約2,070㎡の床版を2カ月半で取替え

公開日:2023.04.17

 NEXCO中日本東京支社は、東名高速道路大井松田IC~御殿場IC間の下り線右ルートに位置する所領橋の床版取替工事を本年1月から3月にかけて実施した。橋長約170mの同橋の床版全面約2,070㎡の施工を右ルート閉鎖期間内の2カ月半で完了しなければならず、さらに1径間(38m)が合成桁で撤去に時間のかかる馬蹄形ジベルが用いられていたため、工程的に非常に厳しい工事となった。その合成桁の桁上既設床版撤去作業では、元請の清水建設が開発した「走行台車付きダブルワイヤーソー工法」を採用するなど、施工方法で工夫を行った現場を取材した。

供用から53年が経過
 東名高速のなかで最も降雪量が多い区間に架かる橋梁

 所領橋は昭和39(1964)年鋼道路橋設計示方書に基づき設計された橋梁で、1969年に供用された。橋長は170.62m、総幅員は13.17m(有効幅員12.23m)、建設時の上部工形式は鋼3径間連続非合成鈑桁橋(A1~P3、132.12m)+鋼単純合成鈑桁橋(P3~A2、38.5m)であったが、2000年度にB活荷重対応で桁連結を行い、鋼4径間連続合成鈑桁橋となっている。あわせて、同年度には外桁2本の増桁を行って4主桁から6主桁とした。
 平面線形は緩和曲線(クロソイド・L=122、A=350)となっており、横断勾配は2.797%~-2.439%、縦断勾配は0.77%である。斜角は約59度を有している。


所領橋全景(NEXCO中日本提供。注釈なき場合は同)

橋梁一般図と諸元

 既設RC床版は建設時の厚さが170mmで、1991年度に部分打換え、2004~2005年度には50mmの増厚を行い220mmとし、あわせて防水工を実施した。
 大井松田IC~御殿場IC間の2021年度断面交通量は約82,000台/日で、大型車混入率は約45%に達している。凍結防止剤は、大井松田IC~裾野IC間の上下線で約440tを散布している。これは、同区間が東名高速最高地点454mの御殿場ICを含む山岳部であり、同道のなかで「最も降雪量が多い区間」(NEXCO中日本)となっているためだ。
 これら大型車交通による経年劣化と凍結防止剤散布にともなう塩害により、床版下面では剥落やひび割れ、エフロレッセンスが確認され、母床版内は鉄筋腐食にともなう鉄筋膨張および水平クラックが発生していた。


既設床版下面と母床版内の損傷状況

文鎮型の肉厚な馬蹄形ジベルが300mm~500mm間隔で存在
「走行台車付きダブルワイヤーソー工法」により桁上20mmで既設床版を切断

 本現場でまず課題となったのは合成桁部の既設床版撤去だ。合成桁はジベルにより桁と床版が強固に接合されており、非合成桁のようにジャッキを用いて床版を剥離することができないため、桁上床版の水平切断と切断後に桁上に残った床版とジベルの撤去が必要になる。このため、床版取替工事のなかでも時間を要する作業となり、さらに基部が肉厚な馬蹄形ジベルである場合は、その撤去にさらに時間がかかることになる。
 同橋ではその馬蹄形ジベルが増桁を除く4主桁に300mm~500mm間隔で配置されていた。基部のサイズも橋軸方向80mm×橋軸直角方向160mm×高さ70mmと一般的なものより大きく、巨大な文鎮と言えるものだった。同サイズは図面上のもので、桁端部では橋軸方向100mm、橋軸直角方向180mm(桁幅と同じ)のものもあった。


主桁上に配置されていた馬蹄形ジベル(写真はダブルワイヤーソーを設置するために先行施工した桁上の状態)

 そこで施工の効率化を図るために、桁上床版と馬蹄形ジベルの水平切断では清水建設が開発した「走行台車付きダブルワイヤーソー工法」を初適用した。同工法は、切断装置にワイヤーソーの回転速度を向上させる2体の駆動プーリーと、切断高さを保持するガイドプーリーを採用することにより水平切断の高速化と高精度を実現したものだ。このため、桁上床版の切断ラインを桁の上端から20mmに設定でき、その後の床版はつり作業の大幅な削減と時間短縮が図れるものとなっている。
 さらに、切断装置は床版上に敷設した移動用レール上を移動することで連続した作業を行えるので、装置の移設回数を最小限に抑えることができる。これらの特徴により、同工法による試験施工では従来工法と比較して約45%の切断作業の時間短縮効果が得られた。


走行台車付きダブルワイヤーソー工法の切断設備(清水建設ホームページから)

馬蹄形ジベル基部の撤去では作業員を倍増して対応

 本現場では前述のような肉厚な馬蹄形ジベルの切断に時間を要し、「試験施工と条件が異なっていたので、時間短縮効果については従来工法との比較はできない」(清水建設)が、1日あたり平均約10mの水平切断を行った。切断機は状況に応じて2~3基を用いて施工している。



本現場で初適用した走行台車付きダブルワイヤーソー工法

桁上切断後の状況

 水平切断後の桁上床版はチッパーを用いて斫りを行った。同工法により桁上から20mmの位置で水平切断ができたことから、その作業量は削減できた。
 課題は、水平切断後の馬蹄形ジベルの撤去だった。巨大な基部を撤去するためにはガス切断だけでは対応できず、溶接技術の「ガウジング工法」を用いて施工していった。同工法は溶接の欠陥部を除去するために対象物に深い溝を付けるもので、本現場ではその技術を応用して分厚い鋼材を切断していった。馬蹄形ジベル1基の撤去に約10分かかったことから、作業員を10人体制から倍の20人体制として対応した。


桁上床版の斫り作業(左)/斫り作業後の状態

ガウジング工法を用いての馬蹄形ジベルの切断/馬蹄形ジベルの撤去作業(ガス切断)

馬蹄形ジベルの撤去作業(サンダーでの研磨)/桁上の撤去作業完了後(撮影=大柴功治)

資材搬入路が名古屋側に限定 東京側は新設床版と壁高欄を先行搬入
 除雪作業により4日の工事中止が生じる

 本工事での資材の搬入は、ルート閉鎖という規制形態により制限が生じ、さらに現場は降雪が多い区間であったために工程遅延リスクをはらむものとなった。
 右ルート閉鎖期間中は、同橋の東京側にある滝沢川橋でも床版取替工事を実施しており、その工事が始まると東京側からの資材搬入が不可能になってしまう。そのため、東京側に位置する合成桁部の新設床版と壁高欄などをルート閉鎖直後に、先行して搬入しなければならず、新設床版を含めた資材を本線上に仮置きした。「本線上に仮置きするのは、床版取替工事のなかでもかなり珍しいケース」(NEXCO中日本)だという。


本線上に仮置きされた新設床版とプレキャスト壁高欄

 名古屋側に位置する非合成桁部の新設床版などの資材は、唯一の進入経路である名古屋側から搬入していった。しかし、降雪により除雪作業を行う際には、規制部に設置しているラバーコーンを撤去して規制を解除する必要があった。そうすると進入経路を確保できず、施工状況にあわせて都度行っていたトレーラーによる新設床版の搬入ができなくなり、工事も中止せざるを得ない状況となってしまった。「2022年秋に実施した左ルートの床版取替工事よりも約1カ月短い」(NEXCO中日本)施工期間の中で、除雪作業による工事中止は4日に達したため、工程を圧迫する要因となった。


名古屋側の規制概要および資材搬出入図

名古屋側からの資材搬入

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