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NEXCO西日本 関西国際空港連絡橋復旧への軌跡

公開日:2019.05.31

浜出し~架設(2019年2月7日~14日)
 製作した桁の浜出しは、2月7日に武蔵とSTEEL HUBⅡ(載荷重量12,800t、長さ95m)で高田機工の和歌山工場のA1-P1桁、8日に駿河と深洋(載荷重量14,577t、長さ110m)でIISの堺工場のP1-P2桁を浜出しした。浜出しにFC船を2隻用いたのは、冬季波浪による工程の遅延リスクを最小限に抑えるためだ。また、高田機工側では「工場の間際までFC船が近づくことは地形的に難しく、駿河では物理的に不可能なため武蔵を用いた。架設に際しても同様で、A1-P1桁は(撤去時と同様)関空島の陸上部が干渉するためFC船が近寄れない。そのた作業半径を長くとれる武蔵により両径間とも架設した」(IIS)。


堺工場での浜出し作業(FC船は駿河を用いた、佐藤直人撮影)

和歌山工場での浜出し作業(NEXCO西日本提供)

 冬季は季節風や波浪の影響が大きい。さらに引き潮の時には船が南へ流されていくかのような潮流がある。そのためアンカーは8箇所と変わらないながら、海上部6箇所のアンカーの重量は29tと撤去時に比べて9t重くした。さらに両桁とも架設を行うのは夜間である。それでいて誤差は±5mm以内に納めなくてならない。夜間に施工が限定されたのは、撤去時と異なり空港機能や鉄道機能が回復していることから、空港の転移表面(※図)に入れるのが同空港A滑走路の運用停止後に限られるためだ。運用停止後に初めて制限海域内に進入することができる。さらに架設地直上での桁の吊り下げはき電停止を待たなければならない。近接作業時間は4時35分までと限られていた。


空港の制限表面概略図(関西エアポート公開資料より抜粋)

 桁架設はA1-P1、P1-P2の順に行った。A1-P1側から先に入れ、P1-P2桁を後にしたのは、「精度が要求される桁の落とし込みの際に、(より海側に位置している桁の方が)架設際まで寄れて、なおかつ操船の自由度も高いため」(NEXCO西)だ。


桁架設ステップ図(NEXCO西日本提供、拡大してご覧ください)

 A1-P1桁の架設は12日から13日未明にかけて行われた。同桁は長さ89.8m、鋼重769t(吊上重量約823t)、有効幅員13.5m。午後12時20分ごろから玉掛けを開始し、13時45分ごろには約15mの吊上げを完了させて、夜間の架設に備えた。


A1-P1桁の台船による輸送/玉掛作業が始まる(大塚真紀氏撮影)

鉄道が走行する中での作業(大塚真紀氏撮影)

桁上で玉掛が進む(大塚真紀氏撮影)

台船が退出していく(大塚真紀氏撮影)

吊り上げた状態のまま夜を待つ(大塚真紀氏撮影)

 23時30分の関西国際空港A滑走路の運用停止を待って、FC船が移動を開始し、空港島側へ約50m横に動き、連絡橋側へ約50m前進した。0時15分に並走するJR関西空港線と南海空港線のき電停止が確認されたことから、FC船が約10m再前進して架設位置に到達した。0時30分ごろから巻き下げを開始したが、鉄道線路が近接するため、衝突防止策として桁揺れ止めワイヤーを使用するなどして、約15mを慎重に巻き下げていった。
 13日3時30分ごろには、桁の仮固定が完了した。


少しずつ移動を開始する(大塚真紀氏撮影)

23時半~0時半にかけて間際まで近づく(大塚真紀氏撮影)

き電停止を待って架設予定地まで桁を移動させ、落とし込んでいく
(左写真:大柴功治撮影、中・右:大塚真紀氏撮影)


桁下面が入った/ほとんど架設が完了した状況(大塚真紀氏撮影)

 同様にP1-P2桁(長さ98m、鋼重884t、(吊上重量938t)、有効幅員13.5m)は、13日から14日未明にかけて施工された。夜間施工の落とし込みであり、さらに伸縮装置は、「以前のものより遊間が狭くなっている」(松和)。その間に落とし込まねばならない。さらに、鉄道桁に影響を及ぼさないよう安全を確保しつつ、後工程に影響を与えないように誤差をなるだけ減らさなくてはいけない。


P1-P2桁の吊り上げ(NEXCO西日本提供)

 「架設する桁にはあらかじめ引き込み用のワイヤーを仕込んでおり、既設の桁と架設する桁をクロスするようにワイヤーでつなぐことで、特に鉄道側への移動を起こさないよう、桁の振れを拘束しながら架設していく」(松和工業)。


P1-P2の架設 (右)桁の引き寄せ設備(NEXCO西日本提供)

 高さが残り1m高さの状況からは±5mmの誤差に合わせられるように慎重に施工を進めた。支承台座の周りに16台のジャッキ(1か所4台)を仕込み、四方から支承位置を操作できる体制にした。その上で桁が僅かに浮いている状態でジャッキ調整により位置を合わせ、支承を挟み込む形で仮固定し、架設完了後、溶接により固定した。「P1-P2の施工は1回目より早く2時半には仮固定を完了し、玉掛をばらし始めることができました」(同)。


次工程に影響を与えないように慎重に位置を合わせる/支承位置仮固定装置(NEXCO西日本提供)

 総じて天気が良く、風が弱いという気象条件も幸いした。「冬季なので向こう10日間の予備日を設定していましたが、非常に幸運なことに予定通りの施工を行うことができました」。(NEXCO西)

伸縮装置・舗装(~2月27日)
 桁架設が完了した明朝から伸縮装置の設置が行われた。新しい伸縮装置は予めP1-P2桁に載せており、陸路で運ぶことなくスムーズに施工することができた。さらに、舗装に先立って合計5台の機械を使って昼夜兼行で鋼床版上をショットブラストで研掃した。投射量は300kg/㎡。その後、舗装(2,700㎡)やその他付属物の工事を終え、27日22時には復旧した下り線の運用を開始、3月7日6時には上下線2車線、さらに4月8日には6車線の完全復旧を果たすことができた。

伸縮装置の設置(左)A1上、(中)P1上、(右)P2上(NEXCO西日本提供)

ショットブラストおよび舗装(NEXCO西日本提供)

6車線供用のための中分防護柵復旧(NEXCO西日本提供)

次ページ 施工を終えて(NEXCO西、IIS、深サル、松和の各担当者コメント)

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