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-分かっていますか?何が問題なのか-㉔予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その3)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

はじめに

 前回前々回と供用している道路橋に発生した、予想もしていなかっPCT桁間詰床版の抜け落ち事故について、著名な建設会社の反省すべき対応とその後独自で行った原因究明の前半部分を説明した。しかし、社会基盤施設に関係している業界筋の人々には耳の痛い話であるかもしれないが、この手の話は山ほどある。何時もの話ではあるが、業界も悪いが、行政側の技術者も悪い。PCT桁間詰床版抜け落ち事故は、抜け落ちた橋梁を建設した技術者が目の前で起こっている事実を認めないばかりか何故か事実を隠蔽し、何事も無かったかのように振舞おうとする体質に大きな疑問を抱き、警鐘を鳴らす目的で事実を公開した。私が今回示唆した内容を読み趣旨を理解しても、自らの周りにはこの手の話は無いと思われている人は幸福である。明日は我が身となる前に一日も早く気づいてほしい、危機が迫る現実を。考えてほしい、1953年(昭和28年)東十郷橋・福井県に国内初の支間10mのポストテンション方式PCT桁橋を建設した時、関係していた技術者の“日本初のPCT桁橋を架けるぞ”の意気込みとそれに向けた開発意欲は並大抵のことではなかったはずだ。それから十数年後、十分安全とは言えなかった構造をより良い方向に見直した趣旨をなぜ正しく伝えることができないのか、一部のPC関係技術者の倫理観を疑うばかりである。

 さて今回は、何とか協力体制となってきたA社技術陣と行った原因究明実験の概要と実験を繰り返す過程で明らかとなった事実、現行のPCT桁の安全性に触れて話をするとしよう。

 ここで前回、前々回と2回に渡って説明したPCT桁間詰床版抜け落ち事故の話を整理する。PCT桁間詰床版が抜け落ちる要因を整理し、考えてみると、


 ・設計で想定される以上の過大な荷重(過積載車等による異常な輪重)が作用したこと。

 ・PCT桁の上フランジ側面にテーパーがない、もしくは逆テーパーになっていたこと。

 ・間詰コンクリートに補強鉄筋がない(無筋である)こと。

 ・横締めPC鋼材の設置間隔が1.0mと大きいこと。

 ・横締めに導入するプレストレス量が約1.5N/mm2と小さいこと。


など5項目が挙げられる。ここで示した抜け落ち要因の中で主原因として考えられるのは、やはり導入したプレストレスが想定したより少ないことだ。その理由は、作用荷重(軸重や輪重)の極端な増加は考えられないし、形状や無筋であることもマイナス要因ではあるが決め手とはならない。もしも、プレストレス量不足以外が主原因であるとすれば、供用開始後に多くの抜け落ち事故が発生するはずである。確かに先に示した5項目が抜け落ち事故に関連していることは疑う余地もないが、同様な事故が多発していたとすれば事故の情報隠しにも限界がある。万が一事故が発生し瑕疵責任を問われた場合、業界や国が行った構造変更以前のPCT桁橋は、大きなリスクを負っていた事実から逃れることはできない。間詰床版抜け落ちが今まで大事故とならなかったのは、単にラッキーであったと考え、その事実に真摯な対応をするのが行政技術者の務めである。

 このようなこともあって、私個人としては既設PCT桁橋に導入されている横締めプレストレス量の測定を行うことが第一と考えた。これが明らかにならない限り、業界の技術者は非を認めないばかりか、稀有な事故として処理し、国内で数多く供用している同様な橋梁を放置する考えであるから恐ろしい。私が日頃から嫌っている放置型管理を、業界の最先端を走る専門集団が見て見ぬふりをして進めているのである。知っている真実(構造的な弱点を抱えているなど)を正しく伝達しなかったり、当然知るべき事実を不勉強で知らなかったことも技術者として瑕疵行為なのである。

 特に行政側の技術者は、忘れた頃に災難が襲ってくることを肝に銘じなければならない。その理由は過去に起こった数多くのインフラ関連の悲惨な事故が物語っている。技術が進歩した今日であっても全く改善されていない。なぜ私がこのような話をするのかには理由がある。それは、ヨーロッパのイタリアにおいて、昨年(2016年10月30日)と今年(2017年3月9日)連続して道路橋が落下し、3名の貴重な命が失われている。それも、バランスよくと言ったら怒られるが、コンクリート橋と鋼橋それぞれ1橋であるから使用材料による差異はないのである。今、日本が抱えている大きな問題については、また機会を持って説明をするが、国内も海外も同様な技術レベルに成り下がってしまったのかもしれない。大丈夫なのか国内外の技術者、専門技術者は? さて愚痴と嫌味はこの程度にして話を本題に戻そう。

 私は、供用しているPC橋のプレストレス量測定を行った経験もないことから、関連する測定法を調査し、フランスAdvitam社のスロットストレス法に運よく当たった。しかし、何しろ実績がない。今であれば、インターネットを使ったテキストマイニングができ必要な検索が容易であるが、当時にはそのツールがなかった。技術の進歩は、素晴らしい。私が悩み続け、関連資料を漁った数日が、今は数秒で処理できる。当時、スロットストレス法がどんな計測技術か分からないまま、五里霧中の状態で検証実験を行った結果、何とか使う目途がついた。現在は、スロットストレス法を国内で提供している会社あるのでその会社に聞けば分かることかも知れないが、同様なトライアル過程を省くために明らかとなったスロットストレス法を使うための留意点を以下に示す。


1.スロットストレス法による計測留意点

 前回は、国内で使用実績のないスロットストレス法を検証する目的で実橋モデルの供試体を製作、プレストレス量の推定精度の検証及び補正係数算出を行った。その結果、推定値は若干の誤差はあるものの、図‐1で示すように高い相関状態を確認、満足できる精度でプレストレス量の推定が可能であると判断した。しかし、実験の過程で測定精度を高めるためには幾つかの留意点を考慮して行うことが明らかとなった。留意点は以下である。①フラットジャッキに加える油圧からプレストレス量を推定するには、補正係数がカギを握っている。カギとなる補正係数の算出は、スロットストレス法によってプレストレス量を測定する環境ごとに事前調査し、精度良く決定することが必要である。②フラットジャッキによる押し広げ値は、使用回数に関連する。そこで、適切な時期(使用回数を閾値として)キャリブレーションを行い補正が必要である。③構造物の変形量を測定するために用いる変位計フレーム(フレームにひずみゲージを貼付)は、コンクリート切削ペーストや水などの影響を受けやすい。フレーム使用時の度に格点を確認し、スムーズに格点が作動する状態を保つことが精度向上のために必要である。④コア削孔およびスロット切削時に使用する水は、推定精度に影響を与える。影響を最小限とするためには、コア削孔後に十分給水し、フレームの変化量が安定した後にスロットの切削を行うことが必要である。⑤フラットジャッキに挟むシムプレートおよびグリースは、測定精度に影響を与える。影響を最小限とするためには、シムプレートの厚みや枚数及びグリース量を一定とすることが必要である。以上の5点に留意して実橋のプレストレス量推定を行うことが必要となる。

 スロットストレス法検証実験と並行して行ったのが、K橋で発生した間詰床版抜け落ち事故の再現実験である。なぜこの実験が必要となったかは、読者の方々が考えてほしい。事件が起きた時、名探偵が犯人と被害者に起こる種々な場面を推理し事件を解決する流れに似ている。抜け落ち事象推定室内実験の概要は、以下である。