道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-㉒予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その1)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.02.01

4.抜け落ち事例と同様な間詰床版のあるPCT桁の緊急調査

 事故当時、私が考えていた抜け落ちの主原因は、横締め力の低下と間詰床版の乾燥収縮によってPCT桁と継ぎ目に空間が開き、そこに雨水等が侵入し、摩擦力が低下し抜け落ちとなったと考えたいた。変状発生の主原因が不明な過程でとった行動は、同様な抜け落ち事故が起こらないように、もしくは抜け落ち変状の兆候をいち早く発見する目的で組織が管理する同一条件のPCT桁橋の抽出を行った。
 PCT桁調査の流れを図―3に示したが、第一絞り込み対象となる橋梁はPC橋274橋、主桁ハンチの有無、補強鉄筋の有無などが抜け落ちの大きな要因である考えていた。そこで構造詳細が変わった1971年(昭和46年)以前での絞り込みを行った結果、88橋が実調査の対象となった。さらに、間詰床版の幅、横締め間隔、遊離石灰漏出状況(それまでの定期点検結果等から判断)などによって抜け落ちる確率が高そうな55橋について最終絞込みを行ない、それらを対象として近接目視調査を行うこととした。抜け落ち事故を起因とした緊急調査は、3段階に分けて実施することとした。第一段階は、目視による調査(下部工から2.0m程度の範囲は近接目視調査、それより離れた個所は双眼鏡等を使った調査)を行政技術職員が中心となって即日総動員体制で行い、第二段階は、今回発見された抜け落ち個所周辺の状態を参考として床版と主桁の接合部近辺の開口ひび割れ、遊離石灰析出、漏水を主として着目し、横締め位置のひび割れの発生を見逃さない外部委託による絞り込み調査を行なった。第三段階は、桁下が鉄道など抜け落ちによって第三者被害や重大事故となる橋梁を対象に、これは行政技術職員と外部委託によって行うこととした。
 対象部分や発生している現象を絞り込んだ調査を行う過程で明らかとなったことは、対象数量が多く、点在している箇所を短時間で調査を行うには、やはり人による目視調査が最適であるということであった。人による調査以外に、赤外線調査、弾性波レーダー調査、デジタル写真分析などを使用すれば、より精度の高い調査結果を得られると考えたくなるが、数が多く、点在する箇所を短時間で行えるのは、やはり人を主体とした方が最適なのである。もしも、同様な変状を15年前でなく、今時点で発見し、対応方法を検討するのであれば多少違いうのかもしれない。今日のように種々な調査法も開発され、非破壊調査法も技術的に大きく進んでいることからドローンなどの調査法も候補にあがったかもしれない。次に対象橋梁について近接目視点検を行った結果について説明する。
 調査対象橋梁88橋に対し第一段階の目視調査を行なった結果、抜け落ちの可能性を示唆できたのは、床版と主桁結合部に著しい遊離石灰漏出が確認され、開口亀裂が遠望目視でも確認できる1橋のみであった。第二段階の外部委託による調査は、抜け落ち損傷と同様な床版幅となっているPCT桁55橋に対し行なった。調査の結果から、床版と主桁接合部にひび割れが既に発生している橋梁は8橋、その中で遊離石灰析出箇所は20箇所、漏水が認められる箇所は3箇所、ひび割れと遊離石灰両方が認められる橋梁は5橋であった。ここまでの調査で、間詰床版の抜け落ちに関連する変状発生が交通量、飛来塩分などの周辺環境との相関について調査結果を基に分析したところほとんど無いことも明らかとなった。第三段階の調査対象は、21橋である。調査方法は、抜け落ち損傷に最も関連すると考えられるひび割れに着目し、橋軸方向、橋軸直角方向のひび割れ発生数やひび割れ延長などについてそれぞれを重点的に調査した。

 調査した結果を表-1に示したが、21橋の内、過去の定期点検において健全度評価が「注意ランク」のDランクの橋梁は7橋の33.3%である。Dランク橋梁のひび割れに着目すると、ひび割れ本数は、1~192本、ひび割れ延長は16.8m~74.7m、発生度は0.02~0.27である。しかし、Cランクの径間でもひび割れ数が189本の箇所やひび割れ発生度が0.34の箇所があるなど健全度評価とひび割れが結びつかない結果となった。ここで詳細な表を示すのは省くが、パネル毎の橋軸直角方向ひび割れ本数は、大型車交通量に関連して変化する傾向が見られ、桁端部が中間部より若干多い傾向が現れており交通量との関係が比較的明確となっていた。今回の調査で抜け落ちの可能性大として判定できるのは、橋軸直角方向のひび割れ発生率が、1.0以上の場合は、抜け落ちの可能性が高いと推定できるであろうとのお寒い結果である。
 これは、目視外観調査で得られたひび割れ延長や発生確率などのひび割れ発生内容による抜け落ち予測の関連性は明確でなく、遊離石灰や漏水などがある場合は他の事例から可能性が高いであろうと推測する、あくまで定性的な視点での判断基準である。
 しかし、詳細調査を行った対象の間詰床版は、外観調査では決定的な判別を行うことはできなかったが、設計資料などから分析すると可能性が極めて高いと推定した。その理由は、対象としたPCT桁橋間詰め床版は、現在採用している構造詳細と異なって補強鉄筋は無く、主桁側面形状がテーパー形状となってないことが挙げられ、実際に抜け落ちた間詰床版があること、今回の箇所以外にも似通った損傷事例が過去にあったからである。また、横締め導入プレストレス量についても当時は1.5~2.0N/mm2程度と現在の横締め量3.0N/mm2から比較すると50.0~66.7%と少ない。以上のように、詳細調査結果からは明確に床版抜け落ちの傾向は見極めることは不可能であったが、主桁と床版の継ぎ目に遊離石灰析出、漏水跡や進行性ひび割れなどが多数確認されたことから、いずれ抜け落ちる可能性が高い間詰め床版構造と判断し、何らかの予防策が必要と判断し、結論を待たずに対策を行うこととした。また、近接目視調査以外に、間詰部がなぜ抜け落ちることになったのかを工学的に説明することが課題であると考え、組織内で今後の対応を含め、室内実験、実橋実験、高度計算を行うこととなった。行政も悪いが業界も・・・。
 これ以降は、次回に室内実験の概要、次次回以降に実橋実験と間詰床版事故の顛末について説明することとする。

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