道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-㉒予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その1)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.02.01

2.供用している道路橋の桁下から空が見える事故が起こった!

 当時、管理する全ての橋梁を対象に自らが定めた点検要領によって定期的な点検を開始して、3巡目となった時に予想していた変状と異なった事態が起こった。話題として提供するPCT桁橋についても、5年に1度の頻度で行ってきた定期点検で発見された代表的な変状は、写真‐3で示す主桁と間詰め床版の継ぎ目から析出する著しい遊離石灰、鉄筋腐食、はく離、写真4で示す支承腐蝕など現在と同様である。これら代表的な変状について変状の発生する原因を考えてみると、例えば、間詰床版に絡む写真‐3のような遊離石灰の析出は、現場コンクリート打設時配慮不足など施工時の瑕疵によって問題を抱えていた可能性が高い。このような場合、変状の進行が早く、周辺部を含めてコンクリートが欠け落ちるような状態となる場合が多いことから、要観察もしくは早期措置と判断する変状である。しかし、このような著しい変状状態となった以降に抜け落ちるのではなく、ほとんど外観上変状も観察されない状況であっても間詰床版が抜け落ちるとは、当時は考えもしなかった。

 PCT桁橋は、比較的支間長が短い箇所、取り付け道路橋などに採用されている事例が多いが、ここで紹介する事故が起こるまでは、致命的な状態に至る変状事例も少ないと考えていた信頼性の高い構造形式であった。具体的な変状としては、まずはほとんど無いと思うが、コンクリート構造に発生する桁端部のせん断ひび割れや支間中央の曲げひび割れ、PC鋼材に沿ったひび割れが発生であるが、私の経験では確かにほとんどメンテナンスの必要がないと感じていた信頼できる構造形式であった。
 しかし、その時発見された間詰床版の抜け落ち事故は、私の前述したPCT桁橋の信頼性を大きく低下させるような事件であった。抜け落ち事故は、定期点検を行っている現場からの通報で始まった。「髙木さん、〇〇通りの運河を跨ぐK橋の路面点検を行っているのですが、伸縮装置から少し離れた個所でアスファルトの路面が下がっているように見えるのですがどうしたら良いでしょうか?」との連絡であった。現場担当者は、橋面上で無ければ、常温合材等で穴埋め作業をすることになるが、橋梁部分であることから安易に穴埋め作業することは止めた方がよいと感じただけでなく、路面が下がった今回の事態はいつもと違って重大な報告事項であると感じたようである。私は彼の通報を聞き、現地の状態を細かく聞いて何時もの嫌な直感が働いた。「〇〇さんの心配していることは取り越し苦労かもしれませんが、安全策を取りましょう。直ぐに交通規制の手配をして、路面が下がっている箇所に車両が乗らないようにしてください。これから直ぐに現場に行きますから。」と指示し、現場に向かった。

 そこで見た光景が写真‐5である。驚いた、路面が下がっているとの報告から悪い方向に一歩進んで、路面に穴が開いているではないか。なぜ、穴が開くのか?一般的な鉄筋コンクリート床版であるなら桁端部であることから抜け落ちの確率は高いし、事例も多く見ている。しかし、当該箇所は、鋼桁エリア(K橋は、鋼桁エリアとPC桁エリアがある)ではない、ディスクで見てきた資料があっていればPCT桁橋である。私の過去の経験ではPCT桁橋でこのような事故が起こった記憶がない。そこで、直ぐに桁下にまわって、どのような状態となっているのか確認することとした。側道にまわり、桁下に現場状況を確認しに行って腰が抜けるほど驚いた。橋脚から2m程度離れた地上に黒いものが付着しているコンクリート塊(写真‐6参照)が転がっているのである。それも、桁下にお住いの方(桁下によく、ホームレスが住んでいる事例があるが、まさにK橋の下も同様であった)の写真‐7で示すように残した残骸(段ボールや食べかす)のすぐ横に先のコンクリート塊が転がっているのである。私が行く前に先行してネットフェンスのカギを開けて桁下の落下現場を確認した担当者の話では、ホームレスと見られる人がコンクリート塊の横に立っていて、「大丈夫ですか?」と聞いたところ、「何だか知らないけど上から石の塊が落ちてきた。私は橋にも触れていないし、何もやっていないから無実だ、たまたま今ここにいるだけだ。」と言い残して逃げるように立ち去った、とのこと。
 桁下からコンクリート塊が抜け落ちた個所を見た状況が写真‐8である。写真でも明らかなように、確かに抜けた先に空が見え、アスファルト舗装の一部が確認できるだけでなく、設置したばかりのような光沢のある横締めシース材も確認できる。不思議だ、なぜ補強鉄筋がないのか?(この時は、自分に施工の変遷に関する知識がなく、昔、同様なPCT桁橋を架設した際、間詰床版部分には、補強鉄筋を組んでいたからであるが)まず頭に浮かんだ原因としては施工不良である。しかし、こんなことが本当にあるのかと思いながら、「直ぐにカラーコーンの仮設常設帯を常設の強固な交通規制帯を変更して、それと同時に所轄警察署に現状を説明し、復旧には数時間かかると説明してください。」と指示した。当然、次には現場の抜け落ち箇所を塞ぐ鋼製の覆工板による仮復旧を依頼し、半日後には交通規制を解除したのは言うまでもない。現場担当者〇〇さんのお手柄である。彼があのまま何も不安も感じることなく当該箇所を通り過ぎて行ったとしたら、その後確実に大きな穴が開き、車両が横転するような大惨事となり、その日の夕刊、テレビで何時もの大報道である。紙面には、「橋に落とし穴、懲りない管理者、またもや安全を軽視・・・」となっていたかも。さてそれからが事態の収拾に向かって、私を含め大変なこととなった。

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