道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-㉕予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その4)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.04.30

3.2 K橋下り線のプレストレス測定結果
 K橋下り線のプレストレス量測定は、抜け落ちたK橋上り線と相似する箇所測定を原則とした。(図‐2参照)改めて測定個所として決定した部分を確認すると、いずれの箇所も、横締めPC鋼材に並行するひび割れや漏水及び遊離石灰析出が確認されている。もしも、上り線と同じようにプレストレス量が不足しているならば、何時抜け落ちても可笑しくないと考えられる。K橋上り線と同様な流れで測定した結果、表‐3に示すように相似する箇所は、0.40 N/㎜2、0.44 N/㎜2と設計値の30%弱であることが分かった。定着部に近い箇所⑦は1.43 N/㎜2軸直角方向では外桁に近く、橋軸方向では支間中央に位置する箇所ほど設計値とほぼ等しいかあるいは設計値以上のプレストレスト量が測定され、逆に、桁端部に近く外桁から中桁に寄るほどプレストレス量は少なくなる傾向となった。次に、私が寒くなったり熱くなったりしたS橋の測定結果である。

3.3 S橋のプレストレス測定結果
 S橋は、K橋のポストテンション方式ではなく、プレテンション方式のPCT桁である。建設方式は異なっていても同一構造であることから横締めプレストレッシングは同様に行っている。そこで測定位置は、K橋と同様な桁端部の端横桁付近、間詰床版から漏水や遊離石灰析出が確認された箇所及び前述した鋼板で補強した箇所を選定した(図‐3及び図‐4参照)。


 しかし、S橋は、橋周辺に住宅があること、写真‐9に示すように大量の交通を処理する幹線道路である。もしも、K橋と同様な抜け落ちが発生したらと考えると本当に自分は幸運だ、と思わざるを得ない。いや以前抜け落ちかかって(これも推測の域を脱せず、ひょっとしたらK橋と同じように桁下から空が見えて状態となっていたかも。知らないとは、改めて恐ろしいことだ)補強した時に知っていれば、もっと早く手を打っていたはずである。また、内回りの測定個所は、漏水が著しい箇所はスロット切削時の抜け落ちの可能性が危惧されることから回避し、写真‐10に示すように当該箇所を挟む位置を測定個所とした。S橋のプレストレス量を測定した結果、桁端部のK橋と同様に間詰床版が抜け落ちかかった?箇所の①は0.85 N/㎜2、②0.31 N/㎜2と外桁よりが高く、補強した橋軸直角方向の値は小さい結果となった。また、漏水や遊離石灰析出が認められた箇所のプレストレス量は、0.59 N/㎜2、0.36 N/㎜2とやはり設計値よりもかなり少ないプレストレス量であった。これは、当然ではあるがプレテンション方式とポストテンション方式による差異はなく、建設会社の施工の違いによるプレストレッシングの差異は無いと判断した。以上が、実橋を対象とした日本で初のスロットストレス法によるプレストレス量測定結果である。

 今回説明したスロットストレス法と抜け落ち形状の検証を目的とした室内実験、実橋の導入されているプレストレス量測定実験以外に、ひずみゲージを使ったプレストレス量測定、実橋の動的載荷試験、補強後の効果確認実験などを行ったが紙面の都合上、省略する。

 さて、結論である。今回間詰床版が抜け落ちたK橋や間詰床版部を補強したS橋などの類似したPCT桁橋については、支点付近の桁端部は、端横桁等の存在によって橋軸直角方向の変形が拘束される可能性が高いと予測される。また、桁端部のプレストレス量が少なくなる理由としては、端横桁が存在することから横締め緊張力を拘束し、設計値通りのプレストレスが導入できていない可能性が極めて高いことである。このような状態のPCT桁は、プレストレスの利きが悪く、乾燥収縮などによってコンクリートが収縮し当該箇所に荷重が直接作用すると抜け落ちやすい状態となるとの結論なのだ。

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