-分かっていますか?何が問題なのか-㉕予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その4)
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
4.A会社からの報告と国への要望
ここまで4回にわたって、K橋の間詰床版抜け落ち事故とその後に行った検証実験について順を追って説明した。今回の調査及び検証実験によって明らかとなったことは、やはり当初の設計が安全側ではなかった事実である。当然、昭和30年代にPCT桁構造及び間詰床版の詳細構造変更を行ったことは、PC業界では不測の事態を回避する目的で行い、業界内では周知の事実であったはずである。私は、事故発生の確率が高いと判断し、安全側に改善することは技術者として当然の義務と考える。しかし、変更した構造に関連した重大事故が発生したにも関わらず、それらを知らない行政技術者に説明しないばかりか、隠ぺい工作をしようとしたA社の関連する社員、特に営業の私への対応には怒り心頭状態だ。万が一、私が多くの時間と費用を投じて調査を行わなければ今も事実は闇の中、いやそうはいかない。その後、抜け落ち事故発生によって被害者が必ず出たに違いない、そうなった時、関連する業界はどう対応したのであろう。
緊急調査、室内及び実橋実験の進む過程で事実が徐々に明らかになった時点でA社の営業から次のような報告があった。「申し訳ない、調査不足で抜け落ち事故が他にあったことを報告できなかったことをお詫びします。その後調べた結果、阪神高速道路、群馬県などに抜け落ち事故の事例がありました、これが詳細です」と資料を持参したから余計頭にきた。「私は、確かに技術者として未熟であるかもしれませんが、多くの人々の命を預かる身であることにプライドを持っています。少なくとも、あなたのような人を欺くような技術者にはなりたくないと思っていることをお忘れなく」と言い、「今まで分かったことは、全て国に報告し、全国に警鐘を鳴らしてもらうようにしますから、上司と十分に今後の対応をお考え下さい」と言って、A社の営業の方々には丁重に?お引き取り願った。私と同様な苦い経験をされる行政技術者が出ないことを祈るばかりである。営業が持参した内容を図‐6に示す。
国土交通省には、本省道路局に「プレストレストコンクリートT桁橋床版抜け落ち事故について 東京都建設局道路管理部」として正式に文書化した資料を提出、報告内容は「1.管理PC橋の現況とPCT桁詳細調査について、2.管理PCT桁橋の詳細調査結果、3.PCT桁橋の損傷・劣化の予測、4.PCT桁橋の耐久性向上技術検討」であり、PCT桁橋の抱えているリスク詳細を説明し、理解を求めている。その後国は、PCT桁橋の間詰床版の対応について他の地方自治体や管理者に適切な処理促す説明をしたのは言うまでもない。今回、長きに渡ってお話しした真実は、なかなか表にでることはない。と言うことは、全国にはこのような話が溢れていて、一歩間違えば大事故となっていたかもしれない。知ってることは、早く公開しましょうよ、立派なことを講演する前に。
(次回は6月1日に掲載予定です)