道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-㉕予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その4)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.04.30

3.1 K橋上り線のプレストレス測定結果
 それでは、皆さんが知りたかった実橋のプレストレス量測定結果について簡潔に説明しよう。K橋の上り線は、間詰床版抜け落ち個所(桁端部から2.190mの箇所)を中心に挟む位置となる橋軸直角方向に2箇所と、漏水及び遊離石灰析出が確認され、PC定着部に最も近い外桁の第一内桁の挟まれた位置となる1箇所とした。次に、横桁拘束についての検証である。検証するための対象箇所は、定着部に近い①の橋軸方向延長上の3箇所を測定位置とし選定した。当該箇所は輪荷重の作用頻度が少ないとの理由でもある。(図‐1参照)

 交通規制を行っているとはいえ、供用中の橋梁下面から削孔するのは勇気がいる。写真‐3で明らかなように境界部からは漏水と遊離石灰析出が確認できる。A社の技術者に「いいですね、この場所抜きますよ」と言われて、本当に大丈夫か、止めるなら今しかないと心は揺れる。清水の舞台から飛び降りる気持ちで「ここで決定しましょう!何かあったら私が責任取りますから」と自分から無責任発言?数分後に写真‐4の削孔が開始された。しばらくすると、写真‐5に示したように試行錯誤して決定したスロットストレス法によるプレストレス量の測定が始まった。私にとって最も期待していたスロットストレス法によるK橋のプレストレス量推定結果を表‐2に示す。推定結果値を見てどう思われますか?読者の方々に聞きたいものである。間詰床版が抜け落ちた個所のプレストレス量は、0 N/㎜2であるか、それに近い0.37 N/㎜2しか導入されていない結果となった。予想通りの結果である。私はここまで実橋実験に拘り続けたのは、プレストレスが殆ど入っていないことを明らかにしたかった一念なのだ。A社技術者の抵抗した結果がこれである。好意的に解釈すれば、間詰床版が抜け落ちた結果、測定個所のプレストレスが解放されたとも考えられる。しかし、プレストレス量が最大でも0.78~0.98 N/㎜2と設計値の約1/2であることから、抜け落ちによるプレストレス解放説にも疑問が残る。K橋の間詰床版抜け落ちは抜けるべきして起こったと言える。橋軸方向に連続して測定した結果は、抜け落ちた箇所から離れる径間中央に寄る位置ではプレストレス量が1.43 N/㎜2と設計値に近似する値であった。

 実橋実験もこれで終わらないのが私である。漏水及び遊離石灰析出のある箇所は、写真‐1で明らかにようにPC鋼材の腐食やその他の原因を抱えている可能性がある。それらを調べる目的で、床版下面から横締めPC鋼材シースを写真‐6に示すようにはつり出し、シース外観、内在するPC鋼材を詳細に調査することとした。さらに、問題の横締めPC鋼材定着部を露出させ、写真‐7に示すように冶具を使って再緊張することで抜け落ちた床版に隣接するPC鋼材の緊張力がどの程度の量であるか検証する実験等も併せて行った。今になって考えてみると、前回説明した高島春生氏の記述していた趣旨と同じである。追加で行ったPC鋼材及び定着部を露出させ各種調査は、スロットストレス法によるプレストレス量推定実験のみで終わらせ、他の実橋実験も出来たのではと後で後悔するよりも、想定される全てのことを行おうと考え、実行した。考え方によっては、危険な状態を更に進める危険な行為とも考えられるが、それよりも真実を定量的に追及することこそ真の技術者と言えるのではないだろうか。追加で行った調査及び実験においても、疑念がますます広がり、落胆するような事実が次々と判明する結果となった。しかし、種々な調査を進めれば進めるほど使われている技術、担当した技術者や倫理観に疑念を抱くようなことになるのには、ほとほと閉口した。
 今回公表した抜け落ち事故、国からの指導、事実の公表から何年も経過しているが、未だに同様な調査を種々な機関で行っている実態を、知れば知るほど情報の伝達や技術の継承は難しいと感じている。連載の表題、“分かっていますか?何が問題なのかを!” もう一度考えてもらいたい。

 K橋のコンクリートをはつり取って横締めPC鋼材の調査を行った結果、写真‐8に示すようにシース内のグラウトは無く、鋼棒表面には部分的ではあるが腐食していた。グラウトが無ければPC鋼材ははやり腐食することが確認された。そこで、露出した箇所からファイバースコープを使ってシース内の目視調査を行うこととした。
 その結果、緊張した端部から約5~6.0mの区間はグラウトが未充填もしくは不十分な状態であった。この結果から言えることは、PC構造物において、全てとは言えないがかなりの確率で、鋼材の腐食を防止するために充填しているはずのグラウトは不完全の可能性が高いということ。これは何を物語るかである。距離の短い横締めがこのような状態であることは、主たる桁方向のPC鋼材のグラウトも未充填あるいは不完全充填の可能性が高いという結論だ。PC構造物の重大損傷、応力腐食の発生である。
 数年前に話題となった妙高大橋のPC鋼材破断事故もK橋で明らかとなったグラウト未充填等の事実と同様な原因であるのかもしれない。これには、1985年に起こったYnys-y-Gwas(英国)の落橋事故や2000年に起こったノースカロライナ州の歩道橋(米国)の崩落事故もグラウト充填不足からのPC鋼材腐食が主原因であるのと同様と言える。国内の数多いPC構造物は本当に大丈夫なのか不安となるのは私だけであろうか?
 次に、K橋と同一路線で建設年次の異なるK橋下り線のプレストレス量測定結果を示す。

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