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-分かっていますか?何が問題なのか-㉕予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その4)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

はじめに 

 今まで3回(その1その2その3)に渡って説明したPCT桁間詰床版抜け落ち事故も今回で最終回、話の最終章となる。PCT桁間詰床版が抜け落ちたことは私にとっても組織にとっても重大なことではあったが、それ以上に大きかったのは起こってしまった事故に対応する業界の態度への疑問と大きな不安を抱くことになった発言であった。当時は、関係技術職員を総動員して行った橋梁調査、予備費を投入してまで行った室内実験、机上計算や実橋実験など多額の調査費と時間を使っての原因調査は本当に必要であったのかと何度も自分に問いかけていた。特に、先に説明したスロットストレス法の検証実験や抜け落ちを再現する載荷試験は、考えていたように進まず、何度も修正した結果の成果である。今考えると、もっと自分に種々な知識があれば、もっと短時間に結論が導きだされた可能性が高い。また、国内のPC構造部門における第一人者や有識者を加えた委員会での私の説明は聞くに堪えない部分も数多くあったと思う。しかし、今回説明する実橋実験で間詰床版抜け落ちの原因を突き止めると同時に他の今後危惧すべき事項を確認できたことはその後に大きなプラスとなったことは大きな収穫であった。それでは、読者の方々が待ち望んだ?実橋のプレストレス量測定の話を始めよう。


1.実橋のプレストレス測定

  さて、今回のメインの話題である実橋の横締めプレストレス量測定である。プレストレス量測定対象橋梁の選定は、間詰床版が抜け落ちたK橋を主として他のPCT桁橋も含めて行うこととした。「これから、いよいよ実橋のプレストレス量測定を行います」と幹部には言ってはみたものの、選定したスロットストレス法が実橋にスロット(要は穴を開ける行為)を切削することが条件となっている。これまで読まれた方はお分かりと思うが、スロットストレス法は非破壊試験では無い、破壊試験なのだ。ひょっとしたら、プレストレス量測定を行うより前に、ホールの削孔やスロットの切削作業によって導入されているプレストレスが解放され、間詰床版が抜け落ちるのではないか? 連結しているPCT桁の一体化が失われるのではないか? など、考えれば考えるほど不安はより大きくなる。しかし、『緊急事態を予測し、対応策を練って準備さえすれば最悪の事態は回避できる。それよりも、全国の同様な構造のPCT桁事故を防ぐことが第一だ!』との思いが日増しに強くなる。

 一方で同僚からは、「髙木さん、供用しているPC橋を削孔するなんて、実験室ではないんですよ。大丈夫ですか?」と問いかけ。管理者としては当たり前の発言である。さらに、「業界にいい様に使われてるのではないのですか?事故が起こったら直接的責任は髙木さんですよね!」責任は自分には無いとの念押しか。上司も、「髙木君、K橋だけ行うのではないのか?他の橋も本当に必要なのかね」である。上司や同僚の意見にめげそうになる心を『大丈夫だ、他の組織で同じ目に合わないようにすることが技術者としての務めだ!』と心を奮い立たせ、実橋測定実施案で強硬突破となった。

 ここで問題となったのは、どの橋のプレストレス測定を行うかである。予算も時間も制限がある。対象は、2ないし3橋が限界である。そこで、考えた。間詰床版が抜け落ちたK橋は外せない、その他は。同一構造でA社が建設した施工年次が異なるK橋下り線、そして、主要幹線道路で一部鉄道を跨ぐS橋を選定した。K橋の下り線を選定したのは、同一建設会社であること、仮設年次が多少ずれても同様な問題を抱えているであろうとの私の勘である。当然、A社技術陣は後ろ向きとなる。でも、ここでも私の同様な事故が起こった時の数ある経験と他の組織、国を説得するための事例となる、との考え方である。さて、S橋には現地に出向いて驚いた。対象橋梁探しを始めて直ぐにS橋に行くことになった。そこで見たのは驚愕の事実であった。私も驚いたが、同行した同僚、A社の技術者も顔色が変わる。

 写真‐1を見てほしい。要は、“灯台下暗し”が目の前にある。S橋は、以前に間詰床版が抜け落ちかかって、その場所を補修済みなのでだ。今まで私のもとに何の報告も無い、S橋、それも主要幹線で一部が跨線橋なのである。さらに悪いことに、写真‐2でお分かりのように桁下を児童公園として利用しているではないか。建設会社が異なっても、構造的に弱点を持った橋梁のリスクが大きいのは変わらない。S橋にある間詰床版補強事実を見た時に背筋が寒くなり、次に身体が熱くなった状態を今でも忘れない。恥ずかしい、自分が管理している道路橋の現状をもきちっと把握していない自分は何をしていたんだ!!状態であった。S橋を管理している事務所の責任者にS橋の抱えているリスクと過去に起こっていた事実を話すと、「髙木さん、止めてよ。私を脅しているの?」「所長、私が冗談でこんな話すると思います?最善の策を取りましょうよ」、「髙木さん、当然部長も了解しているのですようね。・・・分かりました、これだけはお願いしますよ、周辺の住民や公園を利用している人に不安を煽るような説明だけはしないでくださいね」と念を押された。これで測定対象箇所は決まった、表‐1に示すK橋上り線、K橋下り線と問題のS橋の3橋である。