道路構造物ジャーナルNET

第94回 最終的な答えは当事者がその責任において決断しなければならない

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.11.16

1.はじめに

 インフラ・マネジメントにおいて、「自治体が遅れている。」と言われて久しい。2巡目が終わり3巡目へと。そして「第2ステージへ」と言われているが、自治体側からは、「何をどうやればよいのか?わからない。」とも言われる。しかし、沈黙を保っているところが多い。わからなければ聞けばよいだろうに。そしてここに、さも分かったように、様々なことを言う人たちが存在する。本当にわかっているならば、どんどん指導してもらって構わない。しかし、ほとんどが経験の無い方々の机上論である。これを、したり顔で言われ真に受けて実施すると、無駄である。税金を無駄に使うことになり、過信が事故を生む。そのうちに責任問題に発展するかもしれない。1700の自治体には、それぞれの事情が存在し一概に外から見てわかるものでは無い。マネジメントは手作りなのである。個別の物であれば、1回見ただけで判断は可能であるが、全体のマネジメントは難しい。個別の事象にしても、どうも怪しいものがある。簡単に言うと「壊れ方がわかっていないので、ありきたりの判断や思い付きの判断をしている。」

 私は、第1ステージ、これまでの、10年間は、試行の時期であったと、考えている。様々な手法や技術見解などを試してみるべき時期だった。それゆえに富山では、自分の確認したいこと、若手のやりたいという方法はやらせてきた。また、民間にはフィールドを貸し出していた。この意味が分かっているだろうか? 維持管理は実務の世界である。リアルな世界なのである。

 今月は2点示し、皆さんに考えてもらいたい。

2.吊り橋の完成:新規事業を実施するということ

 インフラ・マネジメント的に考えると、新たな構造物を増やすことはリスクを増やすことにつながる。ましてや、吊り構造である。この難しさを、どれだけの方が理解できているか? しかし、これは計画段階から、職員にも市長にも、説明し納得していただいたうえで成り立っていると考えている。ただ職員は途中で異動しているし、わたしも、設計の途中で退官してしまった。さらに、こちらの意見を聞かないコンサルであった。よく途中段階や、今でも批判はいただくが批判は批判で、どこにでもいつでもある。それを解決していくのがマネジャーの仕事である。ここで、言っておくが、物知り顔での批判はやめてほしい。計画から、予算の確保、設計、施工と職員は苦労している。皆さんは外部から状況だけを見ているだけなので、批判する立場には本来ない。無責任な発言を外でも行い、無知な一般の人間の不安や反感を招くような行為は、プロとして恥ずかしい行為である。いうならば堂々と公式に言ってほしいものである。その時には覚悟をもってすることだ。自分を見てもらおうという安易な気持ちではしないでいただきたい。


開通した呉羽丘陵フットパス連絡橋

 私が富山に赴任した10年前には、ほぼ実施が決まっていた話だ。おそらく民間の方々は理解できないだろうがプロジェクトは、決定されれば、全精力を上げて実現していくのが、プロジェクトマネージャー(PM)である。世の中にはプロマネの資格もあるが、そういう一番苦労する雑用的な話や精神論までは語ってはいない。様々な問題や障壁を乗り越えてこそ、プロジェクトは完成する。コストもそうだし、住民やその他の方々の反対もそうである。政治的な圧力もある。民間のPMの資格は資格だが、総合的なマネジメントはやれていないはず。財政当局との折衝や、資金繰り等、泥臭い部分はできていないのが実情である。

 今回の吊橋に関しては途中で大きな問題が発生した。これは、、想定外であったが、乗り越えなければならない問題であった。本来、こっちの方に興味を持つ方々も居てよいはずであるが、そうではなく、面白半分の話になってしまった。本来は土木の世界の課題の一つと考える。他人事で済ませているから、また似たような問題が発生する。この件について詳細を聞こうという動きも世の中にはない。「くさい物には蓋をしろ」的な状況であり、触れたくないのであろう。しかし、またどこかで起きる。起きているかもしれない。まあ、こういった新規事業には長期の年月と障壁の打開能力が必要である。関係者の苦労は並大抵のものでは無かった。ましてや、変な事柄が起きたせいで、あまり深堀した議論ができなかった。これも、事業を妨害する意図であったならば、恐ろしいことである。結果的に事業を引き延ばし税金を余計に使っている。一番損をしたのは誰か? と言うと富山市民である。これがわかっているのか? このような状況を解決して、物事を構築していくことがプロマネである。

 新設橋は、今の時代良くないといった意見もある。事業数は極力減らす努力はしている。しかし、ゼロと言うわけにもいかない。前向きに考えれば「必要な橋は架ける」という判断は重要である。私の「トリアージ宣言」が効きすぎたせいか、減らすことばかりだと思っている方々もいるが、重要な個所には架ける判断も必要である。撤去も新設も補修も、判断が重要であり、それがマネジメントである。この辺も実際に関わった判断した方でないと本質は分からないであろう。「架け替え」と言う行為も必要であれば実施したうえで補修なのか? 補強なのか? 用途変更するのか? 統合するのか? 撤去するのか?・・・・・すべてのものに適用されるものである。


吊り橋上からの立山連峰の眺望 多くの方がこれを望んでいた!

 民間の業者はコンサルも含め、判断されたものを実施しているだけである。それ以前の協議や、決断は官庁側の物である。だから、技術的知識は別にして、マネジメント的には経験が乏しくなってしまう(これが実態)。こう書くとまた、そうではないと言い出す方も居るだろうが、そう思うのならばそれで構わない。しかし、残念ながらそうである。マネジメントに関してもお手伝いをしているのである。お手伝いの中で、構想や線引きデザイン(景観)などを、提案して、いただいているわけである。時々これを勘違いしている方が居るが、そうではない。そして、これらは単純に決められるものでは無いから厄介なのである。役所の地位的にかなり上層部に居ても自分の思う通りにはいかない。職員の総意と言う物もあるし、議会や首長の意思もある。最終的には「政治判断」と言う物がある。

 新事業の効用と言うこともある。あまり、大規模な構造物を普段担当する機会に恵まれない職員が実際に体験できるのであるからこんな機会はめったにない。それで、担当すれば苦労はあるだろうが大きく成長できる。実際にそうであった。ここのところ、様々な行事等で担当者の説明を聞いていると係長も担当も、説明能力が以前とは格段に違っている。大きく成長した証拠である。おそらくものの考え方も変わったことであろうと期待している。

 その経験。「物を作る」経験が今後の維持管理業務にも生きてくる。造る流れを実際に見れることそれは大きな経験である。数年前から「道路構造保全対策課」に、新設橋梁も担当させるように仕組みを変えた。これもそういう経験を生かしてもらいたいからであったが、成功であろう。それまでの状況は「あの橋をやったやった。」とはいうものの、あまり真剣ではないように感じられていたが、ここの数年見ていると違ってきている。大きな成長である。「富山市の職員は成長しているな」と感じている。

 この完成式の様子は、最近の道路構造物ジャーナルで大柴記者に、富山まで来ていただき、書いていただいたので感謝する。本来であればもっと事業が進み周辺の整備までされているはずであり、完成式典ももう少し盛大にできたであろうが、一般の方々にも参加いただいたであろうが、残念であった。ただ現在土日祝日のみの開放となっているが、多くの方々においでいただいている。吊橋上からの眺望を称賛いただいてもいるのはうれしいことである。ただ管理者としては問題の冬を迎え、その後の長期間の運用・管理が待っている。気を引き締めて行ってほしいものである。

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