道路構造物ジャーナルNET

第92回 行政マンであり、技術者なのだ

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.09.16

4.今後のインハウスエンジニア

 インハウスエンジニアは今後どうすればよいのか? 維持管理に関しては現在簡単に言うと、国が最近示したように、
 ①新技術の導入により効率的で生産性のある維持管理が望まれている
 ②包括管理にはすでに当たり前で、“群”の管理が有効であろうと言われだした。群とは「インフラ群」と広域圏における近隣自治体などとの群である。

 この2つが提示され、モデル事業の公募がなされている。こうなると、インハウスエンジニアには幅広い知識と政策能力が必要となる。私はこの2項目は10年前から言って、導入しようとしている。しかし、なかなかうまくはいかない。スペシャリストの方も、単発の知識では通用しない。これまで経験がおろそかだった分野の知識がないと成り立たない。口でごまかそうとしても、すぐにばれてしまう。様々な材料を提案して、うまくいかなくても、知らんぷりであったが、そうはいかない。1つ1つ評価されることになる。それがある程度の長期にわたる。恐ろしい世界である。カタログ値を信じていては、うまくいかなかった場合に評価が下がる。より現場の知識が必要になる。何よりも、包括をやっている実施部隊の負担が増える。

 私は、現役の最後が市役所の技監だったので、インハウスエンジニアに関して述べているが、まずは、「もっと勉強しろ」である。勉強と言う意味は様々な経験を積むということである。プライドはいらない。わかったふりは害あって益なし。わからなければ聞け。聞ける相手は普段から作っておくことが重要。口のうまい奴にごまかされるな。である。

 前にも書いたが、私の実の父と女房の父親は農林省の技官であった。私の父はガチガチの役人。女房の父はさばけた役人であり、タイプがまったく異なった。この2人が私に対し、全く同じ話をした。それは、「業務を発注した場合に、まずは初回打ち合わせで相手を見抜け」と言った。「相手を見抜けず、問題が起きればお前の責任になる。信用してよいのか? そうではないのか? 判断を間違えば、大変なことになる。」「口がうまい奴を信ずるな」とも付け加えられた。これには、確かにと思う。タイプの違う2人が役人(インハウスエンジニア)としての心得は、同じだったという証明である。

 私自身この教えは分かっているつもりでいたが、時々間違った。会社の規模で判断するととんでもない。口がうまいが誠実身が無い者が大勢いた。業務の途中で逃げだした者もいれば(これは大手コンサル)業務の途中で金が足りないと上司を使って言ってきたもの(これも)いた。委員会付き業務で、委員会当日の朝まで資料ができなかったもの(これも)、これには困った。委員会付き業務は、基本的に発注者が先生方に説明しなければならないが、ヒア汗ものであった、何せ一度目を通しておくべきものをその場で見ているのだから、読みながら、「ここの言い回し変ですね。直しておきます」とか「間違ってますね。直します」とやらなければならない。おかげで鍛えられた。通常の場合は委員会が無いから良いが、とんでもない話である。

 そういうことで、富山市では、委託業務の評価を職員に付けさせている。100点満点であるが、とんでもない点数が時々ある。担当を呼んで聞くと「自分の気持ちです。もう二度と一緒に仕事したくありません。」と言うような話も聞く。これはなぜ評価しているかと言うと、業務が複雑化して難易度が高く、簡単な業務が減ってきている。それで、地元コンサルに出せる業務は減っている。これを皆さん理解してくれればよいのだが、そうはいかない。「なんで地元に出さないのか?」と言ってくる方々もいる。答えは「無理だから」である。

 これを、議員さんなどに、さも自分のところは悪くないのに、当局が選別しているようなことを言ってくる。その担保として日ごろから評価点をつけている。本来ならば、60点以下は、その時点でOUTであって、お金も支払わなくてよいようなものもある。不合格なものは基本やり直しである。なのだが、地方に行けば行くほど昔からの慣習がある。何より自分のところの能力を知るべきなのだ。かといってそれであきらめてもらっても困る。正々堂々とどうすればよいのか考え相談してくれればよいのだが、自分のところが能力があると思い込んでいると事故を起こすまでわからない。最近の事故はそういうところにもある。真摯に相談してくれれば、共に考えることから始めたのだがそれもなかった。

 現在は、官民の連携と言うか意見交換ができない状況になっている。本来は官民で信頼できる者どおしが利害を超えて議論できればよいと思うがなかなか難しい。それがインハウスエンジニアの成長にもつながる。「インハウス・スーパーバイザー」と言うことを推奨している先生が居らっしゃる。長崎市の景観専門監をやられている、高尾先生であるが、多くの自治体でそれぞれの専門分野でこういう方が必要なのではないだろうか?職員が高度な疑問に関し相談できる方が庁内に居れば、効率化は進む。自己研鑽も進む。私は、富山市においてそういう立場のはずだったが、どうも、判断する側がどう思っているかわからない。

 企業もそうだし、個人もそうだが、全てが同じではない。得意不得意もあれば、能力の差もある経験の差もある。すぐれたものを持っている方々に指導を受けるというのは絶対に必要なことである。

5.まとめ

 今月末に、ある所から「橋梁の事故」に関しての講演依頼が来ている。私が一番危惧しているのは、今後維持管理において解体撤去や更新のための撤去と撤去作業が増えてくることが予想される。技術的に、新設よりも撤去のほうが難しい。わかった人がきちんと計画しないと事故のリスクが高まる。造ったこともない人たちが、物知り顔で撤去計画や撤去設計をすると大変なことになりかねないということをここで述べておく。構造物はバランスが重要だが、難しい解析は行っても、それがわかっていない方々が結構いる。解体時にはバランスが崩れる状態になるので危険なのである。構造物が構造体として成立しない状況を造らなければならない場合がある。インハウスエンジニアはリスク管理としてどうするか? である。

 我が国の場合、この辺の発注形式に関しても、リスクを背負い込むような構造になっている。それを延々とやっている。変なところ下賤な考えに気を取られてそうなっているのだが、ソロソロ発注の仕組みも変えていかなければならないと思っているのだが、明治以降ほとんど進んでいない。韓国でPFI事業をやっていた時の友人で韓国の大学の先生から、「日本の発注の仕組みが勉強したい。」と言われ、話をしたときに、際素は様々な資料が欲しいと言われたが、話しているうちに韓国の方が進んでいることが分かった。向こうは欧米の効率的な仕組みをたぶん2000年ぐらいから導入しているからである。資料に関しては、当然「じゃあいいです」。

韓国での高速道路PFI事業
見た目は日本の一般事業と一緒、中身は様々な要素が我が国では実行できていない

 例えば、デザインビルドが言われだして久しいが意外と進んでいない。私が最初にデザインビルド方式の検討をしたのは、20年以上前だがその後、意外と数は増えない。そろそろ目覚めないと大きなリスクを背負い込むことになる。こなせばよいと思う方々は関わらないほうが身のためである。これは官民双方に言える。

 今後、インフラ・メンテナンスの効率化は待ったなしに諮られるべきである。自分のところのインフラをどう管理していくのか財政との関係をどうするのか、マネジメント的課題が大きい。単純に点検をしていけばよいというものでは無い。かつての1件1件の対処では間に合わなくなってくる。これに対応するために、インハウスの方も考え方を大きく変えなければならない、アウトソーシングの比重は増すだろう。そんな中で、いわゆる民間のスペシャリストの方々に必須となってくるのは現場能力である。これは経験である。机上の力は知れており、対応できない。インハウスとスペシャリストがしっかりタッグを組み、持続可能な国、地方を作っていかなければならない。新設はまだまだあり、学ぶべきところは多い。そんななかで様々な工夫を考えながら工夫していくことが、技術力を高めることになる。ソフトでは解決できない部分である。本体の設計計算ばかりに気を取られ肝心の造ることが考えられないでは、お絵描きをしているのと一緒である。(昔こう怒られた)次の世代に、どのような世界を渡すのかが、これからの土木技術者の役割である。持続可能な、社会を構築するためにどうすれば良いのか?何が重要なのか?ここの研鑽と、マネジメントが、必須である。子孫になるべく負債を残さないことも重要である。

 昔の同僚からの依頼で過去の業務の質問に応じて、過去の業務を思い出していると、ふと気づいたのが、結構「政策系」の仕事をやっていたことである。研究職でもないし、純粋なエンジニアでもない、個別の橋梁の検討が多いわけでもない。ハイブリッドなのである。韓国でのPFI事業を実際に経験したことも、マネジメントに目覚めることにつながっている。それも学問的ではなく、直感、動物的勘に任せた「実践マネジメント」である。なので、皆さんが期待している鋼構造などの、細かな話は他の方にお任せしているので、ご容赦願いたい。しかし、他の方が感じていないこと、先を読むことはたけているので何かあれば気軽に相談していただきたい。もう、現役は終わっているので細かいことはできないが、相談には協力できるので、お気軽にどうぞ。

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