道路構造物ジャーナルNET

第2回 スイスの先駆的な事例

超緻密高強度繊維補強コンクリートによる橋梁の補修・補強

コサカ設計・アソシエーツ代表
(J-テイフコム施工協会理事)

上阪 康雄

公開日:2023.08.01

1958年建設の2主PC桁橋・ファーペクレ橋の補修・補強
 次の事例は、スイスアルプスの中心ツェルマットの隣の谷間にあるLes Hauderesに位置するファーペクレ(Ferpecle) 橋の補修・補強である。この谷で話されるのはフランス語であり、山を越えたツェルマットはドイツ語圏であり、徒歩で峠を越えればイタリアにも抜けられる。Les Hauderesは、クロスカントリースキーの国際試合も開かれるリゾート地でもある。対象橋は、その奥のファーペクレに抜ける唯一の道路上に架かっている(図-12)。


図-12 レマン湖モントレからLes HauderesとZermatt地図

 ファーペクレ橋は、1958年に建設された2主PC桁橋であり(図-13)、支間長35m、桁高1.75mの地方道である。桁端付近の床版の劣化は、凍結防止剤の影響を受けて顕著であり、ちょうど私が今年6月にブリュービラー教授と共に訪れた際に見た舗装撤去・劣化部除去後の上面の状況は図-14のようであった。


図-13 ファーペクレ橋側面/図-14 床版はつり後の状況、鉄筋の段面減少

 現在の終局耐力は、直近の荷重体系に対し曲げで72%、せん断で78%しかないことから、補強は不可決であり、また、車道幅も現在の5.90mから7.90mに拡幅する必要があった。そこで提案されたのは、現在の単純桁(図-15)をジョイント部にてUHPFRC材で埋め込み、さらに厚さ80mmの鉄筋入りUHPFRC層で補強、その後ろも50mmのUHPFRC層を橋台端部まで伸ばす、一般部床版は50mmのUHPFRC層を補強する、さらに橋の両側拡幅は現場打ちUHPFRCによるというものであった(図-16)。


図-15 補修前のファーペクレ橋

図-16 補修・補強後のファーペクレ橋

 最終案は、床版の状況などを勘案したうえで、一般部は厚さ50mmのR-UHPFRC層を付加、支点部は厚さ80mmのR-UHPFRC層を付加することが決定された(図-17)。


図-17 ファーペクレ橋補強後の断面図。上が一般部、下が支点部

 この補強によって、曲げ耐力は117%に達し、せん断耐力は124%に向上した。なお、山奥のファーペクレへはこの橋が唯一の交通路であることから、施工中も図-18のように、第1期目は片側3mを通行に当て残り3.3mの施工区間、第2期目は残り4.6mの施工区間とした。UHPFRC施工状況を図-19に示す。UHPFRC打込み前に2方向鉄筋が配置されているのが見える。


図-18 常に片側車線を交通開放してのUHPFRC施工

図-19 UHPFRC材料の流し込み(左)と打込み(右)

 なお、おさらいであるが、スイスのUHPFRCの性能の最大の特徴は、非常に引張に強く(図-20、ft=8 MPa以上)、良く伸びるため、コンクリートに見られるようなひび割れが起こらず、さらに非常に緻密なために水や塩化物の侵入を許さないことである。この特徴は、日本のJ-THIFCOMにも受け継がれている。

 次に示すのは、スイス高速道路への適用例である。ポーゼ(Paudeze)高架橋は、1974年に建設されたローザンヌ近郊の高速道路N09がポーゼ川を渡る位置に架かる橋長422m(最大支間104m)のカンチレバー5径間連続PC箱桁橋で、支間中央の桁高が2.2m、支点部で6.0mと桁高が変化している(図-21/図-22)。


図-21 ポーゼ高架橋位置図

図-22 ポーゼ高架橋側面図

 点検調査によって、支間中央部では主桁の垂れ下がりが見られ、また張出し床版下面に湿潤・鉄筋露出が見られることから、床版の凍結防止剤による塩害損傷が進行していると判断された。さらに管理上、現在の上下線各2車線の幅員は狭すぎることと、地域的に両側に防音壁が望まれることから、改築補強案として、両側にUHPFRC製の斜材(ストラット)を配置したうえで、片持ち床版およびRC壁高欄を付加する各3車線への補強ストラット案が提案され、2019年に拡幅補強工事が実施された。なお、箱桁内部には、追加のPCケーブルが配置・緊張された(図-23/図-24)。
 このストラットは、プレキャスト部材で、斜材上下の接合部強化梁は、現場打ちUHPFRCで施工された。斜材1本あたりの重量は200kgとのことで、既設コンクリートとの接合試験、斜材の座屈試験などが実施されている。幸いにして筆者はちょうどi-ギルド補修・補強調査団2019(藤野陽三団長)のコーディネーターとして参加しており、この工事現場に立ち入ることができた。あとで、ポーゼ橋でなぜ床版上面にUHPFRCを適用しなかったか質問したところ、工期の短縮の点で、上面補強は見送られ、標準の防水工を施工したということであった。


図-23 補強断面図/図-24 補強ストラットイメージ

 ポーゼ高架橋の補修現場の状況を、図-25、図-26に示す。


図-25 ポーゼ高架橋 補修・補強見学状況

図-26 左は完成系、右は施工中

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