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第89回 真の技術力とは?

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.06.16

現在の便利さは過去のもの、多少の不便も甘受しなければ橋は守れない
 専門家は決定者の意見に従って実行する者
 

4.富山でのマネジメント
 私が、富山に赴任して考えたのが、社会及び社会資本の「持続可能性」を重要視し、安全面や財政面、さらには組織体制などを念頭に入れつつ、技術的な観点も加味し、さまざまな観点から検討を実施するということ。しかし、世の中は、「点検」や「維持管理」を実行することが目的となってしまっており、持続可能な街や国でなくなってしまいかねない。俯瞰的なインフラ・マネジメント体系を目指し、新たな「しくみ」を構築していく必要が有った。これにはまず、職員の意識を変えなければならなかった。まずは、核となりえる人選を行っていく必要が有った。そして、器としての組織。戦力となりえるだろう、委託業者の能力分析。アドバイザーとしての近隣大学の先生方。道具としての新技術とIT技術。新たな仕組みとそれを運用するための括りの仕方などを考えた。

 わが国には73万橋の橋梁が存在する。これをすべて維持管理していくことは不可能である。限られた資源で持続的にインフラの維持管理・更新に取り組むには、点検により明らかとなった劣化損傷に対し、順次、維持修繕や更新を実施するといった、これまでの一律の維持管理から転換していく必要がある。そのため、橋梁の社会的な重要度やまちづくりの方向性等を踏まえ、機能維持・向上を優先すべき橋梁を明確にする「橋梁トリアージ」を実施し、使用制限や橋梁の機能適正化も視野に入れた、適正な管理区分・管理方針を設定することで、戦略的な維持管理・更新を推進していく。「数のリスク」の影響は大きなものがある。判断のブレは、大きな損出につながることを意識しなければならないが、自治体の職員においては、これが、大きな課題となるだろうと、感じている。

 さらに今後はこれまでの更新(架替え)とは違い、撤去・除却と言う廃止していく選択肢も重要となる。人口が減少し社会が縮小する中財政も厳しい状況が続くと感じられる。こういった状況下では、“数のリスク“が大きく影響してくると考えられる。これをうまくやらないと破綻はやってくる。事故が起きる。現在の便利さは過去のもので、多少の不便さは享受してもらわなければならない。

 全数近接目視が実行されて2巡目が終わろうとしている。本来やるべきⅢ評価の補修は思ったように進まない。そして、一度補修したにもかかわらず、再劣化が起きているものは非常に多い。私が、問題視しているのは、果たして予防保全は可能なのか?と言うことである。短期間に限れば予防保全活動は可能であるだろう。ここで「予防保全活動」とあえて言う。しかし、今後、長期になってくると自治体自体が疲弊してくる。評価Ⅱの段階で修繕するのが、予防保全の考え方の基本である。評価Ⅲが約7万橋。評価Ⅱは21万橋強であるこれを予防保全できるのか?管理数の多いところはとてもとても、であるのではないだろうか?
 インフラを管理していると、様々なリスクが実際にはある。それは各自治体によってさまざまであり、全国一律と言うわけにはいかない富山では、まず数のリスクをできるだけ減らそう。ということで、「トリアージ」と言った。そこには様々な思いを込めた。きつい言葉を使い危機感を感じてほしいと思ったからである。しかし、うまくは行かなかった。これは民主主義の世の中で住民の選択なので仕方がない。しかし、リスクは自分たちで選択した人たちでとらなければならない。
 「長寿命化」もそうであり「予防保全」もそうである。我々は選択で対応していっている。SNS上では様々な反対意見や非難なども流れる世の中だが、評論家が多すぎる。一見正しそうな意見に従ってしまう。これも民主主義。決まったことは仕方がない。前にも書いたが、私たちは専門家であるが、決定者ではなく、実行者なのだ。決定者(市民も含む)の考えに従うしかない。しかし、決定者の方々は、リスクを受け入れなければならない。反対者の意見のほうが正しいかもしれないし、その逆かもしれない。多数の意見が正しいと限られるわけではない。

 役所の人間はマネージャーである。スペシャリストは民間など、別のところに居て、そのスペシャリストにお金を払って業務をやってもらっている。そして、スペシャリストの報告などを基に判断するのは、役所の役割であり、疑問点などがあれば協議をして解決していく。しかしこの時に、「誠実さ」がないものが時々いる。これは失格である。いくら専門知識があっても、実力があっても誠実さが無ければ、二度と仕事は依頼されなくても文句は言えないが、そうではない自己満足的な方々が中にはいる。そういう方々は、プレイの場所をどうぞ別のところでしてくださいと、私は申し上げてきたが、それすら理解できないようである。専門用語で語るという高度な話ではなく、誠実さが無ければならないということである。

100点満点で30~40点しか与えられない現状
 愚直に誠実にやることが重要

5.まとめ
 最近、「トリアージ」ということをまた、聞きたいという方々が増えてきた。実は、初期のころ、そうは申し上げたが、その時期はすでに過ぎた。もう10年たっている。そして何より、否定され続けた。トリアージが必要なのは初期の段階であり、時間がたてばマネジメントに移行するのが通常である。其れすら理解できなかった方々が、いまさら言ってももう無理である。時期は過ぎたので、今後はマネジメントである。減らせなかった数量は、時間とお金をかけて判断していかなければならない。なので、トリアージは封印し「マネジメント」と言ってきた。トリアージは、マネジメントの1手段、道具である。考え方を示しただけである。これだけでは実行はできない。この国の方々は、一方で平等や公平性と言いながら順番をつけるのが好きだ。単語だけを取り上げて道具なのか? 仕組みなのかわからない方々が多かったのが、私の感じたことであり、このような思考では、マネジメントは無理である。その人がどのような地位に居てもである。これも日本人は、地位でマネージャーとプレーヤーを分けようとする。それは間違いで、そもそもその人間がマネージャーに適しているかどうかが問題なのだ。


橋梁トリアージの時期は過ぎた

 私自身、富山においては、スペシャリストとして活動すべきなのか? マネージャーなのか? 迷ったが、両方のプレーイング・マネジャーを心掛けてきた。そして現役を引退した今はアドバイザーである。

 最近、様々なことで起きている、権力や権威の争いに対して煩わしさを感じる。結局みな順番をつけたがる。競争がしたいのだ。学会でも、技術士会でもその他のことでも、確かにコンペやプロポでも1番にならなければ仕事は取れないが、それはそういう決まりなので仕方がない。かつて「1番でなければだめなんですか?」と言う言葉がはやったが、結局は国と言うか国民が競争と言うか順番付けをしたいのだ。

 私は、そんなことで労力は使いたくない。干されれば干されたで、別に全然かまわない。人間、どうにか食っていければよい。望まれれば、世の中の役に立ちたいと思っているだけである。これも、望まれればである。
 かつてやはり何度か干された時期がある。干されると最初は焦るが、私の場合、必ずや救世主と言うか守護神が、現れた。そして、その温情に甘えながらも捲土重来、一剣を磨くことができた。一応いい加減な人間だが、依頼されたことに関しては真摯に向き合ってきた。安全な場所に居て、リスクをとらないのならばそれなりのキャリア形成となる。先進国では、キャリアとして官と民を行ったり来たりや企業間の異動は当たり前である。日本型の人事システムがそれをしづらくしている。確かに、退職金も年金も損をする。しかし、その程度のリスクはとっても良いだろう。

私は良くコンサルの悪口を言うことで有名になってしまった。しかし悪口ではないのだ、考え直してほしいから言っているのである。いくら優秀で知識も豊富であっても、真摯でない方々が結構いる。それは企業の組織としての方針なのか? 個人のプライドなのか知らないが、真摯でない誠実でない方々はそれなりの人たちである。コンサルのやる仕事の難易度など、たかが知れている、いくらプライドを持っているか知らないが、愚直に誠実にやることが重要なのだ。実際に造れないものを設計されても後工程が困るだけ。

 今一番危惧しているのは、スペシャリストのはずの方々の技術力である。圧倒的に現場の経験が足りない。
 部屋の中に居て、机上で考えていれば、済む時代ではない。やはり現場に出すことそして外からの刺激を受けること。しかし、最終的には個人のキャリア形成や会社としての人材マネジメントなのだろうから、私のかかわることではない。

 これを言うとまた嫌われるが、コンサルの技術力とは? 多くの知見に基づき真摯に誠実に仕事をこなすことなのだが、どうもそうではない人たちがいる。経営競争にあけくれ、大手と競い合い、中身が無いのはいかがなものか? そんな高度な仕事は依頼していない。役所はちゃんと採点してますよ。公表の機会を待っているだけだ。残念ながら、監督員に採点させると、30点台や40点台と言うのが出てくる。もちろん100点満点だ。これでは本来、フィーは払えない。しかし、予算執行上、上司は仕方なく60点台を与える。私も昔、若かりし頃30点台を付けたことがあるので、よくわかるが、もう二度と仕事は一緒にしたくない。そういうところに限ってプライドは高い、だけだ。
 しかし、先に書いた「地上の星」は実はたくさんいると思うので惜しい!

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