道路構造物ジャーナルNET

第89回 真の技術力とは?

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.06.16

誠実に着実に最後まで目的を達成する
 マネジメントに必要な心構え

1.はじめに

 先月、これを読んだ方々から、ミーのお悔やみを言われた。「私の、たわごとを、読んでくださっているんだな」と思い感謝した次第である。

 中島みゆきの「地上の星」という歌がある。かつて、NHKの「プロジェクトX」の主題歌であった。我々の世代では、この歌を聞くと元気になってやる気が出るという者も多い。なんか、力がわく名曲だ。この歌詞は、天空に輝くスターではないけれども、それぞれの分野で地道に地上に埋もれながら頑張る星たちがいるということである。土木屋はこうではなくてはならない。意外と、地上の星たちは多いはずだ!

 しかし、時代は変わった。目立ちたい人たちがいる。儲けたい人たちがいる。それはそれで構わないが、真の技術力とは何か? と聞かれるときに、私は「誠実さだ。」と答える。うわべだけ素晴らしいことを言っても、不誠実では、ならない。マネジメントである。誠実に着実に最後まで目的を達成する。これがマネジメントに必要な心構えだ。

専門用語に拘り過ぎるな
 マネージャーは専門家のエージェント

2.マネージャーとスペシャリスト

 今回のネタに困っていたが、編集者の井手迫氏と話していて、「マネージャーとスペシャリスト」に関して書いてみたらどうか? と言われたので書いてみる。あくまで、実務的植野流の考え方であるので厳密を気にする方は参考に、しないでいただきたい。

 まず、マネージャーとは何なのか、「どうにかする 人」だと、私は考える。どうにかするという考え方がマネジメントには重要である。ここで気を付けたいのは、果たして マネジメントはマネージャーだけのものか? ということ。

 マネージャーに対して、スペシャリスト、専門家というのがあるが、専門家は、専門的な知識や能力を仕事や課題解決に活用していく能力を持つ人たちである。実際にはプレーヤーであり実施していく専門家である。

 スペシャリスト(専門家)と、マネージャー(マネージャー)の分担。専門家にはマネージャーが必要である。自らの知識と能力を全体の成果に結びつけることこそ、専門家にとって最大の問題である。専門家にとってはコミュニケーションが問題である。自らの成果・結果が他の者のインプットにならないかぎり、成果はあがらない。専門家の成果・結果とは知識であり情報である。彼ら専門家の成果・結果を使うべき者が、彼らの言おうとしていること、行おうとしていることを理解しなければならない。

 しかし、専門家は専門用語を使いがちである。専門用語なしでは話せない。ところが、彼らは理解してもらってこそ初めて有効な存在となる。彼らは自らの顧客たる組織内の同僚が必要とするものを供給しなければならない。このことを専門家に認識させることがマネージャーの仕事である。よく多くの場合、マニュアルやガイドライン、手引きというのが作られるが、実際に使われない、使えないのは、専門用語にこだわりすぎるからであり、自己満足になってしまいがちである。
 組織の目標を専門家の用語に翻訳してやり、逆に専門家の成果・結果をその顧客の言葉に翻訳してやることもマネージャーの仕事である。言い換えると、専門家が自らの成果・結果を他の人間の仕事と統合するうえで頼りにすべき者がマネージャーである。専門家が効果的であるためには、マネージャーの助けを必要とする。しかし、マネージャーは専門家のボスではない。エージェントである。

 逆に専門家は、マネージャーの上司となりうるし、上司とならなければならない。教師であり教育者でなければならない。自らの属するマネジメントを導き、新しい機会、分野、基準を示すことが専門家の仕事である。スペシャリスト・専門家は自らのマネージャーよりも、さらには組織内のあらゆるマネージャーよりも高い立場に立つ場合もある。この観点は非常に重要だ。恐らく多くの組織では、スペシャリストは組織図上マネージャー配下に付く形となり、マネージャーが評価や給与を決定する役割を一部担うことになる。となると、上下関係でマネージャーが上、スペシャリストが下のように見えがちだ。しかし、野球の大谷のような、スーパー・スター(スペシャリスト)が、監督やコーチよりも収入が多くとも不思議ではない。


スペシャリストの要件

 マネージャーにできなければならないことは、そのほとんどが、いちいち、教わらなくとも学ぶことができる。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。「「真摯」さである。」とドラッガーも言っている。私もそう思う。プロジェクトを実行していくためには、内部的にも対外的にも真摯であることが一番重要である。誠実さである。意外と優秀なのだがこれが欠けている者がいる。残念なことだ。この誠実さに関しては後で少し書く。「ひたむきに、誠実に事に当る様」のことで、必須のものである。これが無ければ、次はない。

 そして、マネージャーとスペシャリストの中間的な、両方をこなす、プレイング・マネージャーという者も存在する。

二宮尊徳 住民の悪習を改革し生活を改善
 富山市の土木技術職員は北陸最強の自治体職員集団に成長

3.仕法 ⇒マネジメント

 幼少のころ、祖父や父から、よく「二宮尊徳」の話を聞かされた。二宮尊徳と言えば、学校などに有った銅像の幼少期の薪を背負い本を読んでいる姿が有名であるが、そうではない。尊徳が実行してきた、農村改革は様々な工夫とそれまでの人々の心にも入り込んだ、住民たちの悪習の改革であった。これは経済改革でありマネジメントである。これがすごいのである。特に関東には尊徳によって改革されてきた地域が多い。多くの人たちが尊敬するゆえんである。根本は住民の生活が改善され楽になったからであり、領主のお家事情も尊徳によって、財政再建がなされた。私が一番、感じ入ったのは住民の悪習と言うか、あきらめと言うか?過去の慣習に従っている習慣を改革し、新たな生産性を生み出したところに有る。

 最近、また「報徳記」など、二宮尊徳関係の書物を、ひっくり返して、読み直しているが、まさに、「マネジメント」である。一つの地域の、再生改革を実行していくのだが、厳しい道である。多くの工夫と人心までをも改革する手法。それに大きくかかわるのは、そこの住民の気持ちである。これは、まさに「マネジメント」である。尊徳は「仕法」と呼んだ。100%成功したわけではない。途中で、言うことを聞かない住民たちに腹を立てて隠れてしまったこともある。私は、そのくらいのことをしなければ、改革はできないと思う。良い子ぶって、耳障りの良いことを言っているようでは、改革は無理だ。だから現在は何も変わらない。

 マネジメントを実行していくには、多くの方々の協力、理解を得なければ実行できない。今、多くの自治体で、様々なマネジメント手法が実行されようとしていると望みたい。しかし、上意下達方式では実行は難しい。尊徳も、多くの反対にあい、実行がとてもとても無理だという時には引いている。これは、戦いの基本である。無理強いしても、うまく行かないし、実行自体が困難である。理解して、協力してもらわないとならない。しかし今の世の中の多くは、逆で、理解していると口では言うが、協力しないで反対する。「合意形成や協働と言いつつ、都合の良いことには賛成するが不都合には反対するというのが社会の姿。」だいたいが、これらのことを言う人たちは、実際に反対にあい、苦労した経験がないうわべだけの場合が多い。

 私は富山において、あえて言っていないが、職員の意識改革を重んじた。あえて答えはすぐに言わず考えてもらい、対処してもらう。コンサルや業者の使い方もそうである。これが「植野塾」であり、職員の考え方、思考を変えてもらうことに特化してきた。日々「植野塾」であったのだが・・・。自分で考えられる職員教育を目指したわけであるが、成果は結構出ていると思う。評価してもらおうとは思わないが、最初に赴任したときの職員と現在では個々の能力が違っていると思う。これは自信を持って言える。おそらく、北陸最強、いや、日本最強の軍団になっている。

 私にもよく、わざわざ「合意形成とか説明責任が重要だ」とか、「教育が重要だ」とか、アドバイスをいただくが、簡単にできないから苦労した。そういう方々には「じゃあ、自分でやってみれば。」と言う。いつでも、明け渡すつもりで居た。人には“心“がある。プライドもあれば、生い立ちによる基礎意識も違う。それを一律に、何とかするのは非常に難しい。自分で気づきやるしかないのである。


富山市橋梁マネジメント計画

 マネジメントを行っていくうえで、よく、マニュアルがどうのとか基準がどうのと言う話になる。これはおそらく、マネジメントには合わない。スペシャリスト(専門家)の話である。顧客やプレーヤーには通じないがそれが、スペシャリストには理解できていない場合が多い。どうも、多くの人々は、すぐに「ガイドライン」や「マニュアル」を作ろうとするが、それを受け入れて、実際に使う人が居るのかを考えなければならないのだが、なかなかそうはならない。造る側がスペシャリストなので、翻訳ができていないからである。人が、マネジメントの基本である。これは間違いない。
 例えば、自治体に様々なマネジメント思考を導入しようとするときに、いきなり小難しいマニュアルを持ってきても作っても活用はされないし長続きはしない。ここがどうも、賢い人たちにはわからないようだ。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム