道路構造物ジャーナルNET

第46回 技術基準(示方書、設計標準)について

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2023.06.01

2.5 基礎がそれまでより大きくならないように、上部と下部が整合しない設計ルールとした1983(昭和58)年の基準
 宮城県沖地震の後に鉄道の設計標準の改定を担当しました。1Gの弾性応答加速度の地震に対して、構造物の靭性率を4程度確保し、耐力は震度で0.375(震度0.25×1.5)確保することで、弾性応答加速度1Gに耐えられるルールとしました。この震度で基礎や杭を設計すると、許容応力度を5割増しにしても今までよりも基礎や杭が大きくなりました。そこで、当時の構設の所長や次長と相談しました。宮城県沖地震で上部は壊れましたが、基礎は壊れていないので、基礎はそれまでの震度0.25のままの許容応力度の設計基準としました。理論上の整合は取れませんが、実務の設計基準としてはその方針で行くことにしました。
 国鉄の分割の後、設計標準の実務は鉄道総合技術研究所に移りました。1983年の設計標準はできるだけ設計の手法を変えないで、1Gの弾性応答加速度の地震に耐えるように改定したのですが、JRになり総研が担当した改定では1Gを表に出した基準となりました。また上部も下部も一体に計算するように理論的に整合がとられた基準となりました。
 それまで造られた構造物の基礎は新しい基準では既存不適格となります。最近の大地震での既設高架橋の被害からは、基礎は上部よりも強い結果となっていますので、実際の損傷と合うような研究、改定を進めてもらいたい事柄です。

2.6 問題のない構造物を既存不適格にする改定をしないように
 地震などで構造物に被害が生じたことから、地震荷重が変わって既存不適合となる構造物が生じるのはやむを得ないものがあります。しかし、理論研究の成果のみで設計式を変えて、今まで何も問題なく使われてきた構造物を既存不適格とするのは困ります。
 研究者が正しい式を発表するのは良いことです。しかし、この成果をそのまま、今までの設計標準の設計式に置き換えるだけでは駄目です。今までの式で、既設構造物が計算上安全でないとなった場合、実構造物に問題がないのであれば、設計の体系上にどこかに誤りがあることとなります。荷重や安全係数、構造モデルなどに安全が多く含まれていることも考えられます。
 技術基準を修正するときは、実構造物に問題が生じていないなら、今までより過大な構造物にならないようにバランスを取って修正すべきです。本来研究が進めば、不確定要素が減ったので、トータルとしてコストダウンなどに結びつくのが自然です。設計は、体系として安全な構造物を造るようにしてきています。部分の研究成果のみを単独に取り入れるのでなく、トータルとして出来上がる構造物が妥当かを検証しながら直すことが大切です。
 技術基準の変更で、既存不適格が生じる場合、本当に既存構造物が危険なのかどうかの説明責任を果たすべきだと思います。

3.設計基準のみでは図面はつくれない

 設計計算は、主な断面の曲げやせん断の断面力と抵抗力を比較し、仮定した部材の大きさや、鋼材量が妥当なことを証明しています。図面に概略の形状はこれで書けますが、実際の配筋図は計算書には書かれていません。図面には、RCであれば鉄筋の定着や、継手位置や配力鉄筋や、用心鉄筋など計算書に書いていない部分も、手に入る鉄筋の長さなどを知ったうえで、適切に図化しなくてはなりません。
 計算で求められる主要断面の鉄筋量は計算書から書けますが、鉄筋の継手位置や、定着位置などはノウハウがないとなかなか書けません。実構造物の多くのトラブルはこれら計算書にない定着や継手の詳細の不都合で生じることが多いのです。これらは、計算ではなく、過去のトラブルの経験から配筋の仕方を工夫してきているからです。
 25mを超えるスパンのRC桁も十分設計はでき、実際に施工もされていますが、多くはひび割れ幅が大きくなりすぎて、多くの先輩が補修に苦労しています。計算上は成り立っても、実際にひび割れ幅が計算以上になってしまった経験から、25mを超えるようなRC桁はほとんど計画されなくなってPC桁となっています。
 橋脚天端の張り出し部の鉄筋は、張り出し部付け根で計算され、梁の上側に配置されます。この鉄筋を躯体の天端に30Φや40Φなどと伸ばして定着して造った橋脚に、鉄筋定着端部に大きなクラックが生じたことがあります。その後は、橋脚天端途中で定着せずに反対側の張り出し部の鉄筋とつないで配筋がされています。
 このように今の実際の設計図の配筋は、過去のトラブルの経験のうえに多くが行われています。

4.新幹線構造物の設計基準の変遷

 新幹線では、東海道新幹線は1955(昭和30)年の、その後の多くの新幹線構造物は、1970(昭和45)年の設計標準に依っています。これらは震度法の耐震設計です。
 東北新幹線の大宮-東京間の一部、長野新幹線からが1983(昭和58)年の設計標準で造られています。この昭和58年の設計標準から、最大の地震として1Gの弾性応答加速度が考慮されています。
 また阪神大震災以降に、想定する最大の地震による弾性応答加速度が2Gレベルに引き上げられています。
 昭和58年より前の基準で造られた新幹線構造物は、阪神淡路大地震をはじめ多くの大地震を近年経験してきました。阪神大震災で高架橋が倒壊した原因は、柱のせん断耐力不足です。技術基準のせん断耐力が過大評価されていたことと、柱の靭性が必要というルールになっていなかったことが原因です。そのことを除けば、技術基準の不備が原因での大きな損傷は生じていません。設計標準が厚くなりすぎないような改定も考えていって欲しいですね。

5.工事の契約には計算書はなく、設計図のみ

 設計計算が行われ、設計図にその成果はすべて集約されます。工事の契約には設計計算書はつかず、設計図面のみが契約書として付けられます。計算書がどんなに精緻につくられていても、多くは失われてしまっても困らないという扱いです。設計図を作るために必要な参考書類である設計計算書は、工事契約上はあまり重要なものではないと言えるでしょう。
 海外では、設計の照査は計算書をチェックするのでなく、図面を照査者が独自の方法でチェックすることが行われているとのことです。計算書をチェックするのは照査ではなく検算なのでしょう。
 また施工については、発注者と建設会社との契約時に、基本契約書と一緒に設計図と、各機関の土木工事標準示方書(仕様書)などが契約書の一部となります。学会のコンクリート示方書の施工編が、この契約時に添付されることも多くあります。
 契約書ですから技術的な判断よりも、契約通りに行うことが義務付けられるものです。契約書に書かれたとおりに実施することが求められます。現場の技術者にわかりやすいものとすることが大切です。厚くて、難しければ間違ってしまったり、使われなくなるでしょう。

インドでの新幹線高架橋建設

 5月の連休明けに1週間、日本のODAで実施されているインドの新幹線高架橋の建設現場を見るのと、インドの大学や新幹線工事の施工者や発注者とのコンクリートの品質に関するフォーラムに参加してきました。
 場所はムンバイ-アーメダバード間500kmの新幹線の中間地点のスーラツトという都市です。この都市の人口は600万人とのことで、ダイヤモンドの研磨で有名な都市とのことです。ニューデリーまで行って、インドの国内線でその都市に移動します。国内線の飛行場も人であふれており、折り返しの飛行機の清掃時間もぎりぎりで運行されていました。飛行場も道路も各地で拡幅工事が盛んに行われています。
 新幹線の建設現場を見せてもらいました。2日間ですが、気温は42℃で、現場移動のたびに水を補給しました。1日目は長袖のシャツで暑かったので、2日目は半袖にしたら、腕が真っ赤に日焼けしてしまいました。
 500㎞間にインドの州が2つあり、北側の州知事は今の首相派でしたので、工事はどんどん進んでいます。南側の州知事はしばらく前までは、反首相派でしたので全く契約ができなかったのですが、しばらく前の選挙で、首相派に変わったので、一気に工事の契約が進みだしています。写真-2は高架橋の様子です。桁式の高架橋がどこまでもできているのが見えます。


写真-2

 工場にて40mスパンのPC箱型桁を製作し、架設した桁上を運搬しては、次々と架設し延長を伸ばしています。写真-3は工場で、製作されたPC箱型桁が積み上げられています。
 写真-4は桁の架設機です。工場から桁上を運搬した箱型桁を、この架設機を用いて順次架けていっています


写真-3/写真-4

 現場の責任者の話では、施工は24時間施工とのことです。一番の意識の中心は工期のようです。どの現場でも、予定の工期よりどのくらい短縮しているかということを盛んにPRしてくれました。高度成長期の「24時間働けますか」という日本のドリンク剤のコマーシャルを思い出しました。
 設計は橋脚と桁は日本にて標準設計を作成してインド側に渡しています。施工者はそれを加工して組み合わせて構造計画をして施工します。桁はスパン5mごとに、橋脚は3m高さごとの図面を渡し、その間のスパンと高さの変更の仕方を一緒に記しています。
 特殊橋梁などは個別に日本にて詳細設計を行って渡しています。

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