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第44回 武蔵野線高架下火災(43時間燃え続けた古タイヤの火災)

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2023.04.01

3.被災後のコンクリートと鉄筋の性状

 コンクリートは一般には熱に対して強く、また熱伝導率も小さいため、残っている範囲は表面付近を除いては再利用可能と思われる状況でした。コンクリートの圧縮強度は被災温度が高いほど低下し、また弾性係数の低下は著しくなります。しかし、その後の時間経過とともに強度、弾性係数とも回復してきます。500℃以下ですと、1年で強度は9割程度まで戻るといわれています。
 被災コンクリートからコアを抜いて圧縮強度、弾性係数を測定しました。コア採取可能な範囲なので、表面付近は測定できていません。設計基準強度に対してスラブのコンクリート強度は若干低下しています。スターラップで囲まれた梁、柱のコンクリート強度は建設時の強度より低下していますが、設計基準強度以上の値が得られていました。しかし、弾性係数は梁の例では、0.8~1.9×105kgf/cm2 程度と設計値の2.7×105kgf/cm2よりかなり低下していました。コンクリートの表面付近の状況を図-2に示します。


図-2 被災コンクリートの表面状況

 コンクリートの被災温度の調査としては、コンクリート表面部分を薄く削り、粉末にしてX線分析をしました。珪灰石を1200℃以上に熱して生成する擬珪灰石の結晶の存在から、1200℃以上に受熱したものと推定されています。

 鉄筋も高温を受けたので、鉄道技術研究所の金属材料研究室にて調査してもらいました。結晶粒の大きさから1200℃以上の熱を受けたと推定されています。また、スラブの上側鉄筋にはいずれも組織の変化は生じていないと報告されています。

4.復旧方法

 被災した高架橋は駅構内で4線の軌道があったので、片側2線を仮復旧して列車を通し、残り2線を本復旧し、その後仮復旧の2線を本復旧部分に移し、仮復旧部分を本復旧するという順序に決めました。
 仮復旧は、スラブの下側鉄筋の重ね鉄筋が垂れ下がっている範囲は、既設のスラブの上をそのままで列車を載せられないので、横梁間にH型鋼の軌道桁を設置して、その上に列車を通すこととしました。軌道桁を支持する横梁は一時的に地上から支保工で補強する構造としました(図-3・写真-9)。


図-3 仮復旧図

写真-9 片側2線を仮復旧

 本復旧は、かぶりが剥落して重ね継手の鉄筋が垂れ下がってしまった損傷の大きいスラブはハンチまでコンクリートを取り壊して、もとの鉄筋と重ね継手で、新たなスラブの鉄筋を配置し、コンクリートを打設して原形復旧しました。損傷の少ないスラブは、モルタルをスラブ下面に吹き付け中性化対策を兼ねて補修しました。
 梁と柱は15㎝厚で鉄筋コンクリート巻補強を行いました。7割は既存の鉄筋で、3割を新しい鉄筋で負担するという考えで、追加の鉄筋量を決めました(図-4)。後打ちのコンクリート断面が小さく、乾燥収縮によるひび割れが心配されたので膨張材(CSA100R)を使用しました。写真-10に、柱の補修状況を示します。


図-4 復旧詳細図

写真-10 柱の外巻き鉄筋コンクリートの施工

 損傷の少ないスラブの補修は吹付けモルタルを施工しました。吹付にはセメントと骨材を練り混ぜてノズルまで送り、ここで水と合流させて、圧縮空気で吹き付ける乾式工法と、全材料をミキサで混ぜノズルに送り吹き付ける湿式工法がありますが、この時は、乾式工法を選びました。
 吹付にあたっては、後で剥がれるかどうかの良し悪しは、吹付の施工をする職人の技能にかかっているとのことでした。その分野に詳しい人に相談して、個人を指名して施工してもらうことにしました。そのおかげで、吹付は今でも問題を生じていません。
 復旧後の状況を写真-11に示します。


写真-11 復旧後の状況

5.火災被害の鉄筋コンクリート構造物について

 この火災は大量の古タイヤが長時間にわたって燃えたため、高架橋が大きな損傷を受けました。最高温度は、コンクリートの損傷状況や、鉄筋の組織の分析結果から1,200~1,400℃と推定されています。コンクリート表面が火災直後には部分的にガラス化していました。この火災は高架下の火災としては例外的に大きく、一般には高架下の火災は数時間程度がほとんどです。
 火災での燃える材料と、燃焼時間がわかると、構造物の損傷はおおよそ推定がつきます。
 鉄道高架下の火災は時々起きます。多くは高架下を借りている店舗の火災です。ほとんどは1~2時間程度で消火されます。警察や消防の現場検証が終わらないと鉄道の関係者は調査ができません。現場検証が終わってから、鉄道関係者は現場に入り、列車を通して良いかどうかの判断をします。
 現地の責任者が判断に迷うときに、多くは夜になりますが、ときどき私の自宅に電話がかかってきました。翌朝の初列車を通してよいか、すぐ来て、見て判断してくれと夜の12時過ぎのこともあります。燃焼時間と、スラブ下面の目視での状況を聞いて、ほとんどの場合は、翌朝の初列車は通してよいと返事し、翌日の早朝に現場に行ったことが多かったです。燃焼時間と、コンクリートの表面の損傷状況を聞くことで、列車を通して大丈夫かの判断はほぼ可能です。1~2時間程度の火災では、コンクリートのかぶりが大部分残っている状況がほとんどです。鉄筋が表面に出ていない程度なら、内部の鉄筋やコンクリートは十分な強度を保持していると判断できます。「列車をそのまま通しても大丈夫です」と返事をしていました。
 高架下を貸し付ける場合は、燃えた時に大きな熱量の生じるものを扱わないよう取り決めるなど配慮も大切です。
 かぶりが部分的に剥落した程度の被害状況の場合は、過去の火災被害での多くはスラブ下面への吹付コンクリートの補修が行われてきました。補修後数十年経たものを見ると、健全なものがほとんどですが、中には吹付け部が剥離しているものもあります。施工の良し悪しが影響していると思われます。
 重ね継手の鉄筋が垂れ下がることはないが、かぶりが多く剥落して鉄筋が見えている範囲が大きい場合は、鋼板圧着工法を採用している例もあります。エポキシ樹脂でスラブ下面の表面の不陸を整正し、アンカーボルトを埋め込み、鋼板とスラブ下面にエポキシ樹脂を塗布し、その後、鋼板をアンカーボルトにて締め付け、鋼板を圧着する方法です。
 鉄筋の強度は熱を受けても冷えればあまり変わらず、コンクリートも残った範囲は、ヤング係数は若干落ちますが、強度はあまり落ちないので、鉄筋の付着や重ね継手などは若干の性能低下が心配ですが、それを除けば、鉄筋コンクリートは火災に対してはかなり強い構造と言えると思っています。

【参考文献】
1)石橋忠良;災害大国日本 鉄道の災害と復旧を通してー明日の技術者へ 第1回〔火災〕武蔵野線高架下火災;セメントコンクリートNo875 Jun 2020 (社)セメント協会
2)石橋忠良、小林明夫、大坪正行;火災を受けたRC高架橋の調査報告、構造物設計資料No.66、1981
3)田中宏昌、石橋忠良;鉄道高架橋の火災被害とその復旧、コンクリート工学、Vol.19、No.6、1981
(次回は5月1日掲載予定です)

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