道路構造物ジャーナルNET

第42回 河川増水での洗堀による橋脚の転倒

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2023.02.01

2.花輪線 長木川橋梁の洗堀による橋脚転倒4)

 次に紹介するのは、民営分割化後のJR東日本での災害です。1997(平成9)年9月3日6時53分、花輪線東大館-大館間の長木川橋梁において、列車脱線事故が発生しました。事故原因は降雨による河川増水により橋脚基礎部分が洗堀され、橋脚が倒壊したためです。当時、秋田県全域は2日夜から3日朝にかけて断続的に激しい雨が降り、交通機関、住宅などに大きな被害をもたらしました。

2.1 長木川橋梁の概要
 長木川は米代川の支流で、秋田県管理の一級河川です。長木川橋梁は橋長125mで、1914(大正3)年7月に建設され、この災害時で経年は83年となっていました。上部工はプレートガーダー15連(支間長6.63~9.75m)、下部工は橋台2基と、橋脚14基からなっています。図-4に橋梁側面図と被害箇所を示します。


図-4 長木川橋梁側面図

2.2 被災履歴
 この橋梁の災害履歴を見ると表-2のようになっています。1956~1957(昭和31~32)年頃に河川中心部橋脚(4P、5P)の洗堀、1961~1962(昭和36~37)年頃の終点側の10Pから14Pの橋脚の洗堀、1972~1973(昭和47~48)年頃の起点側護岸、河床コンクリートの洗堀などに対して、種々の対策が講じられています。


表-2 橋梁の被災履歴

2.3 今回の災害状況
 私は被災後、現地調査にすぐに行きました。現地には鉄道と、現場近くからは車で案内してもらいました。現地に着いて携帯電話で連絡を取ろうとしても、当時はアンテナマークが生じず圏外となり、携帯電話がつながらない状況でした。
 転倒した橋脚は、河川の流心部ではなく、普段は水が流れていない場所の橋脚でした。増水により、河川の流れが変わり、普段水の流れていない転倒した橋脚付近に流れの中心が移ったとのことでした。日常では水が流れていない場所なので、防護が手薄になっています。このようなところが増水時に流れの中心に変わることで被害を生じることが、今回以外にも何度か経験しています。
 主な被災状況は以下の通りです。
 1)9P、10P橋脚の基礎下部洗堀
 2)11P橋脚の基礎下部洗堀による橋脚転倒
 3)河床コンクリート下部の路盤材流出
 4)河床コンクリートの沈下、崩壊
 5)10Pから2P間の軌道の垂下(最大500mm)

 写真-6は11P橋脚1基が転倒し、レールに橋桁がぶら下がっている状況です。この状況のレールの上を列車が走行しています。レールの強度だけで列車を支えていたことになります。レール2本で100トン程度の引張強度があります。


写真-6 橋脚が転倒し、桁がレールで吊るされている状況

 写真-7は転倒した11P橋脚の下部の状況です。シートパイルの根固め工は残っています。


写真-7 転倒した11P橋脚下部

2.4 橋脚の復旧
 倒壊した橋脚は小割にし、路盤材として使用し、木杭はすべて引き抜きました。造りなおす橋脚はRC構造とし、杭はH形鋼を用いました。長さは今回の洗堀深さから2mの余裕を確保したものとしました(図-5)


図-5 復旧する橋脚

 また倒壊した橋脚の近くの9P、10Pはフーチング下面の土砂がなくなり、木杭が見えている状況でした(写真-8)。


写真-8 橋脚洗掘状況

 フーチング下面を洗浄し、その空隙にH形鋼を配置し流動化コンクリートで充填しました。合わせてH形鋼の杭を追加して、杭の補強も行いました(図-6)


図-6 9P、10P橋脚の補強

2.5 上部工の復旧
 倒壊した橋脚上の桁2連は、まずは仮橋脚にて桁を支え(図-7)、それから桁をクレーンで撤去し、損傷部の部分取替えや、補修を行うことで再利用しました。
 工程表を表-2に示します。1997(平成9)年12月18日(事故から106日)に、営業運転が再開されました。


図-7 仮橋脚にて桁を支えた

表-2 工程表

3.おわりに

 最近は気候変動の影響なのか、過去に例のないと言われる降雨があり、それによる河川水位の上昇で、桁が流されたり、橋脚が洗堀で転倒という例が多くなっているように感じます。


昨夏の水害で損傷した濁川橋梁(井手迫瑞樹撮影)

 特に鉄道在来線は歴史が古く、今年は開業151年目になります。メンテナンスの仕組みが早くからつくられていることで、建設当初のままの構造物が今も多く存在しています。河川は橋梁で渡らざるを得ないので、鉄道建設当初から橋梁はつくられています。
 河川改修などで新しい橋梁になったものは、基礎なども深く洗堀に対しても安全となっています。初期の橋梁基礎は、今回紹介したようにレンガや石での井筒基礎などが多く、深い基礎にはなっていません。それなりの洗堀への防護がされてきてはいます。多くは増水の検知と、洗堀の検知をする計器などを設置し、人命の安全を確保するために、増水時には列車を止める対策がとられています。
 国内では増水時には安全のため列車を止めながら、100年以上前のインフラを使い、一方、新興国に最新の鉄道インフラを整備するという技術協力に係っているので、私自身、時々矛盾を感じます。

【参考文献】
1)牧添親男 土井利明 富士川橋梁災害 鉄道土木Vol26?5 (社)鉄道施設協会 1983年
2)構設資料No.73、グラフ、国鉄構造物設計事務所監修、(社)鉄道施設協会1983年
3)鉄道施設技術発達史 P530  (社)日本鉄道施設協会 平成6年1月
4)佐藤春夫、玉野恭嗣、中林好範、大槻茂雄;長木川橋梁の災害と復旧について、SED10号、JR東日本(株)構造技術センター1998年
(次回は、3月1日に掲載予定です)

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム