道路構造物ジャーナルNET

第84回 「たかが伸縮、されど伸縮」

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦 氏

公開日:2023.01.16

1.はじめに

 新年あけまして、おめでとうございます。本年は皆さん、世の中は暗いですが楽しくやりましょう。

 令和5年度の公共事業予算は、例年並みで横ばいでした。老朽化の進行は、もはや止められないだろう。建設業界は人材不足が続いている。これは一朝一夕には解決できない。また、人材教育にも関心が高まっているが、非常に難しい問題だ。皆さん実施しようとはしているが、どうしたらよいのかわからないという話を聞く。私のやってきた「植野塾」に関して、今も、場所を変えてやっているが、良く問われるのは、「効果はあったか?」「どのような効果があったか?」だ。確かに評価する立場の方々は、そう言いたくなる。しかし、私は評価を受けようと思ってやってないし、人を育てるというのは非常に難しい。自助力に期待して、自分自身で育ってもらうしかないと思っている。その後押しをするだけである。これがすべての道に通ずるところだろう。

2.前回の反省

 前回の記事で、ご意見をいただきありがとうございました。しかし誤解もあったようなので、訂正と言うか、加筆したいと思う。わたしの文章能力の無さと、もっと詳細に述べればよかったと反省している。しかし、この場の私の文章は「資料集」や「論文」ではないので、その点は大目に見てもらいたい。添付資料も詳細なものは付けていないのは、そういう意図からである。

(1)伸縮継ぎ手について
 これに関しては昨年度、書いている。土木学会に論文にもあえて出した。皆さん興味の無いだろう付属物に関して、一石を投じるつもりであったからだ。決して「富山で伸縮装置を作っている企業が問題なのではない」逆である。この企業とは別に協力依頼しても無反応、無視状態であった企業のほうが多く問題である。まあ、これは、たかが地方自治体の職員の依頼なので、軽視されたのだろうから仕方がない。そんなことはたくさんある。枚挙すればきりがない。この辺もいずれ書いていく。日本の国において何が問題かと言うところに関わるからである。発注のシステムが何十年、いや明治以降大きく変わっていないからである。
 伸縮装置の構造は複雑である。なかなか理解できない。私が社会に出た1980年代では、工場製作の伸縮装置が主流であった。設計も実際にメーカーで行っていた。設計を基に、橋梁メーカーの工場内で、加工し製作していたが、フェイスプレートには極厚のPLが使用され鋼重の割には、加工量が多く、橋梁メーカーとしては、製作コストが見合わないと良く言われていた。そのころ新人だった私は、来る日も来る日も、伸縮装置の設計と図面を書かされていたが、フィンガーを書くのが面倒だったし、リブの取り合いなども複雑で、床版の端部鉄筋との取り合いや、排水装置なども厄介だった。これが、二次製品の伸縮装置へと変わっていき、製品化され専門のメーカーが出てきて、「なんて楽なんだろう。」と思った。


従来の製作伸縮装置

 それで、なんで、書いたかと言うと、どだろうか皆さん、伸縮装置に関して真剣に考えているだろうか? 私が言いたかったのは、伸縮装置を決めるときに、意思決定のプロセスをちゃんと考えているか? と言うことである。特に発注者は、安易に決めているのではないだろうか? 富山で大きな疑問だったのが、ほとんど同じメーカーの製品を使っていたことだ。それで、ある時、大型の案件で、私のところで承認印を止めた。担当者とコンサルを呼び採用理由を聞くと、選定条件の検討が不十分であることが分かった。「気軽に図面を書いてくれるメーカーのものにした。」と言う理由であったが、まあ、気軽に図面を書いてくれるということには企業の営業戦略としては正しいと思うが、造る時代の伸縮装置の選定条件は、コストが重要視された。しかし、維持管理の時代になればおのずと違ってくるはずである。ので、その辺の決定根拠を聞くと、黙ってしまう。


 これでもいつも気を使って書いている。あまり真実を正直に書くと、困ることが見えてくるからであるが、それが実態で誤解を受けるのでもう少し書くことにする。まあ、しかしこれも受け止める側の感性によって、いろいろ取られてしまう。

 まずは、発注者であるが、
 ①伸縮装置を付属物として安易に考えている。本体ではなく、どうせ付属物だから。と考えていない
か?
 ②設計の要素として何が重要か考えていない。かつては、「コスト」がすべてであった。しかし、維持管理の時代では、これまでの伸縮装置の常識の他に、耐久性や止水性が問われるはず。その評価をきちんと設計時に、コンサルと議論しているか?
 ③意思決定には、総合的に判断し、次の交換がいつになるか想定し本体や他の部位との関係性からマネジメントできているか?

 設計を実際に行うコンサル側は
 ①伸縮装置を付属物として安易に考えている。本体ではなく、どうせ付属物だから。と考えていないか?(発注者と同様)しかも、メカーに丸投げ的に頼っていないか?仕様はきちんと理解し、納得しているか?
 ②設計の要素として何が重要か?「コスト」がすべてではない。維持管理の時代では、これまでの伸縮装置の常識の他に、耐久性や止水性が問われる。その評価をきちんと設計協議時に、発注者と協議し、納得されているか?
 ③意思決定には、総合的に判断し、次の交換がいつになるか想定し本体や他の部位との関係性からマ
ネジメントの議論ができているか?
 ④もしかして、丸投げではないですよね!


伸縮装置の課題

 さらに、伸縮装置のメーカーに対しては、
 営業をコンサルにしているのは自由だが、お金はどこから出ているか? と言うことを考えてほしい。官側に対して、仕様やセールスポイントなどを定期的に説明できているか? 相手には納得してもらっているか? と言うことである。維持管理の時代であれば伸縮装置だけをとっても課題は多い。その耐久性や、止水性の悪さからくる桁端部の劣化等、多くの条件を考慮しなければならないが、恐らくコンサルさん、自分で伸縮を設計し、図面を書き、取り合いなどを検討したことがある方が、どれだけいるか?
 さらに施工業者は、現在の伸縮装置の交換などの施工の仕方が、伸縮装置メーカーが、現場まで搬入するところまでを、担当し、設置は土建屋さんと言うのが一般的である。伸縮装置の設置にはフェイスプレートの現場溶接作業もあるが、溶接の管理は十分なのか? さらに、パラペットや床版端部の斫も伴うが、重要な構造に関わる鉄筋を切断してしまっているものもあった。ここで、伸縮装置メーカーの方には、できるだけ現場での設置の指導もお願いしているがなかなか難しいようである。
 「たかが伸縮、されど伸縮」なのである。一般的に伸縮装置は、消耗品なので、交換が必要である。ほぼ20年がその想定年数であるが、中には交換後2年で破損した事例も実際にはある。これを前に書いた時に、「交換前の写真だろう」某社が言ったということが伝わってきているが、ならば現場に行けば確認できるし、自分のやったものは機械があるごとに確認したくなるのが技術者だと思うが。いかがか? 20年の予測のはずが2年で壊れた、コストは10倍になる。こいうことは、財政上無駄であり、市民に対して不遜な行為である。


交換後2年で損傷した伸縮装置

伸縮装置からの漏水による影響

 伸縮装置の設計は,発注機関によって考え方、形状、仕様が異なっており、概ねNEXCOなどの旧公団等と国土交通省仕様に分かれ、自治体は国土交通省の仕様に従って設計されることが多い。
 一方、自治体では技術者が限られているため、橋梁(補修)設計の多くは委託として建設コンサルタントに発注し、伸縮装置の製品検討についても同時に委託され、納品された成果物を自治体にて精査する流れが一般的である。この様な中、建設コンサルタントから上がってくる伸縮装置の成果物を確認すると、どうも、検討が不十分であることが懸念された。

 これは伸縮装置が橋梁の長寿命化において非常に重要な付属物であるものの、国内に明確な規格基準が古い状態であり、経験的に実際に設計した技術者は限られる。そして、選定を行う建設コンサルタントや成果物の精査を行う自治体担当者が製品選定で重視するポイントを抑えられていないことが、本来必要な性能比較を十分に行えていない状況に起因していると考えた。こうした傾向からも本来積極的に導入する必要がある新技術やライフサイクルコスト低減可能な製品が選ばれにくい状況であった。また回りくどい言い方になっているが、その時のコスト……実際は、快く下請け設計をしてくれる企業の製品となってしまっていることが多い。これでは十分に老朽化対策にはならないことを考えなければならない。

(2)ドローン
 新技術の導入などでドローンの使用が脚光を浴びている。これに関しても私が否定したととらえた方々が居たようである。否定はしていない。ドローンはあくまで機械であり、使い方が問題なのだ。こういった、装置は使うものの意思が重要だ。何のために使うのか目的が明確でないとダメ。そして何がしたいのか? であるがこの辺は近接目視に変わる方法として使うことは分かる。人間が行くのが大変なところの状況を見るうえでは、非常に有効であると考えられる。ただ、ドローンは場所の問題、構造系の問題などが、大きく影響する。富山の場合は、用水などの中小の橋梁の数が多く、あまり利用できる場所が少ない。なので、試行はしたが、実際にはほとんど使用していない。使い勝手が多いのは、同じドローンでもボート型のような、水面と桁下空間が無いような構造物を診るものが必要であるが、操縦性などに問題が有る。災害や、今後の大規模のり面等の検証委は必要になるだろう。
 ドローンがもてはやされるているが、役所側も受注者側も、ある程度の技術力が求められることを忘れてはならない。これはなんでもそうだが、ドローンを使って撮影すればやったつもりになってしまったのでは、管理者がそれでよければ、かまわないが、診断は難しいと、私は思う。ドローンを使うから良いのではなくて、考えて使用するから良いのだ。もっと言えば、〇〇社の〇△さんが技術者として参画してくれて、役所側のしかるべき人間が結果を判断できる体制が重要なのだ。
 実はドローンだけではなく、点検と言う行為全てに言えることであるが、診た後が難しいのである。
 現在はひび割れを拾うことに夢中になっているが、そうではなく、「そのひび割れの原因」が問題なのである。これが診断と言われる部分にはなるが、診断以前に、そのひび割れを作っている原因何か?である。「老朽化」と一口で言ってしまっているが、実は施工時のひび割れもあるし、鉄筋量の不足もある。これらがどこまで把握できるかが問題である。
 ドローンに関しては、これまでになかった技術であり、現時点で他の点検用ロボット技術と比べ抜きん出てはいる。これは、運用技術であり、ドローンは良くも悪くもない。同様う場面でどう使い、どう判断するか?であり使う側にも技術力が要求される。
 また、ドローンをやっている方々に聞くと下請け的に使用されることが多く、フィーが合わないということをよく聞く。BIM/CIM専門業者も同様なことを言う。これは、建設業界全体の話である。下請け、いわゆる専門技術者に負担が行く状況になっている。これは良くない。結局は維持管理における発注の制度の問題である。

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