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-分かっていますか?何が問題なのか- 第64回  道路下の空洞を調べるレーダー探査 ‐モグラの目を持つ探査技術の検証ポイント‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2022.12.01

2.事故に直結する路面下の空洞と空洞探査技術

 道路には、日々の生活を支える電気、通信、上下水道、ガスなどのライフラインが図‐3に示すように路面下の地中に埋設され、道路が河川や鉄道、道路を跨ぐ橋梁下の空間にも同様なライフラインが添架されている。また、道路下の地中には、開削工法やシールド工法などによって鉄道や道路が大型構築物として建設されている。道路路面下の地中に埋設されるライフライン及び地中構築物は、路上を通行する車両荷重や埋設されている地点の水圧、土圧などに耐えられるように設計され、道路構築時、若しくは供用開始後に建設されている。道路路面下に埋設されているライフラインや地中構築物の多くは、地上からその状態を確認することが困難であることから、橋梁やトンネンルとは点検方法が異なっている。


図‐3 道路路面下のライフライン埋設状況

 それは、ライフラインや地中構築物は、地中にあることから外観を見ることが容易でないことにある。外観目視点検が困難なライフラインや地中構築物が何らかの原因で損傷すると、それを起点として空隙や周辺の地盤の緩みが発生し、その後路面陥没に進展する。路面の陥没は、措置が少しでも遅れると車や人を巻き込む大惨事となる。安全・安心を国民に提供することか求められる道路管理者としては、路上の車、自転車や人が嵌る路面陥没事故を未然に防ぐために、路面陥没の原因となる路面下の空洞や緩みを早期に発見し、適切に措置を行なうことが必要となる。

 しかし、道路路面下の埋設物や発生する空洞の現況確認は、地中であることから容易では無く、必要な措置を行なうにも供用下の道路を図‐4に示すようにある程度の規模で掘削し、損傷した管路などの交換、構築物の補修を行い、その後土砂等を使って埋め戻し、路面を元の状態に戻す復旧工事が必要となる。このようなことから、路面下に埋設される管路や構築物などは、長期に渡る十分な耐久性を求められる。


図‐4 埋設管路の措置工事状況

 しかし、世にある構築物全てに言えることではあるが、想定と現実とは大きく異なっている。例えば、路面下の管路や構築物が想定していた期間よりも短期に損傷したり、故意的と思われるような埋め戻し不良があったり、路上からは視認できない事態によって、路面下に空洞が発生する。発生した空洞は、路面下で鉛直方向及び面的に広がり、舗装が必要な耐荷力を失うと、路面は陥没して穴となり、最悪、図‐5に示すような車両や人を穴に巻き込む事故発生、大惨事となる。


図‐5 道路路面陥没大事故発生状況

 重大事故となる道路路面下の空洞は、たわみ性舗装(例えば、アスファルト舗装)や剛性舗装(例えば、コンクリート版舗装)の構造を考えると、路面に変状が現れない空洞発生初期の段階での発見は、路面下で進む変状であることから視認することは非常に難しい。道路路面下に発生する空洞が微小で進展しない場合は、舗装の持つ耐荷力によってある程度の安全性は保てるが、空洞が進展しない事例は稀である。道路の安全・安心を保つには、路面下に発生した空洞を初期段階で把握し、適切な措置を行なうことが必要不可欠であり、道路の維持管理において路面下の空洞対策が重要課題の一つともなっている。ここで、道路路面下に発生する空洞がどのように発生するのかについて説明しよう。

2.1路面下に存在する空洞の主な発生原因

 道路路面下の地中に発生、進展する空洞の主な発生原因としては、以下の3つが想定される。

(1)道路下に埋設された管路等構築物の老朽化
 道路は車両や人に供するだけではなく、日々の生活を支えるライフラインを収納する貴重な空間を提供している。空間とは、路面上の空間、路面下の土中や橋梁の添架空間を指し、ライフラインとは電気、通信、ガス、上下水道などである。ライフラインの中で土中に埋設された上下水道用管路や躯体(馬蹄形や矩形の躯体などもある)が損傷すると微小に空いた空隙箇所から管路や躯体内に周辺の土砂が吸い出され、管路や躯体周辺に空洞が形成される。埋設管周辺に形成された空洞上の土砂は徐々に落下し吸い出され、空洞の規模は拡大し、路面陥没となる。図‐6は、上水道管路の腐食状況である。飲料用の浄水が流れていても、写真で明らかなように酸素が供給されれば、アノード及びカソード反応によって鉄は腐食し、確実に断面欠損に繋がる。


図‐6 埋設管路の腐食状況:上水道管

(2)管路も含む地中構築物の埋め戻し土の緩み
 道路の下には、先に示したライフライン以外にも種々な構築物が建設される。代表的な構築物としては、道路、地下鉄、鉄道、駐車場などがある。これら構築物を地中に建設する方法としては、一般的に開削工法、シールド工法などがある。道路下に構築物を造った後は土砂等によって掘削部を埋め戻して道路として供用するが、構築物の躯体周辺の埋め戻しが不適切に施工された場合、不良な材料で埋め戻しが行われた場合は、地中構築物周辺の地盤に緩みが発生し、空洞に進展する。例えば、地中に埋め戻す構築物は、時間経過とともに埋め戻し土が緩むことのないように締固め機械を使って必要な転圧力と回数、水を使って確実に締め固める(水締め)ことを規定している。

 しかし、適切に締固め作業を行わなかった場合には、ライフラインや構築物周辺の土砂が緩む、埋め戻し不良となる。また、埋め戻し材料としては、良好なA種の山砂、流動化処理土、再生コンクリート砂などを使うが、不良な材料とは、埋め戻し材料にごみ等不純物が混合していたり、締固めが困難な不良な土砂などを指す。埋め戻しが不適切に行われると、当該箇所に緩みが発生し空隙に発展、数か所の空隙が結合すると規模は拡大し、空洞を形成することになる。

 ここでは、構築物を事例に埋め戻し土の緩みについて説明したが、ライフラインも同様である。埋め戻し土の緩みであるが、近年市街地トンネルの施工にシールド工法を採用する事例が多くなったが、シールド工法であってもオールマイティ工法ではない。最新のシールドマシンであっても、掘削推進速度や周辺地盤に対する適切な処理、例えば、シールドマシンの制御、地盤改良の判断と処理などが適切でないと、周辺の地盤に緩みが発生し、空洞へと進展、事故に繋がる。

(3)水みちの存在
 道路下の土中に構築される構造物や管路の周辺に『水みち』が存在していた場合、『水みち』を流れる水が構築物周辺の土砂とともに流出し、空洞を形成する。ここで言う『水みち』とは、地下水の流動経路、地下水の流動している帯水層(流動層)を指している。地中の構築物が大規模となる場合は、適切に埋め戻し作業が行われても『水みち』の存在で空洞発生に繫がることから、施工前に構築物の周辺の地下水の流れや地下水位を計測し、『水みち』の予測行っている。

 しかし、道路周辺の家屋や商業施設、工場など建設工事の付帯的なライフライン引き込み工事の場合や竣工時期が決められライフライン関連工事に時間的制約がある場合には、事前調査に制約が生まれ『水みち』の把握がおろそかとなる場合が多々ある。路面下に生まれ、進展する空洞の主たる原因は以上である。

『狸掘り』による施工禁止事項
 掘削面の緩む土砂を矢板等で防護せずに掘り進む

 話しが多少レールから外れるが、道路の埋設工事には、空洞の発生を防止する言葉の中に『狸掘り』による施工禁止事項がある。一昔前、私自身『狸掘り』がなぜ禁止事項となっているのかが分からず疑問に思ったので、息抜きに紹介する。

 『狸掘り』とは、地中構築物の埋め戻しに全く関係のない、『狸』の生態に関連している。『狸』は、生息する棲家(すみか)を土中の中に迷路のように入りくんで設けることが多い。『狸堀り』とは、昔の金山や銀山の採掘による掘り形状が先の狸の棲家に似ていることから、例えられたものである。『狸』は、棲家を造るのに穴の周辺を板等で囲って掘ることはない。『狸掘り』は、『狸』と同様に掘削面の緩む土砂を矢板等で防護せずに掘り進むことを指す。『狸掘り』すると、埋設した構築物周辺の埋め戻し土の転圧が不足することから空洞発生に直結するが、工費と工期短縮のために道路管理者には内緒で選択される事例がある。私自身も、道路管理業務に携わっていた当時、『狸掘り』を行っている現場に数多く接する機会があったが、当然禁止事項であること、崩落や陥没事故に直結する可能性が高いことから、厳しく取り締まり、施工業者から誓約書を取った経験がある。

 道路路面下に発生する空洞を初期段階で把握する空洞探査の方法には、様々な方法がある。地中の構築物、空洞の物理的探査法としては、弾性波探査、電気探査、表面波探査、放射能探査、重力探査、電磁波探査、浅層反射波探査、常時微動、ジオモトグラフィー、物理検層、そして今回話題提供する地中レーダー探査などがあり、探査対象物や環境等によって探査方法を選定する。これらの中で路面下の空洞や構築物の探査法として近年採用事例が多いのは、地中レーダー探査であり、採用理由としては、探査延長が長く、道路規制無しで探査することを求められることから本探査法が選択されことが多く、結果、日々技術開発が進んでいる。ここで、本探査法について概要を説明する。

2.2地中レーダー探査とは

 地中レーダー探査とは、地中に電磁波を送信し、地中から帰ってくる電磁波の時間や場所による違いから、地下の構造を把握する探査方法である。地中レーダー探査の測定器は、インパルス電圧を送信アンテナに給電し、電磁波を発生させる。探査を目的に発生させる電磁波の周波数は、10MHz~数GHz(国内の多くは、200MHz~3,000MHz)内で数種類がある。地中に向けて送信された電磁波は地中を伝播し、誘導率など電気的定数の異なる物体に当たると反射する。この反射した電磁波は再び受信アンテナで捉えられ、この往復に必要な時間から構築物や空洞の距離(深度、位置)を計測する手法である。このとき、空洞等の深度Dは入射波と空洞からの反射波との時間間隔(T)、地中での電磁波の伝播速度(V)によって算出することができる。地中の電磁波の速度は真空中の電磁波の伝播速度(C)と地中の電気的な特性(誘電率という)によって決まり、近似的に次式①によって求められる。

 路面下の探査を行う場合は、送信・受信アンテナを移動させながら探査を行っている。

 例えば、今回の空洞探査の場合は、20mm移動する毎に観測信号を送信・受信し電磁波を記録する方式である。アンテナから送信された電磁波は指向性が弱く、空洞の真上になくとも反射波を受信する。アンテナが埋設管の直上の場合は、最も伝播時間が短くなるので双曲線状の反射像となる。調査対象の空洞位置は、先に説明でお分かりのように双曲線の頂点である。

 しかし、一般的に、道路路面下の地中にある構造物、埋設管や空洞の反射波形の多くは、上側に凸形状を示す波形形状が多く、波形が構造物か、埋設管路か、空洞かを過去のデータや経験値から波形分析を行い判定している。図‐7にレーダー探査における電磁波及び反射波の概念図を示す。


図‐7 電磁波・反射波概念図

 そもそも電磁波は、比誘電率の違う物質との境界層で反射・透過する性質を持ち『比誘電率が高い物質から低い物質』、『比誘電率が低い物質から高い物質』では反射波の位相が逆になる。また、空気は、舗装材料や埋設物に比べて比誘電率が低いため、層の境界等による反射波と空気との反射波では位相に違いが発生する。空洞探査では、この位相差を示す反射波を受信し、受信した反射波の中から空洞の可能性が高い異常信号を抽出することによって空洞と判定している。また、電磁波は空中では光と同じ速度で伝播するが、地中では土質や水分量等の電気的な状況によって速度が遅くなるため、電磁波を使って空洞の深度を特定するためには注意が必要である。

 地盤を構成する主な土質・岩質における電磁波の伝搬速度を表‐1に、電磁波伝搬速度に対応する誘電率および反射波の単位時間当たりの算定深度を表-2に示す。

表‐1 地中に存在する主要な材質と電磁波の伝搬速度表

表‐2 地中を構成する材質、構築物とその誘電率、反射波単位時間当たりの深度表

 河川などの水の場合の電磁波伝搬速度は0.03m/nsと遅く、しかも塩分等が混入すると減衰が激しいために地中レーダーの探査は困難となる。一般的な地中の場合は、土砂と地下水が混在してはいるが、水と比較して土砂の割合が高いことから伝搬速度が0.075m/ns程度と減衰は少なく、電磁波の減衰が少なく伝搬することから探査が可能となる。以上が、電磁波レーダー探査の原理である。ここで、路面下空洞等の探査手法として確立しつつある地中レーダー探査の長所と短所を説明する。

地中レーダー探査の長所と短所
 アンテナ周波数を350~1500MHz内で選別し3.0m程度まで探査

(1)地中レーダー探査の長所
 ①調査が簡便である:調査地点に特殊な固定センサーを設置する必要がない。
 ➁調査速度が早い:車載型は 30~60km/h、手押し型は徒歩速度で探査可能。
 ③調査結果が早い:レーダー探査反射波形をリアルタイムで簡易判定が可能。
 ④調査を連続的に実施可能:道路及び隣接護岸等など連続する構造物の連続探査が可能。
 ⑤経済的(安価):探査速度が速く、判定が簡便であることから他の探査法と比較して経済的。
 ⑥金属製構築物探査が優位:埋設管や電気ケーブルなどの金属製構築物探査は、検知性能が高い。

(2)地中レーダー探査の短所
 ①専門技術者判断が必要:レーダー探査及び検知判定は、電磁波波形を専門技術者が分析して構築物、空洞を特定する手法である。
 ➁探知精度に課題がある:レーダー探査法は、地中の構築物や空洞探査を専門技術者が行うことから、100%定量的ではない。
 ③探査対象に限界がある:電磁波の特性から、水が介在すると検知能力が極めて低くなる。例えば、地下水位より下に存在する対象物検知は困難である。また、深さ方向に3m程度が探査限界である。

 レーダー探査法は、電磁波が到達する限界である3m 以深の構築物や空洞などの探査検出精度等から考えると、実態はそれより以深の構築物や空洞が存在し、特に現在の路面下空洞探査のニーズを考えると要求性能を十分満たしているとは言えない。

 しかし、現状においてレーダー探査法を超える探査法は無く、アンテナ周波数を350MHzから1,500MHz内で選別することによって3.0m程度まで探査を行っているのが現状である。また、それを超える以深の調査法には、弾性波探査、電気探査、表面波探査、浅層反射波探査、常時微動法、物理検層などの物理的探査法があり、深さ方向に探査が可能な他の物理探査法を併用することで地中の構築物や空洞の探査は十分に可能と判断している。ここに示したレーダー探査以外の物理的探査法については、本論に関係が無いので今回は説明を省略する。それでは、ここで、今回の話題提供の本題、路面下の空洞を対象にレーダー探査を行った詳細を説明する。

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