第82回 維持管理への解析技術の応用
民間と行政、双方の間から見えるもの
植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長
植野 芳彦 氏
4.木橋シンポジュウム
「木橋シンポジュウムin加賀市」が11月1、2日に、石川県加賀市で開催された。「こおろぎ橋」の架け替えに伴い実施する目的だったが、2年間コロナで延期されていた。なぜ今どき木橋なのか?疑問に思う方も多いでしょう。木橋は、維持管理を学ぶ上で非常に重要である。日本には古来から木の文化があった。それを、様々な批判で断ち切ってきたわけだが、少数であるが国内には現存し、その中には、錦帯橋やこのこおろぎ橋のように、昔からの技法を使った文化財的な木橋も存在する。我が国の在来工法の見本みたいなものである。錦帯橋はほぼ40年、こおろぎ橋は20年に一度架け替えられている。
伊勢神宮の宇治橋も20年に一度。これらは、材料の供給と、建設する職人の技術の伝承を考えた古来からのサイクルである。昔の方のほうが、こういった件に関しては、きちんとマネジメントができていたことになる。
私は、これも30年ほど前からかかわっていたが、富山に赴任するにあたり、木橋の活動を停止していた。しかし、この、こおろぎ橋の掛け架けに当たり数年間、金沢工大の本田先生とともに、「こおろぎ橋架け替え検討委員会」の委員会として参加してきた。その関係もあって今回のシンポジュウムにも呼ばれた。講演が終わると、参加者の中から「おかえりなさい。」と言われた。これは「木橋の世界にお帰りなさい」という意味である。懐かしい方に言われたので、調子に乗って「復活宣言」をしてしまった。
こおろぎ橋 木橋サミットでの視察
実は、木橋は維持管理において非常に参考になる。水切れ、水仕舞をいかに良くするかがカギである。細部構造の工夫が必要であり、最近の設計にはあまり見られない。木橋の技術基準を作成した際に、こっそり最後に「維持管理編」という項目を設けた。これを世に出すにあたり、本省の担当課と、「なぜこれを入れるのか?」と言う話になったが、木橋は、維持管理が重要なカギになるからということで了承していただいた。これは鋼橋やコンクリート橋の点検マニュアルが出る少々前であった。
我が国では「建造物を構築すれば必ず維持管理が発生する」と言う考え方を見失っている方々も多い。欧米では当たり前なのに。維持管理を有効的に実施するためには、どうしたらよいかと言うことは、いちいち言わなくても、お分かりだろう。まあ、これも物によることも忘れてはならない。この時に、
構造はなるべく単純にしたほうが良い。シンプル・イズ・ベストである。まあ、またこれを言うと反論もあるであろう。余裕のある所はとことんこだわればよい。
しかし、文化財的は物は別である。地域の財産として、技術の伝承をどうしていくのかもすべて考えていく必要がある。これも非常に難しい問題である。しかし、材料や費用は何とかすればどうにかなるが、問題はヒトである。いわゆる技術の伝承はこういったところでこそ必要になる。材料で大きな問題となるものが実は一つある。それは、いわゆる「古鉄」の問題である。今の一般的な、鋼ではなく、古い鉄。成分が違っている。この問題は、一見、普通の鋼橋と見えるものでも、歴史的鋼橋は錬鉄・鍛鉄などを使用している場合もあり、確認が必要である。安易な溶接などはできない。
維持管理は、経験とたゆまぬ勉強をしないとうまくは回らない。
5.まとめ
最近、講演を依頼された際に、「あまりコンサルの悪口は言わないでください。」と、事前注意を受けることが多い。たぶんここに書いていることが原因だろう。しかし、悪口を言っているつもりはない。悔しかったら、直せばよい。本来もっと言いたい。建設分野でコンサルが重宝がられ、重要な位置を占めてくると、もっと、しっかりしてもらいたい。できないことはできない。わからないことは分からないと言えばよいだけのことである。便利屋、何でも屋として、使ってしまう発注者にこそ本当の問題はある。発注者の問題は、後に取ってある。発注者に関しても、言いたいことはたくさんある。
さて、目的を間違うと、何も物にならない。無駄金を使うだけである。この辺お分かりだろうか? 逆にコンサル側から聞くと、「新技術新技術と言って無理やり使わせようとする、コストは下げろというむちゃな話である。」と言うことである。なぜ、新技術導入が進まないか?実は簡単な話である。これまで新技術なんて考えても来なかった、役所と民間企業が採用しようとしても、わからないからである。新たな仕組みに関しても同様である。役所はまだよいが民間企業に関しては、開発部門があればまだよいがなかなかそうはいかない。とくに日本のコンサルは超大手以外は、そんな余裕が無かった。結局、コンサルに限らず日本の建設業界は、技術開発が他国に比べ遅れていることは指摘されていた。この大きな原因は、誰が言ったか知らないが「日本の土木技術は世界一」という妄想、大本営発表に紛らわされてしまったのではないだろうか? しかし、一番遅れているのは官庁だろう。なぜならば、民間企業は努力しないと先が無いからである。
新技術も、新しい仕組みも、世の中が本当に困らないと出てこないし受け入れられない。まだ我が国は、困っていないのだろう!「新技術=コスト縮減」と言うのは、短期には無理で、長期的視点では可能である。まずは開発費の問題はどこで吸収できるのか?「新技術⇒高コスト」しかし、使いたい技術が存在すればよい。そうではないから、難しいのである。
昔から私は、官庁側は、開発する必要はなく、民間の技術をうまく利用してあげればよいと考えている。その評価がきちんとできれば、十分である。役割分担を明確に考えることも今後は必要である。活用の場を与え、一緒に議論して活用できるものにする。そこへの投資も必要であろう。必要な口出しは有益だが、害になる口出しは控えるべきである。そして、使えないものを、さも使えるかのように評価することは混乱を招くだけである。「人材教育」が、叫ばれる中、挑戦のチャンスを与えることも官庁の仕事だと思う。(次回は2022年12月16日に掲載予定です)