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第82回 維持管理への解析技術の応用

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2022.11.16

1.はじめに

 やっと涼しくなってきましたが、お元気でしょうか?最近どこに行っても人が増えてきた。新幹線の中も混んでいます。コロナも第8波と言ってますし、お気を付けください。
 ある申請を電子で行おうとしたら、かえって2度手間になって厄介になるので書面申請に改めた。弁護士(義理の息子)に依頼していたが、そう言われ、彼も驚いていた。なんとこの国は、そもそもシステムが理解できていないのではないか? デジタルとか言っているが、何のためのデジタル化なのかが、理解できていないのではないか?デジタル化の目的が理解されていない運用だからである。そもそもが開発側よりも、運用側に問題が有る。大丈夫か?日本!だからシステムに対する考え方も遅れている。おそらく、全てにおいてそうなのである。どうも、30年間、固まってしまっているのではないか?だから10年なんて何も変わらない。

2.最近感じていること

 これを言うと怒られるかもしれないが、「そろそろ、ひび割れを拾って喜んでいるのは終わりにしませんか?」ひとつの作業としては、実施しても価値はある。しかし、それが無駄遣いにならないようにやってほしい。もうそろそろ、先に進み、構造系全体でみること、管理橋梁全体で考えることをしませんか? いまの、点検業務は、測量業務に近い。技術経費はどうなっているのか?
 コンサルさんの技術者単価も上がったことだし、本来の技術的検証を行うことを実施して、その橋が現状でも保てるのかどうか? を判断し、管理橋梁全体でどうしていくのかを考えないと、この国はやばい。コンサルさんも、本来の技術的検討業務を、行っていくことになる。どうやって、それを判断するのかは、各管理者、受託業者の技術力にかかっている。コンサルならばコンサルの技術提案力。管理者側は管理者の理解力にかかっている。

  私の考えでは、現状では、ひび割れの状況などから抽出した損傷度合いから、全体形で解析や実験を行い、その橋梁が現状で、耐えられるのかどうか? を判断していく必要があるだろう。ひび割れは一生懸命拾っているが、過積載は気にしていない。実際には、道路の線形なども影響してくることを考えないといけない。そもそもが元の設計が大丈夫だったのか? 施工が大丈夫だったのか?も含め検証し、全体形で判断する。ASRの詳細検討とかにお金を使うのでなく、まず、全体形の安全検証が先であろう。そして余裕が出たら、なんでも細かい検討をすればよい。(余裕は出ないと思うが)
 いろいろ厄介な問題は多い。今後どうなっていくのか? 作ってしまったのだから管理は続く。いま議論で抜けていると思うのが、まずは、「維持管理への解析技術の応用」である。逆解析を活用し構造物の健全性を見つける手法。この辺も我が国は遅れている。ソフト通りの、設計はできるが、解析で検証しなければならない部分もあるということを忘れてしまっている。よく、「復元設計」という、かっこよい言葉でコンサルさんは提案してくるが、何のことはない、現在の状態に合わせて、設計ソフトで設計をやり直しているだけである。
 わかりづらいだろうが、子供でも分かることをやって満足していても仕方がない。そろそろ、課題の本質に行かなければならない。果たして我々は、安全安心を保ちながら構造物を長持ちさせられるのか? と言うことである。これが目的の一つ。様々な技術を駆使し、対処するのが技術者で、その道具が新技術。検証技術も重要だ。わからないでは済まされない。
 今までの世の中は意外と単純で、決められたルールに基づき対処できれば問題はなかったが、維持管理の時代になるとそうはいかない。これまでは、1次方程式を解けばよかったが、2次、3次と未知数が増えていく式を解かなければならない。笹子の事故から10年。本当に老朽化なのか、それとも設計、施工ミスなのか? も課題になる。さらには、急いで補修はしたものの再劣化と言う問題も起きてくる。いや起きている。この辺はコストにも大きく関わり財政を圧迫と言うか、もはや手が打てなくなる可能性もある。

 

 そろそろ、維持管理の本質の議論をしませんと、もう手遅れになりますよ。よく自治体の実態がわからないと言われるがそれも当たり前。国道や高速道路に比べ、難しいのは自治体の方である。

3.我々の目的

 そもそも、我々の目的は何なのか?「点検をすること」なのか?「ひび割れを拾うこと。」なのか?そうではないだろう。まあ、業者側はそれでも仕事になればよいだろう。停滞していたこの10年間は、点検でコンサルはだいぶ助かっただろう。しかし、本来マネジメントしなければならない役所側は違うだろう。
インフラ老朽化対策に関しては、点検の第1ステージが終わり、第2ステージももう間もなく終わる。その結果から、次は「補修!」となるはずで、補修も進んではいる。補修では、より高度な技術力と、より膨大なコストが必要となってくる。さらに補修では済まない場合も出てくる。今後はさらに、「人」「コスト」「技術」が大きく影響してくる。「新技術導入」とは言われているが、AIやドローンが解決してくれるわけではない。
 点検・診断の悩みも解決できていないのに! 今後、インフラ老朽化と本格的に向き合うためには、「技術」も必要だが、インフラ全体を見通し、どう対処するかを考える、「マネジメント」を考えていく必要がある。この議論が必要だ!「マネジメント」を考えるには「技術」に対する理解も必要だ。
まず、今不安なのは、前述したが「構造物を診る目」である。本当に構造物を診ていくには、かなりな知見が必要であるはずである。力学、基準に対する知識、設計法、解析力、材料の知識、さらには地形や地盤や土質の知識まで必要なのだが、そういった総合力を持った、技術者が官にも民にもどれだけいるのか?疑問である。さらにいうと、荷重体系でさえ理解できていない人たちが、管理するのは無理であろう。
 公務員は決められたこと、指示されたこと、言われたことは意外とうまくこなす。これは素晴らしい能力である。しかし、本当に理解してやれているか?と言うと少々疑問である。長期にわたるプロジェクトを貫遂するためには、考えなければならないことも出てくるし、イレギュラーな事象も起きる。こういった時に対応はできるのか?できる方も居るだろうが、最も公務員が苦手なことではないだろうか?公務員のみならず、民間企業の方々もである。
 最近、様々なセミナーなどで、民間の方々が意見を述べるのを聞く。なるべく黙って聞いているようにしている。するとやはり、正攻法としては正しい。勉強はしているし、優秀なんだな!と感じることが多い。しかし、それだけで、インフラマネジメントはできるのか?と感じてしまう。これは私が皮肉れているだけかもしれない。教科書通りにはいかないのが、建設であり維持管理である。
しかし、マネジメントは正攻法では、最後までたどり着けない場合が多い。何があるかわからない。
例えば新技術の導入であるが、点検などの業務に新技術を導入しコストを下げろというが、そんなに簡単な話ではない。ここで、出てくるのが、平成の初めころに行われた「標準設計」等、標準化の放棄である。我が国はそれを行ってしまった。これはシステム化を理解できていない人々のミスである。自動車産業などを診てもらえばよくわかる。昨今のように財政的に厳しい時代では、生産性や合理化がキーワードとなるはずである。
 「技術の伝承」と簡単に言われるが、こういった維持管理の時代になるとなかなか難しい。技術の伝承は、新しいものを造って初めて成り立っていく。1980年代に手探りで築いた、長大協技術なども、最近はほとんど作られない。富山の例の事件のつり橋の時に、私なりに調べてみたら、ある程度の吊り橋は、大体10年に1橋しか建設されていない。これでは技術の伝承は困難である。より難しいものをやってみて技術者は育つ。今の若者は、可哀そうである。


技術の伝承のためにも新設は必要である

 この後の項目で書く「木橋」などは、意外と技術の伝承機関が架け替えの時期に合わせてある。古からの知恵であると思う。

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