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②Iビーム支点首部の疲労き裂対策

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 鋼構造グループ

丹羽 雄一郎

公開日:2022.11.16

4 実橋試験施工による対策効果の検証

(1) 試験施工の概要
 解析にて検討した「ストップホールのみ(ケース2)」、「ストップホール+不等沈下解消(ケース3)」、「ストップホール+不等沈下解消+当て板(ケース4)」の3ケースについて、実橋試験施工により対策効果の検証を行いました。施工対象は前述の実橋測定を行った橋梁のき裂発生支点とし、ケース2から順に施工を行いました。なお、不等沈下解消は沓座コンクリートをはつって打替える方法(以下、沓座補修という)で行いました。写真-4にストップホールの状況、写真-5に当て板の設置状況を示します。


写真-4 ストップホールの状況/写真-5 当て板設置状況

(2) 測定概要
 対策効果の検証は図-8に示すように、列車通過時のストップホール縁の応力、支点部鉛直変位、ならびにき裂開口変位の測定により行いました。ストップホール縁のひずみゲージはゲージ長2mmの単軸ゲージを用い、板表裏の鉛直方向に貼付しました。き裂開口変位はクリップ型変位計により測定しました。


図-8 測定位置

(3) 測定結果
 測定結果を図-9に示します。図には前述の対策施工前の実橋測定の結果も併せて示します。支点部鉛直変位は沈下方向を正で示し、き裂開口変位は正が開口、負が閉口を示します。測定列車は各対策時とも列車速度80 km/h前後の223系列車です。
 まず、対策「ストップホールのみ(SH)」においては、不等沈下が対策前とほぼ同等の0.8mm程度で、き裂開口変位も対策前と同程度でした。このときのストップホール縁の応力ピーク値はs5:203N/mm2、s6:-225N/mm2で、解析結果と同様に首曲げにより引張応力、圧縮応力ともに大きいままでした。これより、不等沈下を残したままでのストップホールは、妥当な対策ではないと考えられます。
 次に、対策「ストップホール+沓座補修」においては、不等沈下およびき裂開口変位が大幅に低減し、ストップホール縁の応力ピーク値はs5:-44N/mm2、s6:-131N/mm2と大幅に低減するとともに、桁内側面・桁外側面のいずれも圧縮応力となりました。
 最後に、対策「ストップホール+沓座補修+当て板」においては、さらに首曲げが緩和し、s5:-51N/mm2、s6:-68N/mm2となり、桁内側面・桁外側面の応力バランスもより改善されました。


図-9 測定結果

(4) ストップホールの疲労評価
 前述の解析および実橋測定結果より,沓座補修を行えばストップホールからのき裂再発防止が期待できることがわかったため、各対策時におけるストップホールの疲労評価を行いました。ここでは、名古屋大学大学院の舘石・判治研究室との共同研究成果2)における、Iビーム支点首部のストップホールに対する疲労強度曲線(式(1))により評価を行いました。

 ΔσΗ5.63N=5.33×1019           (1)

(ΔσΗ:ストップホール縁の応力範囲[N/mm2], :き裂発生までの疲労寿命[cycles])
なお、実橋は変動振幅応力下にあることから、疲労限以下の応力範囲による損傷も考慮する修正マイナー則に従うこととしました3)。評価の結果、今回の測定列車が1日200本走行すると仮定した場合、対策「ストップホールのみ」における疲労寿命Nは10年程度と短命な結果となり、やはりストップホールのみで対策完了とするのは難しいといえます。一方、対策「ストップホール+沓座補修」では対策「ストップホールのみ」の13倍程度、対策「ストップホール+沓座補修+当て板」では同300倍程度の疲労寿命Nとなりました。これらは十分長期的にき裂発生の可能性が低いといえる期間であり、これらの対策が桁取替に代わる対策として成立すると考えることができます。

5 簡易な沓座補修方法

 ここまで述べた検討結果より、桁取替に代わるIビーム支点首部の疲労き裂対策として、「ストップホール+沓座補修」、「ストップホール+沓座補修+当て板」が十分妥当であることを示しました。しかし、沓座補修は沓座コンクリートを打替える必要があり、施工対象橋梁を供用しながらの施工はコスト・労力が大きいという課題があります。簡易で低コストであることが大きなメリットであるストップホールを対策とすることを考えた場合、そのメリットを活かすためには、沓座コンクリートを打替えずに実施可能な不等沈下解消方法が必要と考えました。そこでそのような方法として、図-10に示す沓座に樹脂を注入する方法(以下、沓座注入という)について検討し、十分に不等沈下が解消できることが確認できたため、この方法を採用することにしました。ただし、沓座注入は沓座の隙間への樹脂充填度合いの品質保証が難しいことや、長期耐久性の検証を今後も続けていく必要があることなどから、定期検査時に不等沈下やき裂が再発していないか重点的に確認することとし、検査との組み合わせによる適切な維持管理が重要となります。


図-10 沓座注入の主な施工手順

 

6 おわりに

 一連の検討の成果をもとにIビーム支点首部の疲労き裂対策を表-2に示すように整理しました。各対策の適用条件については、一連の検討における検討条件や実橋での腐食等の変状実態等も踏まえて設定しました。
 今回の記事では、鋼鉄道橋Iビーム支点首部の疲労き裂に対する、桁取替以外の対策の検討について紹介しました。冒頭で述べたように、Iビーム支点首部の疲労き裂に対しては、き裂の程度が軽微であっても、従来は施工労力が大きくコストが高い桁取替しか選択肢がありませんでしたが、一連の検討によりストップホールを活用した簡易な対策が選択可能となったことが本取り組みの大きな成果と考えています。
 鋼鉄道橋では、Iビーム以外にも過去から種々の疲労き裂に対して対策を行ってきましたが、今回紹介したような地道な検討を重ねることで、より効果的かつ効率的な維持管理のあり方を実現していきたいと思います。

表-2 Iビーム支点首部の疲労き裂対策

参考文献
1) 鉄道総合技術研究所:鋼構造物補修・補強・改造の手引き,研友社,1992.
2) 判治剛,舘石和雄,清水優,岩井将樹,池頭賢,丹羽雄一郎:鉄道橋Iビーム桁支点部の疲労き裂とその補修対策による延命効果,土木学会論文集A1,Vol.74, No.2, pp.290-305, 2018.
3) 日本鋼構造協会:鋼構造物の疲労設計指針・同解説2012改定版,技報堂出版,2012.

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