道路構造物ジャーナルNET

第81回 BIM/CIM

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2022.10.16

3.発展を阻むもの

 結局は、「こだわり」と「プライド」が発展を拒む。あとは、「目的意識の無さ」である。最近、様々な面で思うのが、点検で維持管理が終わったと思っている方々が多い。実はこれからが正念場だ。現在2巡目であるが、3重目ももうすぐである。先日現場を見て思ったのは、施工によってできたひび割れを、老朽化によるひび割れと同様に判定して行っていることである。確かにひび割れがあれば水の侵入などを許し、良くないことは事実であるが、老朽化ではない。どちらかと言うと設計や施工の不備である。実際にはそういうひび割れも相当多く拾われていることであろう。だから根本的に治療するのは難しい。

 維持管理も、いつまでも点検重視では終わらない。そのあとの判断や、如何にするのかの判断が重要なはずなのだが?ここでは検証が必要である。BIM/CIMに関して記述したが、BIM/CIMと3次元CADを混同している人たちがいる。これは根本的に違う。ここでCADはComputer Aided Designで、コンピュータによるデザイン支援だ。実は、日本ではあまり話題に上らないが、CAE:Computer Aided Engineeringと言うものもある。コンピュータによる技術支援である。解析やシュミュレーションをコンピュータ上で行う技術であるが、この議論もあんまり出てこないのは不思議だ。CAEを活用することによって実験が必要な事項のシュミュレーションや解析も可能である。BIM/CIMではこういったことも、同時に行い設計に反映していくことも重要である。


BIM/CIM図例③

CAEの活用、モデル化

 結局は日本人は、わかったふりをして、どこか抜けている。そして目的を見失う。負け組の思考である。システム的思想もあまりない。前述した、自動設計を使えないというような方々には、とてもシステムを使いこなすことはできないだろう。できない条件を理解したうえで使いこなす、技量が必要なのである。
 システムも道具である、どう使いこなすのか? これは維持管理においても言える。点検し診断したら、その後どうするのか・判断するために次に何を行うのか? 恐らく今後限られた予算の中で実施していくためには、まずはその橋が、現状でどういう状態で、健全なのか軽傷なのか? 重症なのか? 重体なのか? 瀕死の状況なのか? の判断が必要である。それがトリアージである。だから8年前に「橋梁トリアージ」という提唱をしたのだが、散々馬鹿にされてたり、否定された。それは承知の上であったが、皆さん、トータル的に先を見越す、システム的思考が抜けているだけなのである(こう書くとまた批判を浴びるが、高々設計用の専用プログラムも自在に使いこなせないようではシステムは理解できない。プログラムとシステムの違いは、お分かりか?)。


3次元FEM解析の可視化

 この判断をしていくためには、解析や詳細調査を駆使しなければ判断できない場合も出てくるはずなのである。しかし、なかなか出てこない。モニタリングも有効な手段である。これらがCAEとなる。
 もう一つ重要なことはすべてを1人でやろうとしないことである。それぞれの専門家の協力が必要である。マネジャーも必要である。絶対的に専門家に任せたほうが効率的で間違いも少ない。問題が起こっても、解決が早い。これらは、システム開発で学んだ。さらに、全てを自動でやるには膨大な費用が掛かるので、人間が判断すべき部分は残る。開発費用に合わせて、機会にやらせる部分と人の判断を入れるところは、今しばらく必要である。これからAIが果たしてどこまで判断できるのか?

 ひとつ大事なことを言い忘れた、皆さん馬鹿にしている「標準化」であるが、システム開発の第一歩は標準化である。標準化ができないと、うまく進まない。物事を合理的に進めるには標準化が上羽陽なのだが、順調な方々にはそれがわからないらしい。世の中には、建設業界向けだけではなく、様々なシステムが存在する。その第一歩が「標準化」である。これは様々な意味を含む。構造の標準化だけでなく、試行の標準化、作業の標準化等。標準化したものをそのまま使えと言うのも思考停止している証拠である。使うには判断と工夫が必要なのだ。標準化がうまく行けば、自動化、ロボト化へも道は開ける。例えば、維持管理の新技術点検ロボットと言いながら進みずらいのは誰のせいなのだろうか? 標準化がうまくできていなかったからである。
 大量に多くのものを造る場合にも標準化は重要な武器になったはずであるが、日本の技術者の多くはそれを拒んだ。それが、ロボット化を阻害している一つの要因である。標準化の歴史は1本のボルトから始まった。そして鉄砲の弾など。これが日本ではうまく機能しなかった。非常に合理性を欠く結果である。こだわりが合理性を欠いていく。とても、システム的思考とはいかないようである。

4.おわりに(雑感)

 最近、講演を依頼された際に、「あまりコンサルの悪口は言わないでください。」と注意を受けることが多い。反省はしているがたぶんここに書いていることが原因だろう。しかし、反省はするが事実は事実で、本来もっと言いたい。現在のように、建設分野でコンサルが重宝がられ、重要な位置を占めてくると、もっと、しっかりしてもらいたい。できないことはできない。わからないことは分からないと言えばよいだけのことである。便利屋、何でも屋として、使ってしまう発注者にこそ本当の問題はある。発注者の問題は、後に取ってある。発注者に関しても、言いたいことはたくさんある。

 さて、今回はBIM/CIMに関して、書いたが、
 ・2022年4月から原則大規模工事での導入
 ・2022年秋、DXセンターがオープン
 ・すべての設計・工事での原則適用まで猶予1年(直轄)
 と言うことがあるからだと思う。


BIM/CIMのマネジメントサイクル(データの一元化)

 

 私の趣味の日本刀であるが、日本刀は良く斬れる。しかし、まずは、「斬る」という意思が重要なのである。そして、斬るモノに入るときの刃の進入角度が悪いと切れない。相手にダメージを与えるだけならば、木刀のほうが確実で自分にとっても安全であると言われる。要は、技術的問題と道具の使い方である。そして、日本刀は使えないやつが使うと自分で怪我をする。
 何が言いたいのか?ものを使うには意識とその使用法が重要だということである。目的と道具の勘違いがはなはだしい。仕事が忙しいせいなのか?それとも別な理由なのか?本来は生産性を上げることが目的なのに、かえって時間と労力を必要とする。BIM/CIMにおいて期待できるのは、将来の維持管理と教育への導入である。データの構築と管理継承がなされて行けば、維持管理になっても活用ができる。かつて、それを期待し試行的に設計時から、かなり気を入れてBIM/CIMデータを構築したが、施工段階に寸断されその後データの継承は途切れてしまった。発注者側と施工業者の認識不足である。BIM/CIMを単なる3次元CADと思っているからだ。運用まで見通せるシステム的思考が重要なのである。日本人はこの辺が弱い。
 インフラ・メンテナンスにおいても、いまだに、ひび割れを拾って喜んでいる。本来であれば、必要な技術を駆使し、検討し判断しなければならないがどうもそういう思考にはならないらしい。その橋が、今後も使えそうなのかどうなのかは、様々な詳細調査や載荷試験、衝撃弾性波による検証、3次元FEM解析などの解析技術を駆使した、検証によって安全性を検証し判断していかなければならない。笹子事故からもう10年たっている。この10年で本来は課題を解決していなければならなかったはずであるが、「点検」に気を取られてしまった。これは、構造物を本当にしらない人たちが、参入してきてしまったからである。そして発注者は安易にコンサルに発注しすぎ。コンサルに発注してよいものもたくさんあるが、その中にはとても無理なものもある。何度も言うが、これは日本のコンサルの生い立ちに問題が有るからである。
 つまり、構造物の計画設計から製作・施工、非破壊検査技術、実験技術、材料の知識、補修技術の知識、補修方法、モニタリング、構造解析技術等の基礎技術が維持管理技術者には必要になってくる。さらには、経済的な知識も必要になる。ボケボケはしていられないので、BIM/CIM等の技術も有効に活用し、生産性を上げ行かないと事故を起こす。次のステージに行きましょうよ。これからが、本当の技術力が必要である。非破壊検査技術や解析技術を駆使し、本来の技術判断をしていく状況にもっていきましょう。(次回は11月16日に掲載予定です) 

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