道路構造物ジャーナルNET

第81回 BIM/CIM

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2022.10.16

1.はじめに

 今年は本当に雨が多い。いつもジメジメどうも気分もよどむ。コロナの影響で対面では遠慮されていた会合などは最近、復活してきた。実際に顔を合わせて話せることは、素晴らしいことだ。
 前回から肩書の表記を変えた。何人かの方に指摘された。「富山市政策参与」は、アドバイザーであるし、富山市からの特別な依頼事項と、PRになるような活動に対して使う称号である。「植野インフラ」のほうがメインで、自営業者である私の屋号である。「(一社)国際」は、実は富山に赴任する前の現在と同じような、世捨て人生活を送っていた時に、ある土木界の大御所(鉄道系の神様)の方からの命で立ち上げたものである。その後、公務員になったために、外部活動はすべて休止し、他の方々に運営などしていただいた。そして、3年前の退職を機に復活し、この6月に理事長を拝命した。この団体は地味ではあるが、今後欠かせない、補修などの技術を保有する企業の集まりである。これまでの、恩人たち、そして社会のために役立つ活動をしていきたい。

2.システム開発

 ここのところ、たて続けに、BIM/CIMに関する講演を依頼されている。講演活動も私の使命かと考えているので基本お受けするのだが、「BIM/CIMの専門家ではない。」旨を申し上げた。実際にBIM/CIMに関して実施したのは8年前である。この旨も話した。私の専門は、「橋りょう」であり、システム開発は、それを、効率化し生産性を上げるために、誰もやりたがらないから、取り組んできた。「橋梁の世界」では亜流に当たる。優秀な方々は、大型橋梁や、デザイン性重視などの花形の道を歩んでいる。しかし、幸か不幸か?あまり優秀ではない私は、他人がやりたがらない道を進むとそれが時流になってきたという宿命めいたものを感じている(システム化、木橋、維持管理等)。

 社会に出て、最初のころは、断面計算プログラムを会社のミニコンで作成したり、大型橋梁を受注したときには、自動設計プログラムの処理会社に依頼したりしていた。その後、入社2~3年目のころ、世の中でCAD/CAMと言うことが言われるようになった。この、「CAD/CAMのシステム開発会」が大手橋梁メーカーのグループで、発足し各社から開発費と人を出すことになり、各社から若手20名ほどが、横河ブリッジに集合させられた。それが、CADとの出会いであり、その後、様々なシステムの開発にもかかわるきっかけとなったので、結局、橋梁関連のシステムには、かれこれ40年かかわっている。

 このCAD/CAM開発時に感じたのが、それまでやっていた単なる計算のプログラムと違い、図化システムの大変さであった。CADは現在では当たり前であるが、この時点では、いまだに国内で本格的CADシステムは無く、「ここからここまで線を引く」と言った、基本ルーチンの作成から行った。海外も含め、航空や造船メーカーでは、比較的CADの活用は当たり前になっていたが日本では遅れていた。しかもその時は、工場ラインも対象としたCAMの機能も持たせるためのシステムであった。この時感じたのは「図化システムの開発はものすごく大変だ。」と言うことである。現在では汎用CADの導入が進み皆さん当たり前だと思うが、初めて取り組むのは大変なことである。しかしこの経験が、私の人生の大きな転換点となったことも事実である。さらに、この時集められた各企業の仲間である。最近はほとんどが現役は引退し、連絡も疎遠になっているが、これまでは大切な仲間であり、何かあった時の相談に乗ってもらったりしていた宝である。

 BIM/CIM的なものと言えば、JICEに居た時に、「国土交通省の自動設計プログラムで処理したものは自動的に3次元に変換できるようにしろ」と言う、無茶な命令が下り担当したのであるが、結局はその当時はうまく行かなかった。途中で予算切れとなった。これが平成の1ケタ台である。(二十数年前)。余談ではあるが同時期にAIの検討もしている。


BIN/CIM図例①

 BIM/CIMもその他の技術も、多くは“道具“であることを、皆さんは忘れている。「目的は?」なんなのか? おそらく「BIM/CIMを作ること」ではないはずなのだが、造ることになってしまっている。なぜ、システム開発をし、より高度なものを造ろうとするのか? それは、「生産性の向上」のはずなのだが。それを忘れてしまう人たちが多い。かつて、自動設計システムを構築し運用改良などを行っていて、嫌になってしまったのは、システムが思うように動かないと、腹を立てて「このシステムは使い物にならない。」と言うことを言ってくる人間が多かった。入力データをもらい、冷静に検証していくと、ほとんどが入力データミスであった。入力データもまともに作れない人間が使っていたところに問題が有る。人間はあいまいな判断もできるが機械はあいまいな判断はできない。システムは道具であり、きちんと目的意識と使いこなす能力が必要である。道具をどう使うかは、永遠の議論に近いが、使いこなせない人たちには無用の長物となる。

BIM/CIM図例②

 BIM/CIMは課題を解決してくれる万能のシステムではない。構築にどれだけ時間と費用をかけるのか?と言う問題もある。目的と制約条件(制限)も明確にしておかねばコストが膨大になる。「どこまで、自動で行うのか?」と言うことも重要である。システム開発になれない方々は、すべて自動で厳密にやろうとして逆に限界に襲われる。システムも成長させればよい。

 全て自分でやろうとしないで専門家にも任せる度量も必要である。つまり、BIM/CIMの専門家に、やってもらう必要がある。(自分のところでできれば別)これは効率が大きく違うことになる。
 そして、どうしても我々建設業界の人間は、協力業者を「下請け」と思いがちだが、そうではない。「専門業者」なのである。専門家に委託するということが重要である。日本のBIM/CIMが立ち遅れているのも、その辺に原因があると思う。この旧態依然とした発想が、日本の多くの業態の発展を阻害している。実はこれはBIM/CIMだけではない。世の中の構造は、技術力があるとかないと言ってはいるが、万能な企業も、個人もない。

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