道路構造物ジャーナルNET

第80回 リスクマネジメント

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦 氏

公開日:2022.09.16

1.はじめに

 久しぶりに秋田に行く機会があったので、小山から秋田まで車窓からではあるが、先日の東北豪雨の状況を土木技術者の習性として、構造物や道路、田畑の様子などを観察した。若干影響が残っているように見えた。鉄道ではローカル線はまだ影響があるようであった。これから台風の季節、災害にはくれぐれも、皆さま、お気を付けください。昔とは威力が違ってます。
 ここに書いていることは、あくまで私の知見に基づく話題提供である。勝手に思いつくことを書いている。中身は、プロの実務家向けに話題提供している。用語も簡略化しているし、正確ではないが、プロなら理解できると思い書いている。内容が苦々しく思う方もいるだろう。反対意見を言ってもらっても全然構わない。ただし堂々と言ってくれ。そして、それがどうかは読者が決めることだ。

2.そろそろ次の段階にいきましょうよ!

 笹子トンネルの事故から今年の12月で10年になる。「橋梁などの全数近接目視点検の義務化」が施工されたのは、この事故が契機である。リスクマネジメントの基本は、「最悪の場合を想定して対処法を考えること」。それをできるだけ多くの人に伝え理解してもらわなければならない。しかし、理解はされないのが現実である。「橋梁トリアージ」などは、まさにそのために提示した。このままだと、事故が起き不便な社会になるということである。不便な社会だけならばまだよいが、人命にかかわる。
 現在の点検では、ひび割れを見つけることが目的となってしまっている。ひび割れは、誰が見てもわかる。一番見つけやすい現象なので、それを重点的に検証することは、わかりやすい。そのあとが本来重要なのである。プロならばひび割れや、破断面を見れば、原因は推測できる。しかし、専門家は議論をして真実を見つけだせるが、最近は、素人がわかったつもりで物を言い出す。それで、それを信じ込む素人が関与して、おかしな方向に行ってしまう。科学的には実態と証拠と要因を分析し検証しなければならないのに。

 これから維持管理の本番へと突入する。ひび割れを拾い損傷図を書いて、やったつもりになっている場合ではない。国やNEXCO、財政の豊かな自治体は良いが、財政の厳しい自治体は覚悟が必要だ。
 数十年も前の、その構造物の生い立ちと育ちが、はっきりしない中、まあ、正常なものと仮定して点検しているのが現状である。そうなると、洞察力が点検者に求められる。正常なはずなのに、「なぜここにひび割れが?」となるのが普通であるが、簡単に「経年劣化」「乾燥収縮」「ASR」「塩害」などとされてしまう。疑わしいものを、調査が十分にできない者に点検させることの危険性があるとは、皆さん思わないか? 診断はなおさらである。診断をしてどうするのか? 治療する方法は? 治療できるのか? という問題がまずある。現状ではやたらめったら、ひび割れ注入している。
 前にも書いたが、「不安をあおるから言うな」と言う人々が必ずいる。しかし、リスクマネジメントとして危険は、多くの方に事前に知らせておいたほうが良い。管理者と利用者、場合によれば施工者や設計者に対しても。我が国では、未だ大きな人命にかかわるような落橋事故は最近ない。お隣の韓国では1994年に漢江に架かる聖水大橋が落橋し、数十名が亡くなった。「失敗学」というものがあるが、そういうものを学びなおさなければならないだろう。

 写真-1は、なぜ鋼材の鉢巻きをしているか? であるが、沓座のコンクリートが欠けて落下した。沓座コンクリートが割れたのではなく、橋脚天端の一部が落下したが、脱落面から判断し鉄筋が入っている量が足りない。躯体そのものは立派なASRである。これは見ればわかる。躯体そのものが立派なのではなくASRが立派なのだ。診断はASRである。


写真-1

落下後の状況

 まあ、ここまでは良いが、どうも橋脚の天端にあるひび割れが気になり、モニタリング装置を付けて観察していた。すると、コンクリート片が落下し、どうも疑わしいので、鉄筋レーダーで確認させたところ鉄筋量が不足しているのが判明した。これはプロからすれば信じられないようなものであった(鉄筋レーダーでは完ぺきではないが大まかには分かる)。


コンクリートレーダー(ハンディサーチ)とその画像

調査事例

 何十年も経っている古い構造物は、まず計算書も図面も残っていない。もちろん、施工途中の管理資料もすでに残っていない。「構造を理解できず、形だけまねたんだね」と言ってしまったが、私は、唖然としたというよりも、本心では怒りを感じた。「何をやってんだよ!」
 鉄筋があるべきところに鉄筋がない。まあ、構造物の不都合としては、意外とよくあることで、施工後数十年が経過しているので時効である。しかし、我々は管理しなければならないし、責任があるので、とりあえず、通行止めを行ったうえで、モニタリングを行いながら検討をして、補修としては補修の域を超え補強を行ったことになる。剛性を確保するために鋼材で鉢巻をまいた。これは、不誠実な結果なのか? 単なる無知なのか? 単なる無知でも、公共工事としては不適格である。とにかく時効なので、誰も攻める気はないが、地方に行けばこういうものがたくさんあることは、昔から感じていた。しかし、誠実な仕事とはいえないことは確かだ。

 全数とは言わないが、予防保全どころの騒ぎではない、表面のひび割れだけに気を取られていたら、確認はできない。怪しいものは、相当数あると思わなければならない。1巡目が終わった際に一番不思議だったのは、「詳細調査」で確認するという提案が1件もなかったことであった。これは無知なのか? 地域性なのか? 地域性であるならば、その地域は相当に危ない。
 下部工や土工構造物など、土に関わる構造物は分かりづらい。何せ見えなくなっている。しかし、それらも、今後不都合が多く発見されるだろう。見える部分の不都合はまだ対処しやすいが、見えない部分の不都合は、なかなか対処しにくく、コストもかさんでいく。

 日本において1990年頃まで一部で自信に満ちて語られていた技術や工学に対する絶対安全の神話は、阪神大震災、核燃料サイクルもんじゅのナトリウム漏洩、JCO臨界事故、度重なるH2ロケット打ち上げ失敗等々に直面して、2000年を越えた21世紀に到って、ようやく、失敗学や社会技術等、謙虚な姿勢の観点に基づく技術や工学が提唱されるようになった。
 韓国・聖水大橋の崩壊落下は、通常の供用条件で起こった。その事故に対して、1994年において数多くの日本の技術者が、日本の橋は通常の供用条件で、いきなり崩壊落下するようなことが絶対にないように安全に設計され、厳重な品質管理がされているとコメントしたものである。
 しかし、それは2003年8月28日、新潟の朱鷺メッセ連絡橋が、突然に落下したことによって崩れ去った。実はこの落下当日の昼間、私は現場を訪れており、その構造系に違和感を持っていた。笹子トンネル事故の原因も当初は「老朽化」と簡単に答えられていたが、最近では「設計・施工・維持管理のすべての工程において」というのが露わになってきている。まさに、大本営発表と一緒で、事実とは違う安全神話がたたえられ、肝心なことは隠ぺいされる。昨今の社会の状況を見ても明らかである。我々はプロとして事実を学び、失敗学も学ばなければならない。
 不都合を明らかにしない社会は、そのリスクを誰かが背負わなければならない。普通の人間は嫌であろう。リスクは分かった時点で明らかにし、共有し判断する。それがリスクマネジメントである。ただ、予算の関係もあるのですべてに対処できるわけではない。維持管理費は「経費」と考えられてきたが、今後は「投資」である。将来への投資。ここに新たな考え方が必要になってくる。

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