道路構造物ジャーナルNET

第79回 災害の増加と維持管理

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2022.08.16

3.災害の増加と維持管理

 近年、自然災害が増加している。地震、水害、風害……津波と過去よりも強くなっているように感じるのは私だけであろうか? 橋梁は、上からの荷重に関しては設計時に考慮されているが、横からの荷重に関しては意外と弱いものである。そのために、耐震設計や耐風設計は実施されているが、洪水に関しては特に疑問である。また、そういった設計は行われていても正しいかどうかは分かりにくい。

 災害を考えた時に重要なことは、少なくともその構造物は、常時では安全か? どうかである。常時でoutであれば、災害時の補償は無い。運がよく生き残れるかどうかである。最近某所と打ち合わせていて、「こいつ、おかしいんじゃないか?」と思ったのが、常時ですでにoutだと言っているのに、「レベル2地震動ではどうか?」と言うのを連発してきた。私個人は「もうこれ以上話しても無理だ!」と感じた。
 こういった耐横荷重の設計、(特に耐震設計がそうであるが)に関しては、経験工学的な要素も大きいが、なかなか難しく、維持管理上は、設計時にきちんと実施されたか? 施工されているか? 劣化損傷はしていないかなど見極めは極めて困難である。強いて言うならば、過去の事実は信じるしかないということである。しかし、現場を実際に回っていると、どうも下部工の出来がおかしいものが結構ある。
 設計の工程上も下部工は時間的制約に追われることになる。地方に居て橋梁を見ていると、下部構造がどうもおかしいものが意外と目に付く。形だけまねたと思われるものも相当数ある。その中でも局所洗掘については、以前から不安視している。フーチングの根入が足りないと感じるものがある。これらの既存構造物のフーチングの根入れ深さや、杭やケーソンの長さなどの見えない部分の点検や確認はどうするのか? この辺の議論はまだ不十分である。いくら上部工が健全でも下部工が不健全では、長寿命化も予防保全もない。100年なんてとんでもない。こういう見えない部分の確認方法を新技術として確立しなければならない。


橋梁の洗堀が心配な山間部の橋梁①

橋梁の洗堀が心配な山間部の橋梁②

 富山に赴任し、一番驚いたのは、「耐震設計に不安があるから」と説明を始めたら、「地震の話は市民が不安がるからするな! 富山は立山に守られているから大丈夫だ。」としかるべき方々が言い始めた。「これはとんでもないところに来てしまった。宗教団体か?」と思った。それから耐震の話はしても無駄だと思った。しかし、災害はいつどこに来るかはわからない。誰が言い始めたのか知れないが、耐震対応の遅れを改めて感じた。と言うことは、恐らく設計などは正しくできていない可能性が大だと思っていたら、3径間連続橋の新設の設計で、動的解析を行っていなかったというのが発見された。私としては、「やはりな!」だったが、後の処理が大変だった。最近では、議会でも耐震設計の話は出てくるが、きちんと理解しているかどうかは疑問である。先日の、吊り橋の設計でも、耐震の話ばかりが出てきて、耐風の話が出てこない。耐震や耐風設計が、どうかと言うのもおおむね構造物を診れば感じられる。
 局所洗掘に関しては、学生時代に、夏休み中に「産学協同実習」と言うのがあった。現在はインターンシップと言うやつだが、私は、有名な本間先生のからみで、土木研究所の河川研究室で、局所洗掘の実験をやった思い出がある。当時は、何がなんだかよくわからないまま、当時の赤羽の実験水路を使い橋脚の模型をセットして、来る日も来る日も実験のお手伝いをしていたが、論文集を渡され、「読んでおくように」と言われて、行き帰りの電車の中で読んでいた記憶がある。夏休みの2カ月間であったが、研究職も面白そうだな!と感じたが、何せ私には能力が無かった。しかし、局所洗掘と言うものと洗掘のパターンなどは実際に何十ケースも観ることができた。富山では結構急流に造られた橋梁が存在する局所洗掘による災害も今後は出てくるだろう。そしてパイルベント橋梁も数橋あることが懸念材料でもある。


パイルベント橋梁の点検

 ともあれ、地中の構造物はなかなか確認がしずらい。こういったところに、新技術の導入が本当は必要であるがそういう議論にはならない。少なくとも、今後、建造する構造物は、調査を十分に行い、設計、施工、維持管理を十分に考えて実施することが重要である。そして照査・確認。それが将来の維持管理の手間を低減することにつながる。
 これも現在の点検をみていると、見えている部分のひび割れを拾って喜んでいるが、幼稚園児か? 見えない部分にどれだけリスクが潜んでいるか? お分かりか?

4.まとめ

 インフラを管理していると、様々なリスクが実際にはある。それは各自治体によってさまざまであり、全国一律と言うわけにはいかない。専門的知識のある技術者がいない自治体も多い。災害も激甚化しており、災害に対するリスク。そもそも健全でない(過去の計画、設計不備、施工不備)ことによるリスク、など、多くのリスクが存在する。インフラは、単純ではなく多くのリスクを含み、判断を間違えれば、それらはすべて自らと、さらには子孫に帰ってくる。

 現在は「全数近接目視」が「道路法上の法律」であるので、定められた事項は守らなければならない。自治体は特に弱い立場なので、お上の言うことは守らなければならない。しかし、生産性が上がらない原因になっているのではないか?な ぜ生産性が上がらないか?こ れまでに、少なくとも2回は全数見たはずであるので、今後はその結果などを活用しスクリーニングを行い、計画的に詳細調査や、補修、監視と言った方策をそれぞれ考えていくべきである。そうすることによって維持管理の生産性を上げなければ、いずれにしても自治体は持たない。ただ、出来が悪い構造物は急激に劣化することもあるので注意が必要である。私が「トリアージ」と言ったのはそういう事項も含め、撤去すべきもの架け替えるものから補修すべきもの、しばらくは観察すべきもの。そしてこの観察すべきものの中にも、1年に1回は見るべきもの5年に1度でよいものを区別することを言っているのである。全数一律では、生産性の向上は測れないのだ。特に地方自治体は。

 維持管理の時代とは言われているが、目的を見失っているのではないだろうか? 「点検」することが目的になってしまっている。しかし、本来は「その構造物を安全に長持ちさせる。」ことであり、その先の「持続可能な社会を維持していくこと」である。ここを間違えるとリスクは増大する。現在の点検は、表面のひび割れを見つけて満足している。ひび割れは誰でもわかる。しかし、RCとPCのひび割れは違うし、発生部位や大きさによって危険度は異なる。維持管理の生産性を上げるには、単純な作業、簡単な作業は、徹底的に低コスト化を図り、必要な部分にコストを集中しなければならない。必要な部分とはどこか?

 批判を覚悟で、少し乱暴な言い方をするが、点検を今のまま実施するのであれば、単価を下げるか、方法を見直す必要がある。そして点検はコンサルが実施しなくてもよい。だれもそう決めているわけではない。そのための、「みなし資格」のはずだろう。知見の豊富なものが視れば、一見すれば状況は大体わかる。何が課題か判断し、次工程に回せばよい100%の確率ではなくても、十分に対応できるだろう。

 現在の点検業務は、コンサルに発注している場合が多いと考えられるが、試行的に橋梁製作会社に点検を実施してもらい、同様に同箇所を実施したしたコンサルの結果と職員に比較させた。結果は言うまでもない。わざわざ書く必要もない。結局は、橋梁をよく熟知したものが見れば、「点検業務」と言った改まったものでなくても判断は十分にできる。1次スクリーニングを実施し、疑わしいものは2次調査や詳細調査をしたほうが合理的である。まあ、これに関してはクレームがくるだろうが、しかし、専門家とはそういうものだ。現場に行き見れば、ほぼ感じられる。もちろん細かなことは分からないが、問題が存在する橋梁であるかどうかは感じられる。橋の架橋位置の地形や状況を加味すればさらに良くわかる。地形を読み取ることもインフラの技術者としては重要なことである。現場で地形を見渡し構造的な課題の他に地形的な課題は無いかを見極めるのは重要な能力である。「ブラタモリ」のタモリさんは、素晴らしい能力を持っていると感じる。土木技術者だと威張る前にそういう能力も身に付ける必要がある。

 社会に出て最初の会社の先輩からは、「まず地形を見ろ」と教わった。橋だけを考えるのではなく、架橋地点の地点を見渡す能力も必要だ。さらに、十分な地質の状況もわかればよい。さらに十分なデータ、資料が残っていればよいのだが、これはあまり期待できないから問題が大きい。
 新設の設計・施工もであるが、我が国では「設計・施工の分離の大原則」に基づき、工事発注がなされている。しかし、もはや世の中の実態に合わないのではないだろうか? 施工を知らない、やったこともないコンサルが実施してよいことはない。場合によれば現場にすら行っていない(そのコンサルが現場に行っているかいないかは、協議の時にぼろが出る)。

 今後我が国においては、あらゆる面で、生産性を上げていかなければ国が持たないことが予測される。特に自治体は、顕著である。いわゆる「品確法」の改正が、令和元年6月14日に施工された。この中で、工事の前段に当たる、調査・設計においても工事同様の品質確保が重要な課題となっている。品確法と言うと、談合などの話になるが、本来の目的は「公共工事の品質の確保」なのである。担い手の確保と言う問題も存在するが、できもしない仕事をいい加減にやられると品質の確保は無理であるし、納税者に対する信頼を役所が失いかねない。設計成果を受領し工事に回すと、施工業者からのクレームがくる。「こんな設計ではできない」と。ここでデザインなどを絡めると、とんでもないことになる。官が責任をもって管理するためにはどこかで判断しなければならない。業者は品確法に基づき責任のある仕事をしなければならない。

 最後に、もうこの辺で実態に合った発注方式、積算、責任分担などを見直す時期に来ているのではないだろうか?(次回は2022年9月16日に掲載予定です)

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