道路構造物ジャーナルNET

第36回 三陸南地震、新潟県中越地震

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2022.08.01

2.新潟県中越地震;脱線とトンネルの被害

(1)地震発生と新幹線の脱線
 2004(平成16)年10月23日17時56分に、震度7の新潟県中越地震は起きました。概要を図-2に示します。


図-2 新潟中越地震の概要

 この頃、私は脊柱管狭窄症と診断され、整形外科に通っても直らないので、毎週土曜日は整体に通っていました。ちょうど整体院で横になって治療を受けているときに携帯電話で、すぐ会社に来るようにとの連絡がありました。
 電話で現地調査にすぐ社員を行かせるなどの相談を受けました。土曜日で、社員の一部はグループで旅行を計画していたようです。旅行の支度をそのまま現地調査に変えてもらう人も出ました。呼び出されて会社に着いたらすぐ現地調査にといわれ、準備不十分の人もいたようです。事務の社員が、現地調査に準備不十分で行く人のために現金などを用意して渡して、すぐ出発してもらったようです。
 夕方から夜になる時間での出発なので、出発後、夜から朝の間は調査に大変苦労したようです。
 過去の地震被害の報告の例から、当日にはほとんど被害状況はわからずに、翌日明るくなってからでないと全体の被害はわからないだろうと思っていました。私も会社に向かい、その夜は会社で待機しました。夜までの幾分の被害状況の報告から、翌日になるとかなり大きな被害が報告されることになるだろうと思っていました。

 この地震のしばらく前から、脱線に関する委員会が国土交通省、鉄道総合技術研究所、各JR会社のメンバーで行われており、私も参加していました。この委員会で、大きな地震では脱線が生じることが議論されていました。対策をどうするかまでの議論は進んでいませんでした。
 この委員会の途中結果をこの地震が起きる前に、JR東日本の役員会で報告しました。なかには、構造物の耐震補強をしたら脱線はなくなると思っていたと発言した技術系の人もいましたが、脱線と構造物の耐震補強は関係せず、阪神大震災クラスの大きな地震なら、脱線するという結果はあり得るだろうなという意見が多くの技術系の役員の反応でした。この頃、多くの人の意識は、阪神大震災クラスの地震はしばらく起こらないと思い込んでいたようです。

 長岡の手前で新幹線が脱線したという連絡も入っていました。幸いに人的の被害はなかったようです。脱線したままレールに沿って真っすぐに走ってくれたので大事故にならないですんだのでした(写真-6、7)。
 写真-8に示すように車輪は脱線しているのですが、車輪の外側の突起と車輪でレールを挟んで走ったのです。


写真-6 車両脱線状況

写真-7/写真-8 レールを車輪と突起で挟んでいる

 この地震での脱線で、車両がレールをガイドにまっすぐに走れば人的な安全が確保できることが証明されました。この地震後から、新幹線の脱線対策が行われ始めました。車両がレールをガイドにまっすぐに走るような車両側の対策や、ガードレールの設置、またレールが移動しないような対策などが、各社によって方法は異なりますが、対策が進みだしました。

 新幹線が脱線した箇所には、活断層が存在していました。当初の耐震補強は、首都圏と仙台エリアが原則でしたが、そのエリア以外でも活断層と交わる箇所の高架橋は補強対象に加えていました。脱線箇所の高架橋は、せん断破壊先行と診断されており、鋼板巻き補強がされており、無被害でした。この新潟県中越地震の原因となった活断層は脱線箇所の断層ではなく、それまで見つかっていなかった断層です。偶然に補強の終わった高架橋上での脱線ということで、構造物の被害がない状況での脱線は不幸中の幸いでした。

(2)新幹線構造物の被害
 地震発生翌日の24日になると、現地からの被害状況が報告されてきました。ほぼ全体の被害状況がわかってきました。被害の概要を図-3に示します。


図-3 新幹線の被害概要

 翌25日、社長が現地に行くためのヘリを用意するので、一緒にという話がその日にあり、初めてヘリに乗ることになりました。25日の昼頃、長岡の駅までは社長と一緒に行動し、その後は、社長は脱線現場などに向かうこととなり、私は別れて、構造物の被害現場に向かいました。
 トンネルの大きな損傷は初めてなので、トンネルの被害状況を中心にみることにしました。ちょうど、妙見トンネル内に入っているときに、大きな地鳴りが聞こえてきました。余震です。トンネルの天井付近には覆工コンクリートが破壊している状況が見える状況なので、覆工が落ちてきたら大変なので、必死にトンネル出口に向かって走りました。長岡付近の被害状況を見て翌26日は、まだ新幹線がつながっていないので、新潟から飛行機で東京に帰ってきました。

 橋梁や高架橋の被害は、魚野川橋梁の途中定着部の損傷や和奈津高架橋の被害が、近くにまとまって生じていました。この被害現場には28日に調査に行きました。復旧の方針を決めて指示の文書を出すのですが、現地の状況を見て進入路や資機材の入手状況を考え、復旧工法を決めるので現地を見ることが必要です(図-4)。


図-4 現地調査と復旧方針の決定

 見た後ですぐに復旧方法の指示書を作ります。東日本大震災の時は、インターネットが発達し、現地から映像がすぐに送られてくるので、ほとんどの復旧方法の指示は現地に行かずに被災後数日で行いました。この時は現地に行って見ないと判断できない時代でした。復旧の指示は阪神大震災の経験を踏まえ、JR東日本の構造技術センターから復旧図面を文書で当時所長であった私がサインして出しました。

2.1 橋梁、高架橋
(1)被害状況
 10月28日には脱線現場の東京側の構造物の現地調査に行きました。
 新幹線の橋梁や高架橋の被害は、魚野川の橋梁とその前後の高架橋に集中していました。この時期は耐震補強が始められていた時期であり、補強の終えてない構造物の被害でした。
 第3和奈津高架橋は、耐震診断ではせん断破壊先行とならない結果となっていました。現地を見たら、柱の中間ほどまで土に埋まり、かつ地表面にはコンクリートスラブが施工されていました。高架下に機器を置くために杭とスラブが施工されていたのです。このスラブが柱の中間を拘束したために、短い柱として挙動したために、図面からは曲げ破壊先行と計算されたものが、現地の条件でせん断破壊先行となっていたのです。そのため大きな損傷が生じていました(写真-9)。


写真-9 第3和奈津高架橋の損傷

写真-10は、魚野川橋梁の橋脚の被害状況です。鉄筋の段落とし部のかぶりが剥落しています。


写真-10 魚野川橋梁の損傷

(2)復旧
 高架橋の復旧は阪神の震災での復旧方法と同じです(図-5、写真-11)。


図-5・写真-11 第3和奈津高架橋の復旧

 ただし、途中でトラブルがありました。地表面に床スラブが施工してあるので、そのスラブをジャッキの反力としました。スラブが薄いことと、地盤が軟弱地盤のためジャッキで持ち上げようとしたら、床スラブが抜けてしまいました。柱はすでに切り離してあります。
 この高架橋は魚沼トンネルの入口近くの高架橋です。高架橋の上をトンネル復旧のための資機材を運搬する車両が翌日通る予定となっています。ここを通れないと復旧のクリティカルであるトンネルの復旧が遅れることになります。
 施工者から夕方に連絡があり、何ともなりませんと言ってきました。それでは困るので、すぐに上を通れる状況にしなくてはなりません。JRの現地の責任者と話し、直接私が指示をすることとしました。
 渋川にデンカ(当時は電気化学)の工場があり、そこでアクリル樹脂を製造しています。その工場に連絡を取ってもらい、夜間に工場からアクリル樹脂を現地に運んでもらうようにお願いしました。現地には構造技術センターの松田さんがいたので、彼から電気化学の工場に連絡を取ってもらいました。
 壊した柱の部分に、付近の壊したコンクリートガラを再度積み上げて、それをアクリル樹脂でかためるということで、翌日にはその上を走行可能な状況にするのです。急結モルタルやエポキシ樹脂では硬化に時間がかかりますが、アクリル樹脂は1時間もすれば十分強度が発現します。コンクリートガラのシーリングが不十分で、ずいぶんたくさんの樹脂を使ったようですが、トンネルの復旧工程を遅らさないで済みました。この応急復旧した柱は、後から取り壊して造りなおしています。写真-12にアクリル樹脂でコンクリートガラを積み上げて復旧した柱を示します。


写真-12 アクリル樹脂で復旧した柱

 橋脚の途中定着部の損傷の復旧も、ひび割れ注入とRC巻きが基本です。河川部の施工は水中となる範囲については、直線鋼矢板(実際はJES型鋼)を、橋脚を囲むように打ち込んで、隙間にコンクリートを施工して工期を早めました。水中以外はRCで施工しています(図-6、写真-13)。


図-6 魚野川橋梁復旧工事 施工順序

写真-13 同 施工状況

 直線鋼矢板は注文すると現場には数カ月後でないと一般的には入ってきません。この時は、線路下横断の工事ですでに別の現場で用意していたJES型鋼を、HEP&JES工法の専門業者である株式会社ジェイテックにお願いして、この復旧に転用してもらいました。このような資材の転用は、発注者でないとできないでしょう。できるだけ市場ですぐに手に入る資材を用いた復旧が望ましいことは言うまでもありません。鋼矢板を橋脚にそっての打設は株式会社技研製作所にお願いしました。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム