道路構造物ジャーナルNET

第78回 構造物の現在の状態を見極める

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦 氏

公開日:2022.07.16

1.はじめに

 異常に暑い日が続いております。皆さま、お元気でしょうか? 新型コロナウイルスの感染がまた盛返しつつあるような?
 先月、「100年のジレンマ」について書いたが、それに対する反響が多少あった。私の感覚だと、「よく理解されている方は、これで苦労されている」ということである。まずは生い立ち(計画・設計・施工)、そして、その後の再劣化のスピードである。良く世の中に示される「長寿命化」や「予防保全」の劣化曲線などは、机上論であり理想論で、そうはいかないところに苦労があり、面白味がある。
 インフラ・メンテナンスは、長期戦であることも大きな要因である。長期戦はいやおうなしに「消耗戦」となることを認識しなければならない。消耗戦になれば予測が付かないことも出てくる。膨大な予測外の予算が必要となる。机上論ではいかないということである。

2.100年もたせるには

 たぶん皆さん、「長寿命化」「予防保全」で苦労されていると感じています。まず、現在の点検が、「ひび割れを拾うこと」に主眼が置かれている。これはこれで、初歩的には良いと思う。ひび割れは誰にでも目に付く。何よりも、点検すらしてこなかった地方の橋を点検するということは、価値がある。そして、「傷んでいるな!」というのを実感することは、管理者として大切な第一歩である。それだけでも十分重要なことだ。だが、管理者はその1橋だけを管理しているわけではない、ということを考えておかなければならない。
 点検時に重要なことは、常に疑問をもって診ていくことである。そのひび割れはどうしてできたのか? なぜ、その場所に発生したのか? 原因は何か? と推測していくわけだが、推測のさかのぼりが中途半端である。だから、今のやり方を続ける限りは、再劣化は防げないし、架替えや廃止の議論になっていかない。生ぬるい結果になっていく。もっと「疑いの目」というのが必要だ。
 富山の場合、「ASR」で済ませれば、良いような風潮がある。わからないひび割れは、すべてASRにしてしまえば、管理者側もコンサルも納得してしまう。そんなことをしていると、長期的にはとんでもないことになる。
 よく「原因の究明」と言われるが、それより急ぐことがある。それは、その構造物が今どのような状態なのか見極めることである。ひび割れを見つけ、「その原因は何々」で満足してしまっているようでは、たどり着けない。そもそも、現状は危険なのかそうでもないのか? である。
 ひび割れを見つけて、ひび割れ損傷図を書き満足している場合ではない。そもそもが、我々の目的は何なのか? を考える必要がある。「安全な構造物を市民や国民に届け、長年にわたって安心して共用してもらうとともに、経済の発展に寄与するためにも物流や緊急時の通行を安全に確保するところにある」ということだと考える。となると、長寿命化とか予防保全という考え方と少し変わってくる。予防保全のほうが近い考え方なのだろうか?

 表面のひび割れを見て喜んでいる段階はフェイズ1で済んだ。フェイズ2では、可能な範囲で補修の検討と実施、その劣化速度などから再確認し検証すべきだった。もうすぐ始まるフェイズ3では、構造物を、だまして使うことも考えていかなければならない。だまして使っていくためには何が必要かである(ああ、これは自治体に関してである。国やNEXCOなどはまずい)。
 まず「検証」であろう。損傷があったにしても、それを評価し(ここまではこれまでと変わらない)、現状で、その構造物が安全なのか? を検証していく必要がある。解決法としては全体形の解析や実験であろう。現状を把握したうえで解析を駆使し判断していく。現状を見ているとこれができていない。職員もコンサルもやろうとしない。もともと、市町村の管理する橋梁は、適用過重が小さい、TL-14で建造されたものが多い。そこに、現実としては何も考えずに通常のA、B活荷重を通している。荷重制限さえすれば通せるのか危険なのか? 判断していく必要がある。
 そのためには、様々な実証試験や、解析、判断が必要となってくる。当然モニタリングも重要である。そういう議論ができていない。「ASRだから、その検証をする」というのはよく聞く。しかし、重要なのは、今ここにあるこの橋は、使用できるのか? どうかである。ひび割れだけではわからないと、私は考えるがいかがだろうか?

3.新技術導入

 これまでの仕事人生の中で結構長いこと新技術の開発にかかわってきた。日本の土木技術では新技術は非常に出づらい状況にあるが、民間企業の方々の多くの努力によって、様々なものが開発されている。そして今、インフラ・メンテナンスに、新技術を導入することが推奨されている。しかし、よく相談を受けるのは、「新技術を導入することによってコスト縮減をするには?」ということである。私はこれに関して、矛盾を感じている。
 まずは「新技術」とはどういうものか? 新技術というと「ドローン」と言う方がいるが、細かい使用法などは別として、カメラを何につけて近くまで持っていくかの技術であって、これだけでは、新技術ではないと考えている。一工夫としては価値があるが、使い方や、その後の技術との組み合わせで価値が変わってくる。人間が危険な高所まで行かなくて済むというところには大きな価値がある。
 ここでコストの問題であるが、通常よりも今の積算では上がってしまうことが問題である。そもそも、積算がないに等しい。私の考えとしては、「新技術を使用すればコストは上がる」ものである。例えば「新薬」と「ジェネリック医薬品」を考えた時に、ジェネリックが安いのは開発費がかかっていないからである。新技術には開発費を見てやらないとイノベーションは起きづらくなってしまう。コストは少々は上昇するがその分、安全性や作業人工が削減されるので、トータルコストは下がるという評価が重要であると思うが、どうも日本人はその評価が下手である。いろいろなものを厳密に考えすぎてしまい、定性的な評価がうまくできないのは、あまり良いとは言えない。こういうことをしているとやはりイノベーションは出てこない。
 日本の生産性が低いと言われるのは、そのへんにあるのではないか? あまりに厳密に考えてしまい、肝心のところが抜け落ちている。新技術を使用するというのは、生産性を上げる目的があるからであって、厳密なものを求めるためではない。ドローンを使ったから、より厳密な点検ができるかというとそうでもない。
 ついでに述べさせていただくと、今は、表面のひび割れを拾うことが目的になってしまっている点検は良くないと考えている。これも批判が来そうだが、ひび割れの向こうにあるもの、次にあるものが評価できる人たちがやる場合には何ら問題はないが、付け焼刃的に維持管理の世界に参入してきた方々にはひび割れでしかない。そのひび割れが、「ASRだから、対処法が難しい」で終わってしまうのが現状である。

 ここで考えなければならないのは、「何のために点検・診断しているか?」である。私はただ直す、補修するためではないと考えている。とりあえず直すというのもありだが、本来は、その橋が使えるか? いつまで使えそうか? を見極めるためだと考える。それが本来の「トリアージ」なのだが、廃橋や撤去ばかりの議論というか、先走った抵抗が多いのが残念である。修復が困難で、利用価値が低いものは確かに撤去というのが財政的には有利である。しかし、こういった判断は非常に難しく高度な判断を必要とする。
 新技術を導入するには、先のことも考えて導入しないと意味がない。写真-1は、漏洩磁束法による非破壊検査。写真-2は加速度計による計測。写真-3はトンネルに設置したひび割れセンサー。写真-4は直線ひび割れ幅センサーを設置した後に、落下した部分の写真である。


写真-1 漏洩磁束法による非破壊検査
写真-2 加速度センサーによる計測
写真-3 トンネル坑口のひび割れセンサー
写真-4 橋脚沓座のコンクリート落下とセンサー(直線変位)

 写真-4については、本来この部分には鉄筋が入っているはずであるが見受けられない。手抜きか? 無知なのか?

 このように「新技術」は、ドローンばかりではなく、非破壊検査技術を応用した様々な計測や、モニタリングが考えられるが、どうもコンサルさんに頼っていると、この辺の技術が出てこない。富山市では1年間に約450橋の橋梁点検を実施しているが、受託者側から詳細調査などの必要性をこれまで提案された事例はほとんどない。これは、不思議なことである。また同様に補修工事での失敗の相談も受けない。これもおかしな話である。
 新技術を導入していくのには、目的とその技術の可能性が大きな要素である。ひび割れを拾いたいだけならば、ドローンもよいだろう。そのあとに画像処理を加えたり、工夫も最近はされるようになってきた。私が考えているのは、補修が予算の関係で思うようにできない中、「監視」が重要になってくることである。つまり、モニタリングが、必要になってくるわけである。目的に合わせたセンサーを設置し、なるべく安価にモニタリングを行っていくのが当面の方策であると考えているが、なかなか皆さん、モニタリングシステムの提案が出てこない。まあ、出てきても目的がずれていれば意味はない。これは構造物に対す理解が甘いからである。
 安易に「新技術」と言っているが、理解して言っているのか? 私は新技術を使うことは、「投資」だと考えている。成功するか失敗するか? そしてコストは上がっても仕方がない。これが将来への投資である。

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