道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第62回 景観とメンテナンス(その2) ‐メンテナンスの肝は、熱意と探求心‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2022.06.01

2.知らぬが仏、想定外であった苦情の続出

 半年前の掲載で話題提供した実名を伏せた道路橋、仮にAB橋とし、話の続きに移るとしよう。しかし、読者の多くの方々は前回の話と掲載した外景を見ただけでどこの橋だか分かったようで、話題提供したアーチ形状のパイロンが、如何にランドマークとして認知度が高いか、私として今更思い知らされた。

 今回初めて読まれる方は、連載NO60「景観とメンテナンス その1 -計画・設計時の景観は重視しても、メンテナンスの時は? -」を読まれると理解が早いのでお勧めする。

 半年前の掲載で話題提供した実名を伏せた道路橋、仮にAB橋とし、話の続きに移るとしよう。しかし、読者の多くの方々は前回の話と掲載した外景を見ただけでどこの橋だか分かったようで、話題提供したアーチ形状のパイロンが、如何にランドマークとして認知度が高いか、私として今更思い知らされた。
今回初めて読まれる方は、連載NO60「景観とメンテナンス その1 -計画・設計時の景観は重視しても、メンテナンスの時は? -」を読まれると理解が早いのでお勧めする。
 AB橋の2橋を吊っているパイロンの塗装塗り替えは、東京オリンピック開催に間に合わせることが優先され、塗り替えに必要と判断した新設吊りピースが外観にどのようなマイナスの影響があるのか、また、吊りピースの設置が大事に発展することを考えることもなく、業務は進んでいった。図‐5に示す塗装塗り替え対象となったAB橋を吊っているパイロンの鋼製アーチは、景観を特に重視して設計され、外面には大きな突起や凹凸を無くすように工夫され、当然、見えがかり部に一般的な吊りピースは設置されてはいない。私がここで、敢えて一般的な吊りピースと記述したのには特別な理由がある。それが何を意味するのかは文末に説明するので、読書の方々は今から何を意味するのか想像して貰いたい。

図‐5 AB橋を吊る美しい鋼製パイロン

 施設管理者と塗装の塗り替え検討を請け負ったコンサルタントは、塗替え工事を短期間に、そして確実に完了させるための検討を行い、その結果、新設吊りピースの位置、形状、そして固定法として片側施工高力ボルトのハック高力ワンサイドボルト(図‐6参照)を選定した。ハック高力ワンサイドボルトは、図‐7に示すように、左側1の段階で鋼板に開けた孔にボルトを挿入し、専用の治具で締め付けると2の段階に移ってBulb Sleeveが広がり、ストッパーとなって所定の軸力が入ると右側4の段階、Pinの先端が破断する仕組みである(図‐7参照)。景観を重視した構造物を対象に塗り替え等のメンテナンスを行う場合、吊りピース(足場用仮設治具)が必要と判断したのであれば、新たに開け、その孔に挿入・撤去が可能な吊りピース構造の選択もあった。

図‐6 ハック高力ワンサイドボルト/図‐7 ハック高力ワンサイドボルトの仕組み

 しかし、塗り替え検討の成果品を受け取り、内容を確認した施設管理者の技術者は、その後、今回決定した新設吊りピースが大事になることを“知らぬが仏”状態で、受託したコンサルタントの報告を信頼し、塗装塗り替え工事を発注したのである。今考えるに、その時、工法検討を行ったコンサルタントや施設管理者の中に景観に興味のある人がいたのであれば、より慎重な検討を行い、先に示した方法も視野に入れ、最悪な事態を避けることが可能となったと私は考える。それはそれとして、予定していた2020東京オリンピック開催の前年、パイロンの塗装塗り替え工事は発注され、下段から順次図‐8に示す新たな吊りピースをウェブに孔を開けて設置し、並行して頂部まで塗装塗り替え用の仮設足場と防護施設が設置されていった。

図‐8 新たに設置した吊りピースと足場用単管

 パイロン内面側のハック高力ワンサイドボルトが打ち込まれた状況を図‐9に示す。箱形状のパイロン内側は、タールエポキシ樹脂塗料に塗られているが、左側のようにほとんど劣化が見られない箇所と、右側のように結露が流れた跡を明確に視認ができ、一部チョーキング現象が確認できる箇所が混在していた。ランドマーク・パイロンを観ている人々は、図‐10に示すようにアーチ全面に覆いをかけて進める工事について、何が行われるのかと興味を持つ人も結構数多くいたと思う。興味を持った人の中で、探求心が強く、道路工事に詳しい人は、“見える化”以降に大きく変わった工事看板を見るのが工事内容を知る常道であることと理解し、そのような人は、今まさに塗装の塗り替え工事が行われていることを認識していた。


図‐9 パイロン内側の状況/図‐10 パイロンを塗り替え用仮設で覆った状況

 工事看板を見て理解した人々は、塗装の塗り替え工事が行われていることを知り、次に「2020東京オリンピック開催までには覆いも外され、元の美しい姿が現れるはず」と思い描いていた。ランドマーク・パイロインの塗替え工事も図‐10に示す覆いの中で、素地調整、下塗り、中・上塗り段階へと順調に進み、図‐11に示す状況、アーチ頂部の覆いが取られた時、周囲に大きな衝撃が走った。


図‐11 パイロン頂部の覆いが取られた状況/図‐12 パイロンの外観を変えた簪、吊りピース

これまで見慣れていた赤茶色のすっきりした外観が大きく変わり、無数の簪(かんざし)が付けられた無残(言い過ぎかも・・・)な姿が現れたのである。側面に付けられた簪は、塗装塗り替えに使われている図‐12に示す吊りピースであると分かる人は、多分一部であったと思う。ここでもコロナ感染騒動が関係する。コロナ感染騒動で人々が集まる状態を回避する施策が取られたことから、ランドマーク・パイロンのエリアに集まる人の数も限定的であった。ランドマークを観る人の数が少ないということは、簪を問題とする騒ぎも限定された範囲内で収まり、騒ぎが拡散するスピードも遅かった。しかし、日にちが経つと否が応でも変わり果てた外景を目にする人が増え、施設管理者にも苦情が耳に入るようになった。図‐13に覆いが取られた上塗りが完了したランドマーク・パイロンの状況を示すが、黄色い矢印の先、新設した吊りピースを観て、何も感じない人がいることを何度か聞いたが、私としては驚きである。中には、「髙木さん、〇〇にある巨大アーチ橋だけど、綺麗に塗り替えられて素晴らしいね!」との発言もあった。これと同様な発言をする人が結構いたが、何を観ていたのであろうか? 細かく見るのではなく、大まかに観ている人は、口は立つが肝心の見る目が無い。それ以上に、この段階においても施設管理者と塗替え施工業者は、事の重大さが全く意識の中にはなかったのは、私にとって驚愕の事実であった。


図‐13 大きく変わり果てたパイロン

 しかし良く考えてみると、世の中には繊細な、否、神経質な人と大雑把な人と二通りある。であるから、景観も同様で施設管理者の技術者、構造物の外観に関心を示す人と無関心な人との二つに分類される。多分、塗替え工事の進捗度にばかり注視し、苦情の意味が理解できなかったのであろう。そうこうしているうちに、ランドマーク・パイロンの外観が変わったことについて、重大問題とする声が組織の上層部に達し、施設管理者としても抑えが効かず、とうとう緊急で解決策を講じることが決まった。さてそうなると、外観を大きく変えた多数の簪、新設吊りピースを取り外し、如何にして元の外観に戻すかである。この段階になって、とうとう私が登場することになった。

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