道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第62回 景観とメンテナンス(その2) ‐メンテナンスの肝は、熱意と探求心‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2022.06.01

1.はじめに

 令和4年度に入って連日テレビ等で放送される話題は、変異を繰り返した新型コロナウィルス感染関連から、現代社会に起こることは決して無いと思っていた大国ロシアの東ヨーロッパの大国・ウクライナへの侵略に変わった。私個人としては、プーチン大統領の考えや本音が分からないので軽はずみな発言はできないが、戦禍を被る一般の人々にとっては理不尽な災難で、多くの人の命が失われる状況が映し出される度に心が痛む毎日である。ウクライナには、聖ソフィア大聖堂をはじめとしてキリスト教に纏わる歴史的建造物が数多くあるが、ドニエプル川などの美しい河川も流れ、風光明媚な土地でもある。当然、河川には数多くの道路橋が架かっており、景観を彩る橋としてParkovy Pedestrian Bridgeなど著名橋も架かり、住民や旅行客の心を和ませてくれていたが今回の戦禍を受け、将来に何橋が無事に残るのか“神のみぞ知る”状況である。

 さて今回の話題提供は、先送りとしていた大きく変わり果てたランドマークの話、“景観その2”が主題ではあるが、導入として何時も解説する橋梁崩落事故について話をするとしよう。連載でほとんど毎回、橋梁崩落事故の話題提供を行ってはいるが、種が尽きることは無く、何時しか私は、橋梁崩落事故の専門家となったような気がする。

 今回提供する橋梁崩落事故は、東南アジアのフィリピンで4月27日(水曜日)午後に発生した話である。国内の報道機関における注目度が低いのか、あまり話題として取り上げたく無かったのか、残念なことに関連ニュースもほとんど皆無であったし、社会の話題にもならなかった。今回私が話題提供する崩落した橋梁は、図‐1に示す観光地で有名なセブ島の東側にある島、ボホール島(Pulo ng Bohol)の南側、ボホール海に面したボホール州ロアイ町で発生した。崩落した橋梁は、タグビララン・イースト・ロード(Tagbilaran East Road)に架かる主径間の鋼製ワーレントラス橋で、橋名はクラリン(Loay-Clarin Bridge)である。クラリン橋は、架設後約52年経過した3径間の道路橋であるが、2013年10月に発生したボホール地震(マグニチュード7.2)で被災したことから、下流側に新たな代替橋梁を建設中であった。図-2に示す今回の崩落事故で、トラック2台、トラックバン2台、小型車台6台が桁下に流れるロボク川(the Loboc River)に落下し、18人が救助されたが残念ながら4名の貴重な命が奪われた。崩落したクラリン橋の下流側に隣接する橋梁は、図‐3に示すように2018年4月に着工、2022年10月に供用開始の予定で架け替えが進んでいた。架け替え橋梁は、バスケットハンドルニールセンローゼ橋(橋長104m)であるが、JICA(Japan International Cooperation Agency:独立行政法人国際協力機構)とDPWH(Republic of the Philippines Department of Public Works and Highways:フィリピン国公共事業道路省)が進めている道路改良・保全プロジェクト事業で、総工費4億6200万ペソ(日本円で約11.1億円)とのことである。現地報道によると、クラリン橋が崩落した原因は、過積載車両の通行によるとのことである。


図‐1 クラリン(Clarin)橋:フィリピン・ボホール島の位置/図‐2 クラリン(Clarin)橋の崩落状況/図‐3 クラリン(Clarin)橋と架け替えが進む新橋

 さて、ここで私が問題としているのは、JICAプロジェクトのボホール島地震被害復旧詳細設計・調達・施工管理業務(2014年11月~2017年01月)を受注したのは、実名は伏せるが日本の著名なコンサルタントであり、当該業務で地震による被災した地域の道路橋についてトータルコーディネイトしており、今回落橋した橋梁も対象となっている。地震によって被災した状況がどの程度であるかは分からないが、業務を受注した日系コンサルタントは、少なくともクラリン橋の耐荷力を含む安全性がどの程度あるのかを照査し、修繕工事を行っているはずであるし、耐荷力が十分で無ければ荷重制限し、安全性の確保を指導しているはずである。ボホール島(面積4,117k㎡、人口約114万人)内であることから、沖縄本島の約3.4倍の面積ではあるが、リゾート島であることから車両数は限られ、車種も限定できる。崩落の原因が過積載車両の通行であったとすれば、崩落の原因としては、疲労損傷か腐食による断面欠損箇所の座屈が考えられ、いずれも想定できる範囲と思え、技術者として適切に指導できなかったことが非常に残念である。余計なお世話と言われたとしても、日本が支援をするのは架け替える新橋だけではなく、既設橋に対しても安全性や使用性について強く指導するべきであり、それが実っていれば4名の貴重な命は救えたはずである。横に架設工事がほぼ完了している新橋は、6月に供用開始の予定と公表されてはいるが、今後、亡くなられたオーストリア人ご夫婦家族からの保険金請求等に対応するフィリピン政府の担当者は大変であろう。

 私は、今から4年前の2018年4月1日に起こったミャンマーの落橋事故(Myaungmya橋:当連載で解説済み)の時も同様な提言をしている。3カ月に1回の連載において、毎回のように橋梁の崩落事故に関する話題提供のネタが尽きないのは、何故であろう? 多くの行政技術者は、社会基盤施設の整備や管理・運営について、「安全・安心」の確保を主たる目的として掲げてはいるが、これだけ多くの橋梁崩落事故が社会に溢れると、我々が日々口にしている「安全・安心」は『机上の空論』と言われても反論は出来ないと思うが。今回取り上げたフィリピンで起こった道路橋崩落事故状況を見て思ったのは、図‐4に示す横に架設されている新たな橋梁(既に上部仕上げも完了)の開通が早かったならば事故は回避できた可能性は高い。当該地域の景観を考慮した真っ白なアーチ橋では無かったら、製作架設の期間は短くなり数か月前、否もっと前に架け替え工事は完了していたはずである。新橋、架け替え橋、いずれも計画段階で種々な検討を行い、性能、設計耐用年数、最適構造、材料、工法、工期、工費、そして景観を考慮して最適案を出し、予算を獲得し、工事に着工している。景観は重要な要素であるが、優先順位の第一は、安全性確保である。景観の話しが出たところで、今回の連載で話題提供する主題に移るとしよう。


図‐4 崩落したクラリン橋とほぼ完成している新橋

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