道路構造物ジャーナルNET

第75回 地方のインフラメンテナンスはなぜすすまないか?Ⅱ

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2022.04.16

4.では、どうする?

 先日、ある方が「正直、もはや維持管理をどうやって行ったらいいのかわからなくなってきた。」と言われた。実はこれ、官側からも民間側からも言われることである。2巡目が終わり、3巡目に入ろうとしているときに、今までと同じやり方ではまずいとは思うのだがどうすればよいのか?わからない。これって、正直な意見だと思う。何も考えずに「こなし業務」だと考えている発注者や民間企業は、何も考えないから、感じていないであろうが、そういうところは、良い結果は得られない。

 官にも民にも、判断できる人間が必要である。お金の話は、どうしょうもないので置いてておいて、自分たちでできることは何か?と言うことになると、政治判断する人たちとは別に、技術的に判断できる人間が必要である。そもそもやるべきことは何か?何をやるべきか?どういう順番でやるべきか?・・・・等、情報に基づき、分析して判断できる人間が必要である。

 点検では、事実を診てもらい、診断で判断をする。判断するには、プロの感覚、プロの目が必要である。

 そして、どうするかを決められる判断できる人間が必要である。予算の関係があり100%実行は不可能であろうが、決定できる人間が居てはじめて、物事は進む。そして、正しい判断ができなければ何の意味もない。判断できる人間をどう育てるか?

 まずは技術力である。役所の職員は橋梁などの高度な構造物の知識は、はっきり言って無い。ない物を持てというのも酷である。「簡単に勉強しろ」と言うのは簡単であるが、これらは、短期間に習得できるものではない。実際に経験する中で習得していくのが技術力である。つけ焼刃的に道路橋示方書を見たりしても解釈が違っているかもしれない。これは、実際に造る経験をさせなければならない。あとは数をこなすこと。ある程度の技術力が無ければ、適切な判断どころか自信を持った判断はできないはずである。これが、今の人たちは、それもないのに妙に判断してしまうから問題が起こる。

 まがりなりにも、私は40年以上の橋梁に関する経験がある。基準の策定から計画、設計、製作、施工、維持管理、非破壊検査、新技術開発、PPP/PFIと経験してきた。構造に関しても、鈑桁、箱桁、トラス、アーチ、吊り構造、タワー、特殊構造物さらに、海外。材料は、鋼、コンクリート、PC、アルミ、木質材料、FRPなどに関しても経験した。そんな中から、判断力や決断することも学んだ。
 知識があっても、判断・決断できなければ、何にもならない。良く日本人は決断力が無いと言われている。周りや上司を気にしすぎて決断できない。これは個人差があるので仕方がないと思うが、部下や業者は大変である。「失敗をしたらどうしよう」「間違いを犯したらどうしよう」と恐れる気持ちもわかるが、決断できない人間は、上に立つべきではない。しかし、立ちたがる。まあ、失敗や間違いを犯したら責任を取ればよいだけである。

 そして、今の世の中は、コンサルタントを過剰に信じすぎる傾向がある。と私は感じている。コンサルタントが、ダメだというのではない。自分の判断に役に立つならば利用すればよいしそうでないなら聞かなければよい。日本のコンサルは現場経験が無く、その成果は、実際に物を作るのは適していない。例えば、設計は何とか形づけても、実際にそれが施工できるかと言うとそうでもないという現実がある。これは、これまであまり言われてこなかったが、こういう時代になれば言うしかないだろう。

 「便利」だから使うという便利屋主義から脱却して、本当に役に立つ人たちを使っていく。一緒にやっていく世界を作りたい。何でもやればお金になって商売になるという時代は、すでに終わっている。できないことに手を出して大きなリスクを背負い込むことは、まともな企業であれば避ける時代である。自信があってリスクを回避できる能力があってこそ、仕事ができる時代なのである。

 現在の維持管理は、完璧な既存構造物を管理していくという前提に成り立っている。よく長寿命化で示される「劣化曲線」なんかを見れば一目瞭然であるが、実際の構造物は、ああはならない。設計の不備や施工の不備もあれば、災害によるものもある。だから維持管理は一筋縄ではいかない。もう机上論では対処しきれないのである。そういう意味でも、不備を放置して後進や子孫に負債を残すことは万死に値する。まじめに取り組み、きちんとした技術力があればこそ、悩んで当たり前である。こういう人たちを、悩ませないために、官側の「決断」が必要である。決断できる能力も必要だが完璧は無理なので、「決める」という意思が重要である。


劣化曲線は・・・理想論は現実ではない。真のイメージ

マネジメント・サイクルのようにきれいには回らない。スパイラルで状況は悪化

5.まとめ

 インフラメンテナンスの効率化を推進するために「集約撤去」と言うことが、1方策として言われてい
る。結局は、私が提唱した「橋梁トリアージ」である。「トリアージ」は言葉の持つ威力が強すぎたのか? と最近反省している。しかし、「集約撤去」にしても、皆さんが言っているように簡単ではない。住民などとの同意が最終的には必要であり、これがなかなか皆さんが思うようにはうまく行かない。「合意形成」「PI」「説明責任」とはいうものの、説明しても納得を得るのはかなり困難である。気持ちはわかる。今まであったものを無くすのである。便利な生活を、不便にするわけである。

 富山では、うまく進んでいない。これは、私の信用と住民性によるものと考えられる。結局はよそ者であり、プライドの高い人たちには受け入れがたいのではないだろうか?しかし、日本の財政はそんなに甘くはない。特に自治体の状況は待った無ではかなり厳しい。気づいた時には時すでに遅しである。 写真の、つり橋は、8年前に撤去の方針は決まっていた。メインワイヤーの損傷や床版の抜け落ち、部材のゆがみなどがあり修繕するにはコストがかなりかる割には利用者が少ないからである。渡った先には墓地であり、う回路もある。一部の人間の反対で止まっていたがやっと、撤去ができる段階になってきた。8年もかかってしまうと点検だけでも2回発生する。その他説明のために詳細調査や検証に費用も発生している。素人が感情で、クレームを言い出すと、経費はかさみ財政を圧迫していく。

 さらに「包括管理」と「新技術の導入」が言われているが、どれも難しい。個人的には、プラス、モニタリングシステムである。これらの3項目は、どれも、維持管理の効率化と生産性向上を念頭に置く。ただ導入すればよいという従来の考え方は捨て去ったうえで導入できれば、有効であろう。

 「包括管理」は、その仕組みをどう構築するかが課題である。
 「新技術導入」は、新技術と言われるものの中身を理解しなければならない。ここで、レーダーやBIM/CIMもそれに入ると考えられるが、BIM/CIMを維持管理にまで活用していこうという動きがあるにはあるが、議論が少ない。まあ、仕方がない。


BIM/CIMの活用を考えるべきである

 「モニタリングシステム」は、補修を実施できないものの監視において重要である。現在、Ⅲ評価の1割しか補修できていないので大いに活用する物はあるはずであるが、どう活用したらよいかが判断できないということがある。


橋脚に設置したモニタリングシステム

 まあ、簡単に言ってしまえば、勉強不足・経験不足である。維持管理は、新規よりも難しい経験も必要であるし、お金も新設よりもかかる結果になる。「撤去」する費用も馬鹿にならない。架け替えとなると、撤去したうえに新設をすることになる。我が国も、まじめに効率化、生産性を考えて行動していかないと、とんでもないことになる。そういうことを議論する時期に来ていると考えるが、なかなかないのが残念である。合理性、効率化を考えるのは必要で、それが財政にどう影響するのか長期的、俯瞰的に考えて実行しなければならない。できないところは、もは消滅するしかない。

 これを書いている最中に大学時代の友人から電話があった。最近、連絡が取れなくなり、その友人の連絡先が先日やっとわかったばかりだったが、一昨日亡くなったというものだった。冥福を祈りたい。ここ数年連絡も取れていなかったのが悔やまれる。彼は福島の名門高校卒、東大崩れ。大学時代、彼は柔道部、俺は拳法部、夜中にアパートを訪ねたり、良く遊んだ。「東洋大学3大アホ部」はどこかで、よく議論した。結論は2つは間違いなく、拳法部と柔道部。もう一つは、空手か剣道か?とやったのが懐かしいが、我々も、先が無い年代になってきた。時間はいつまでも残されているわけではない。やれることは実行し、戦うべきものとは戦わなければならない。(次回は2022年5月16日に掲載予定です)

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