道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第61回 ここまで落ちたか米国のメンテナンス ‐米国の行政専門技術者の言葉が真実になった‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2022.03.01

2.3ファーンホロー橋の点検結果と対応措置

 ファーンホロー橋は、全米の道路橋健全度が記載されている「National Bridge Inventory 」を確認すると、1999年から2009年までの定期点検では、橋の3つの要素すべてが「Fair」な状態かそれ以上の「Satisfactory」である。ファーンホロー橋の過去に行なわれた定期点検結果を表-2に示す。

 特筆すべきことは、2013年9月の定期点検において、右岸側(西側)のBatter-Post Steel Rigid Frame構造では重要な鋼製脚(Steel Frame leg)の接続部及び脚ウェブが断面欠損し、多数の孔が開いていることと、鋼製脚を連結するブレーシングにも多数の断面欠損を確認しているとのことである。ここに示す点検結果報告を受けピッツバーク市DOTは2014年のある時点で、図‐11に示すSteel Cross bracing(鋼製クロスブレーシング)をサポートする目的で、鋼製ケーブルによって補強工事を行っている。工事は、ピッツバーグのMICHAEL FACCHIANO CONTRACTING, INC が8,651.97ドルで受注し、施工したようである。私自身、現地も見ないで判断することに抵抗感はあるが、鋼製ケーブルで補強するよりも、山形や溝形などの形鋼で補強した方がより効果があると私は考える。そもそもクロスブレーシングは、2本の斜材をX字型に配置した構造であり、風や地震などの横方向の力がかかると、一方のブレースには張力がかかり、もう一方のブレースには圧縮がかかる。建築鉄骨構造の場合は、引張に強い鋼製ケーブルが使われることもあるが、圧縮時には荷重を受けることができないのが特徴である。このようなことから私は、橋梁構造のクロスブレーシングに鋼製ケーブルを採用した事例は聞いたことがない。最悪なことには、2019年初めに先の工事を行った会社が請け負い、既存の鋼製クロスブレーシング梁を取り外し、鋼製ブレーシングケーブルシステムを代替構造体としたことにある。我が国のBatter-Post Steel Rigid Frame橋(鋼製方杖ラーメン橋)事例を図‐12に示したが、今回崩落したファーンホロー橋(図‐5参照)と対比して見てほしい。事例として紹介する道路橋は、橋長100mがファーンホロー橋よりも短いが注目するポイントは両サイドの鋼製脚を繋ぐ、ブレーシングにある。我が国の場合は、地震等のよる作用荷重が大きいことから、ブレーシングの断面、特に横材の大きいKブレーシングの採用によって、左右の主構造一体化に寄与し、当然構造体としての剛度も高い。

 公園内の桁下遊歩道(ファーンホロー川の沿った散策道)を歩く地元住民もファーンホロー橋の状態悪化が進んでいることを見て危惧し、2018年には、錆びついた鋼製クロスブレーシングの状態を撮ってTwitterに投稿している(図‐13参照)。私自身も何度も鋼製部材の劣化を見てきてはいるが、このような劣悪な状態で供用させる自信はない。ファーンホロー橋は、健全度診断結果等を受けて、制限重量を36 short ton から26 short ton(換算23.6t)に重量制限されていたが、1日に14,000台以上の車両が通行していたようである。

2.4ファーンホロー橋崩落の原因

 ファーンホロー橋が崩落した原因は、融雪剤(岩塩等)散布による主構造と脚の連結部及び周辺の断面欠損が主原因であり、その後の行われた鋼製ケーブルブレーシングによる補強策が有効ではなく、それに加え、腐食で接続部が破断した形鋼クロスブレーシング梁を撤去したことにある。先にも説明したが、ケーブルは、引張には有効に機能するが圧縮には役立たないことが基本知識である。

 図‐14は、今回の崩落事故起点となったと思われるファーンホロー橋右岸側Batter-Post steel Rigid Frame鋼製脚を遊歩道から見た2020年12月の状況である。逆側、図‐15左岸側鋼製脚の状況を示すが、右岸と左岸の違いは、鋼製クロスブレーシングにある。今回の崩落事故について私は、2019年に右岸側鋼製クロスブレーシングの一部、下側部分を撤去したことから、上流側脚と下流側脚の一体性が失われたことに加え、Frameと脚連結部の著しい断面欠損した部位が通行車両等の作用荷重に耐えられず、ケーブルクロスブレーシングに圧縮力が採用し、右岸側脚が河川側に倒れ、それを起点してFrame beamが落下、左岸側のFrame beamとRC slabが引きずられるように落下したと考える。Frame beamが崩落した時にFrame legがFrame beam外側に出なかったのは、緊張しているクロスケーブルブレーシングによるものである。

 崩落したファーンホロー橋の左岸側Frame beam端部の腐食状況を図‐16に、Frame beam(Girder)とFloor trussの腐食状況を図‐17に示す。ファーンホロー橋のFrame beam外側面には一部緻密さびがあるようだが、少なくともFrame beam内面側、Steel Frame legやFloor trussには耐候性鋼材特有の層状はく離さびが著しく進展している状況が分かる。耐候性鋼材に緻密なさびが形成されない場合は、裸使用鋼材と同様な腐食速度で腐食は進み、冬季の融雪剤(岩塩等)散布によって腐食速度は著しく早くなる。我が国の資料ではあるが、耐候性鋼材の場合、緻密さびが形成される環境では、片面板厚減少量0.2mm/50年程度であるが、飛来塩分(融雪剤、凍結防止剤散布地域を含む)1mg/dm2/dayの環境では、40倍の最大10mm/50年と桁違いに腐食が進行する。耐候性鋼材の腐食速度が非常に速い事例が我が国にある。ファーンホロー橋と同様に耐候性鋼材裸仕様であった沖縄県国頭郡国頭村の辺野喜橋は、飛来塩分による層状はく離さびの発生・進展、断面欠損によって架設後わずか28年で落橋している。

 ファーンホロー橋が落橋する直近の定期点検は、2021年9月に行われているが請け負ったのは、Gannett Fleming, Inc.社である。Gannett Fleming, Inc.社は、ペンシルベニア州Camp Hillに本社のあり、全米に社会基盤事業関連事業を展開し、社会基盤施設の計画、設計、調査などに多くの実績のある大手企業である。我が国も米国も同様で、行政技術者も民間技術者も技術力や判断能力の低下は顕著であり、大手企業が信頼できる点検・診断を行っていると考えるのは非常に危険な判断である。

 米国の技術者の質や技量は高く、我が国も学ぶべきと常日頃から思い、外部に向かって多くを語っている私は、今回の崩落事故、崩落事故発生までの点検・診断、メンテナンスの状況、民間企業の請負状況やマネジメントなどを見て、大きく落胆している。実に情けない話である。

2.5 米国のアセットマネジメントは機能しているのか?

 今回落ちたファーンホロー橋の管理者は、全米の中でも財政危機・財政破綻の代表的地方自治体と言われているピッツバーグ市である。当然、ピッツバーグ市は、社会基盤施設に投じる資金も厳しく、メンテナンス予算や人員も少ない。連邦政府に管理報告と州下の地方自治体(州や市)の予算を取り纏めるペンシルベニア州DOTによると、ファーンホロー橋は修繕対象の橋梁として判断はしていたが、州管轄内における修繕優先順位記述には無く、2021年交通改善計画にも記載されてはいない。

 今回の崩落事故橋梁のあるペンシルバニア州Allegheny County(アレゲーニー郡)に位置する州が管理する道路橋の健全度割合を図‐18に示し、州下の郡や市などが管理する道路橋の健全度割合を図‐19に示す。州が管理する道路橋の健全度Poorの割合が8%に対し、州下の自治体が管理する道路橋の健全度Poorの割合が20%と高くなっているのは、我が国と実情は同様と考える。また、Allegheny County(アレゲーニー郡)に位置する道路橋の経年と健全度の割合を図‐20に示す。

 ペンシルベニアDOTによると、ファーンホロー橋と同じタイプの設計の橋が州内に他に5つあることを公表しているが、該当する5橋の健全度は良好であり、今回の事故を受けて緊急調査を行ったが、何らかの対応措置が必要とは判断していないとしている。写真‐2に他のBatter-Post Steel Rigid Frame Bridgeの一つ、1972年に架設された橋長1,466 feet (447 m)のPhilip J. Fahy Memorial Bridgeを示す。Philip J. Fahy Memorial Bridgeの場合は、設計年次、橋長、幅員等に差異があることから、ファーンホロー橋とは違い構成している鋼部材断面も大きい。また、Frame Legの支承部は、ヒンジではなく、固定となっている。

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