道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第61回 ここまで落ちたか米国のメンテナンス ‐米国の行政専門技術者の言葉が真実になった‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2022.03.01

1.はじめに

 国内では感染終息の道筋が見えない新型コロナウィルス感染症(COVID-19)RNAウイルス株は、「庚子」2020年1月のSARSコロナウィルス(中国広東省を起源)武漢株がスタートと言われている。COVID-19で話題となるウイルス変異は、ヨーロッパで流行したD614G欧州株への変異が第一波、2020年9月にはアルファ株(N501Y変異・B.1.1.7系統)へと変異し、「辛丑」2021年夏に流行った第五波のデルタ株(B.1.617.2系統)、冬に流行り始めたオミクロン株(B.1.1.529系統)とランダムに変異している。国内でデルタ株の感染が終息に向かった時期には、日本人特有のマナーの良さ??と人種的な特徴からCOVID-19感染拡大は今後無いのではとも言われ、まさに「辛丑」の痛みを伴う衰退とも思える昨年末であった。

 ところが干支「壬寅」に変わると昨年末のCOVID-19感染終息予想を覆し、オミクロン株による感染はネズミ算式に全国に広がり、再び、第六波、日々の生活が規制される事態となっている。しかし、オミクロン株による感染は広がってはいるが、感染力の強さと重症化率とは比例関係では無いようであり、干支の「壬寅」の特徴である「新たな生活様式の始まり」を感じている。しかし、国内外の社会状況は、COVID-19を甘く見たために何度も大きなしっぺ返しを受けているので、死者が増加している現状から私としても気を許すことは出来ないと身構えている。私としては、ワクチンの追加接種を含め、自己防衛感染対策に躍起となっており、疲れも溜まり、「壬寅」を全く感じてはいない。いずれにしても地球上の人類は、過去のスペイン風邪やロシア風邪で学んだ教訓をCOVID-19感染には十分活かせていないようで、私が自らの活動範囲で考えると、COVID-19の対応と社会基盤施設の安全・安心確保の対応とに共通点があると思うようになってきている。

 ここらで話題提供の前置は終りにして、本題に移り社会基盤施設の安全・安心確保について耳の痛い話しを始めよう。今回の話題提供は、米国で起こった信じ難い道路橋崩落事故の話しである。

2.米国・ペンシルバニアで道路橋が落ちた

 昨年の2021年5月3日の夜に発生したメキシコ市地下鉄崩落事故以降、国内外に人身が絡む橋梁やトンネル等の崩落事故等もなかった。このようなことから、「辛丑」が終わりとなる昨年末の私は、インフラ事故分析の義務感も無く、安堵感に満ちた穏やかに過ごすことが出来た。私自身としては、インフラ事故に接すると何故か1本連載に掲載しなければとの義務感が生まれる。そして私は、管理者の立場にたって事故情報を詳細に調べ、話を分かり易くするために視覚的資料化を行ったうえで文章化するなど、ネガティブな気分いっぱいの分析作業となる。干支が「壬寅」に変わり、私自身どっぷり浸っていたお屠蘇気分も抜け、「いよいよ北京冬季オリンピックが始まるぞ、私が得意であったスキーの大回転などの各種競技、そして小林陵侑のスーパージャンプを見るのが楽しみだ」と個人的に盛り上がる気持ちが満ち満ちてきた1月末、米国、それも私が何度か訪れている水と橋の都、ピッツバーグの道路橋崩落事故報道がテレビに流れた。

 2022年1月28日(金曜日)午前6時39分、ペンシルベニア州南西部に位置する第2の都市、ピッツバーグの中心部に近い森林公園フリックパーク(Frick Park)内にある図‐1に示す位置のファーンホロー橋(Fern Hollow Bridge)が崩落した。ファーンホロー橋は、Forbes Ave.(フォーブスアベニュー)の道路橋で、図‐1の左矢印方向、ピッツバーグ中心部に約2マイル行くと『Carnegie Mellon University・カーネギーメロン大学』 のある、市街地に隣接する場所に位置している。私が3度訪れている『カーネギーメロン大学』は、米国では著名なハイクラスのエンジニアであるJames H. Garrett, Jr Professor and Head 教授(土木環境工学部学部長)に非破壊試験方法とインフラマネジメントに関して種々な質問をし、最新のスキルを学んだ、思い出深い場でもある。『カーネギーメロン大学』は、1900年に創立された、米国でも有名なプリンストン、コロンビアやヴァンダービルトと並ぶ名門私立大学であるが、テクノロジー分野と芸術分野が優れていると評価の高い大学でもある。ファーンホロー橋が供用している在りし日の姿を図‐2に示す。

 ファーンホロー橋が崩落した時、橋上の下流側を走行していたポートオーソリティ(Port Authority of Allegheny County:PAAC、700台の車両を所有し、365日運行させている)の連結バスを含む5台の車両が走行していた。今回の道路橋崩落事故によって橋梁上を走行していた全ての車両が落下し10人が負傷したが、幸いな事にはいずれも命に別状はないようである。図‐3及び写真‐1で分かるように、今回の事故で鉄筋コンクリート床版と鋼製の床組みは大きく4分割され、桁下を流れるファーンホロー川右岸側方向(ピッツバーク中心街方向)へと滑り落ちるように崩落した。図‐4に示すように60Ft(約18m)下のファーンホロー川に落下したにファーンホロー橋のFrame Beamは、座屈し一部破断した。鋼部材の座屈や破断(図‐4参照)は、桁下の地盤に落下した衝撃か鋼製脚(Steel Leg)が破壊したことによるものかは、現地を確認していないので示すことはできない。今回の落橋事故は、朝のラッシュアワー前であったことと、学校の開始時間を降雪で遅らしたことが幸いし、被害は最小限に留まった。ファーンホロー橋には、天然ガスパイプライン(φ16インチ)が添架されていたようで、今回の事故で切断されたため橋梁周辺に異臭が漂い、一時左岸側の周辺住民は避難している。

 ファーンホロー橋の初代は、我が国では官営八幡製鉄所が操業を開始した年の1901年9月(明治34年)に完成し、供用開始している。明治34年頃の我が国では、隅田川の木橋を鉄製トラス橋に架け替えていた時代にあたり、当時の我が国と米国における橋梁技術レベルの差異を感じる。初代ファーンホロー橋の構造形式は、鋼製のアーチ橋で路面電車が走る、橋長438フィート (134m)、総幅員49.2フィート(両側に1.98mの歩道)であった。今回崩落した橋は、初代の橋が供用開始して72年後、1973年(昭和48年)に架け替えられた2代目で、図‐5に示す橋長446.9フィート(136.2m)、中央径間166.0フィート(50.6m)、総幅員64.0フィート、設計荷重MS 18 / HS 20でデザインされたBatter-Post Steel Rigid Frame(3径間鋼製方杖ラーメン橋)である。初代の鋼製アーチ橋が72年間供用できたのに対し、2代目のBatter-Post Steel Rigid Frame構造のファーンホロー橋は49年で崩落であるから、約5/7しか持たなかったことになる。なぜ、昔の橋は長期間使用ができて、現代の橋は寿命が短いのかを考える必要がある。構造物の耐久性について技術者が良く話の中に、「作用荷重の違いが大きい」と言われるが本当にそうなのか?私はその言葉に大きな疑問を抱いている。今回の崩落事故原因と二代目ファーンホロー橋の耐久性に関係していると思うのは、主要鋼材にCOR-TEN耐候性鋼材が使われていることである。いずれにしても、ファーンホロー橋は、1974年にAISC(American Institute of Steel Construction)の受賞を受けた米国を代表する橋梁でもあり、設計者、所有者、鉄骨製作者が刻まれたステンレス製の記念の楯が取り付けられた、地域の重要橋梁である。ファーンホロー橋について私は、鉄鋼の街、橋と水のピッツバーグ、USスチール、COR-TEN耐候性鋼材、Batter-Post Steel Rigid Frame、AISC のお墨付き、とキーワードを並べると、古き良き時代の米国鋼製橋梁最先端技術に触れるようで、思い出すことが多々あり感動的である。

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