道路構造物ジャーナルNET

第73回 Ⅲ評価への現実的な対応とは

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
(富山市 政策参与)

植野 芳彦

公開日:2022.02.16

1.はじめに

 まだまだ寒い日々が続きます。オミクロン株によるコロナも猛威を振るってます。お元気でお過ごしでしょうか? 前回は、なかなか書きなれないことをしましたが結局いつもの話になってしまったかな? もっと批判がくるかと思ったが、私のところには届いていない。良いのか悪いのか? インフラメンテナンスを、実行していくためには様々な分野の人材が必要だ。まず、入り口の点検は、現状ではコンサルの領域だろう。場合によれば診断や補修設計も行っている。まずここの方々に、頑張ってほしいのです。そして、みんなで議論していければよい。

2.米国での事故から

 先日、米国ペンシルバニア州ピッツバーグでの橋梁崩落事故が起きた。幸いにもけが人だけのようである。何が原因なのかまだ報道もないが、アメリカは2年に1度の点検が実施されていて、判定は「poor」だったようだ。日本で言うと、おそらくⅢ判定。今回の「ファーンホロー橋」は、1973年架設のメタルの鈑桁。橋長は136m。49歳と、私よりもだいぶ若い。
 一方わが国では5年に1度の点検が現在2巡目に来ている。その判定の中身は、市区町村で、橋梁がⅠ:41%、Ⅱ:51% Ⅲ:8%、Ⅳ:0.1%と報告されている。日本には道路橋として約70万橋存在するので、5.6万橋がⅢと言うことになる。
 そしてⅢの修繕率であるが、(自治体では)10%程度である。つまり、5万橋は手つかずである。もうすぐ2巡目も終わるので、10年間でこれである。100%にするにはあと90年かかる。そしてその時にはⅡの51%のうちかなりなものがⅢになっている。90年後に私はいないので、どうでもよい話かもしれないが、荒廃する国土を子孫に残したくはない。

 現在、老朽化対策を見ていると、現実を見ていない気がする。その橋梁なら橋梁、トンネルならばトンネルの生い立ちが見れていない。つまり、計画時から、現地調査、設計、施工、その後の維持管理は、完璧だったという前提で、やっている気がするが、実際にはそうではない。「所定の鉄筋量が無い」などは多い。また、トンネルなどは「どうしてそこに、開けたのか?」と疑いたくなるし、構造形式や材料の選定なども、疑問である。いつか書いたと思うが、どうも、やたらとPCを使いたがる。まあ、プレキャスト形式として、施工などの手間、そして維持管理性も優れていると言われてきたが、果たしてそうか?
 今、PC橋が何らかの重大損傷を起こした場合にその対処法が課題である。昔安易に作られたが、対処が難しい。おそらくこれも一つの課題となる。
 構造物の安全性、維持管理性と言うのを忘れてしまっている。どうも、別な方向に行ってしまっている。最近はますますそうであろう。こういうことをしていると将来は大変なことになる。構造物を診る目の無い人たちが点検しても何もならない。構造物は物を言わない。聞こうにも聞けない。
 アメリカでの前回の大きな事故は、ミネソタのトラス橋の落下である。こちらは9人亡くなった。その、5年後に日本では笹子トンネル事故。今年は笹子から10年である。この10年の間に、何がどれだけ進んだのか?まずは、全数近接目視の義務化であるが、これはこれなりの効果はあると考えている。おそらく、まじめに取り組んでいる方々は技量も上がってきている。職員もコンサルもである。これは、富山市での診断協議の中でも感じることである。みな、見る目も変わってきたし、それぞれ工夫していこうとしているので良いことである。先日の診断協議では、地元のコンサルが、指示していなくても、無筋か有筋かを。鉄筋レーダー使用し検査していた。こういう事例には増額をしてやるべきである。


全ては笹子から始まった

 いちいち、新技術の導入を語らなくても、工夫すべきところはみなしてきている。私は、鉄筋レーダーだって、新技術だと思う。いわゆる、電磁波レーダーの一種である。非破壊検査技術などは皆そうなる。AIやドローンだけではなく、使えるものは使っていく工夫が重要だと感じているがいかがか?

3.Ⅲ評価の対応

 Ⅲ評価とは「早期措置段階」である。健全度区分がⅢの橋梁については、次回の点検までに修繕することが求められている。しかし、結果的に10%ほどしか対処できていない。(自治体)


 と、言うことはどういうことか? 現状のままやっていけば、毎回毎回、積み残しが出ていくということである。実際に補修修繕工事を行うことは金額がかさむ。点検に比べ、1桁2桁数字が違ってくる。これは、点検診断の精度にもよるし、理解不足もあるだろうが、それによって、施工法の変化や対処法の間違った判断も出てくる。簡単に言うと、「治らない」「再劣化」が起きる。こうなると、修繕の甲斐が無く、また直さなければならず、余計なコストがかかることになる。一番厄介なのが「早期再劣化」である。次の点検時までの5年間はもってほしいが、1年や2年で再劣化してしまうと、予定が狂ってしまう。(修繕計画が)分かりやすいのが伸縮継ぎ手である。伸縮継ぎ手は20年程度で交換することが必要であるはずであるが、実際には2年で交換と言う事例もあった。

 修繕工事は橋梁などの規模や、修繕内容によっても異なるが、点検費のオーダーが数百万円だとすると、数千万円に上ると推測される。さらに足場の費用も発生する。したがって年間に実施できる、修繕工事は限られてしまう。
 今後、老朽化が激しいものに関しては架け替えなども発生し、さらなる予算が必要となる。橋にも、いくら長寿命化と言っても、寿命は必ずある。ここが議論されないのはおかしいくらいだ。
 多くのⅢ評価の物は今後は「監視」と言うことが施されることになっていくと考えている。モニタリングシステムの活用である。モニタリングシステムを工夫すれば、1橋数百万円で済むだろう。点検と同程度である。(おおざっぱだが)このモニタリングシステムを様々に工夫し、監視作業の効率化に活用することが、一番有効な手段ではないかと考えている。それには目的を明確にして、何を計測していくのか? はっきりと活用していくことが重要である。この技術も、まだまだ発展途上であるが、私は一番実用に近い新技術だと考えている。さらなる高度化や活用へ向けて検討されたい。

トンネル坑口のモニタリング

橋脚天端のモニタリング

 今後、このⅢ評価への対応に関しては、課題視されるであろう。一番悪いのは、「わかったふりの放置」だ。せめて監視はしないと、何かあれば管理者責任となりかねない。さらに、今後は土砂災害などに対する土の問題や、土中部の構造なども問題になってくるだろう。例えば「フーチング」や「杭」や下部構造の健全性、橋台の裏側、ボックスカルバートの裏側、擁壁の裏側等。さらには現在、幅しか見極めていない、ひび割れの深さ。ひび割れ補修後の補修材の注入状況等、「見えないものを見る」技術が必要になってくる。この使い方も重要である。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム