道路構造物ジャーナルNET

第72回 私がコンサルに厳しいわけ

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2022.01.16

3.応援したい事例
 民間の技術力と財力を公共事業にも投入しなければ自治体は生き残れない

 今回は、編集者から「頑張っているコンサルの事例」も書いてくれというので、書いてみたが・・・・。(現在私は、「公務員では無い」ので、言ってしまっても問題はないであろう。感じていることを書く。)私の思考は皆さんとは違うのでかえって批判を招くかもしれない。

(1)アルスコンサルタンツ(http://www.ars-c.co.jp/
 私のいる北陸でまじめに仕事をするという評価が他の役所も含め高いのが、まずは、金沢のアルスコンサルタンツである。いかんせん社員数が少ないのでなかなか仕事をやってもらえない。早くから維持管理の分野に進出し、最近ではPPP/PFIなどを各自治体に積極的に提案している。富山市に行く前から知っているが、とにかく真摯に仕事をこなしてくれる。先日、49周年を迎えたそうで今年は50周年だと言っていた。個人的に好きな人たちも多く、私は評価してきた。石川県は富山とは違い地場のコンサルで大きいところが数社ある。そんな中で頑張っている企業である。
 これからの人口減少・超高齢化社会においては、民間の活力を活用しないと、その自治体は消滅してしまう。民間の技術力と財力を公共事業にも投入してもらわないと生き残れない。中央や先進的自治体においてはすでにその動きがあるが、その時の信頼できるパートナーを複数選定していかなければならない。今はその準備期間のようなものだ。発注者は、そこのところを考えていただきたい。発注者側も勉強不足で情報不足である。地方でも同様で、今から備えるべきである。

(2)アイペック(http://www.ipec-com.jp
 次に、富山のアイペック。ここは、純粋なコンサルではなく非破壊検査会社である。そこから脱却しようとしているが、なかなか難しいようである。生い立ちが検査会社なのでまじめだがまじめすぎるところもある。こちらは点検業務を主体として、モニタリングシステムの開発なども行っている。一番良いところは多少無理なことを頼んでも、対応してくれるところである。
ここに新たな事業体としての在り方も見えるような気がする。最近YouTubeなどで宣伝を出している。
 評価Ⅲの橋梁の手当てがされているのは、10%程度である。なぜか?皆さんはお分かりだろう。できないのである。ではどうするのか?役所は責任として、最低限「監視」し危険な状態が把握できれば緊急に対処しなければならない。その時、いちいち人間が張り付いているわけにはいかないので、「モニタリングシステム」が重要となってくる。地方の業者が、これにいち早く目をつけて工夫してきているのはすごいことである。「できない何もしない」だと、笹子のようになると責任が発生する。そのことが皆さん分かっていないようだ。

(3)風景デザイン研究所(https://www.sldi.co.jp
 純粋なコンサルではないが、風景デザイン研究所というところ。ここは、今後のBIM/CIMに関して語るうえで重要だとおもう。社長が、まじめと言うか?融通が利か居ないというか?やりすぎてしまうので使い方が難しいかと思うが、波長が合えばバッチリやってくれる。社長の上田氏は、実は私のかつての部下。社員名簿に載ってはいたが顔を見たことが無かった。周りに聞くと、「アメリカに(出向)留学してます。」とのこと。「へえ」と思っていた。アメリカでは、CGやVRを本格的に勉強し、帰国後起業した。3DのCGやVRが得意である。したがって、かなり早い時期からBIM/CIMをやっている。意外と、上田君は、実は私と似ている。しかし彼は経営者で、私は経営センスが無いので今は、1人で、頼まれたことだけをやろうとしている。


 一時期、私も図面の3D化に関して研究していたことがあったので話を良くしていた。現在は、ゼネコンやコンサルの下請け的に仕事をしているが、なかなか、社長の性格から、もうかっているとまでは行っていないようだが、考え方は正しいと感じている。認めてくれる方々が居れば、大きく伸びると思う。まだまだ、日本ではグラフィック技術やBIM/CIMでさえ、かなり欧米に比べ遅れている。そのことが理解できていない人たちが多い。またできもしないのにやったこともない評論家の方々が、えらそうに言って、発展を阻害するのもこの国の悪いところである。現場、現実よりも机上論が優先されてしまう。
 この、BIM/CIMも建設事業においては、今後必至の技術である。様々な場面で活用できるのはもちろんであるが、そもそも、全ての物は3次元でできているが、なぜわざわざ2次元(平面)に置き換えた、モノを見ているのだろう。最近では図面が読めない者も増えている。私が現役のころから、図面の起こし方がわからないというプロたちが居た。なぜか?図面をCADのオペレーターに描かしていたからである。BIM/CIMの画像は、今後、教育や維持管理の場面で本領を発揮するだろうが、その、データ構築から運用において正しい判断が重要である。これについて行けるかである。

(4)評価と意見
 どの企業も、まじめに取り組むのはもちろんであるが、先進的事項に取り組んでいる。いずれも今後のキーワードとなる事柄である。社長や幹部の方の考え方が先進的なのだと思う。将来を見通し、稼ぐのに手っ取り早い設計と言われる作業や単なる点検だけではないことを手掛けている。点検ならば点検で、そこに付加価値を加えることを考えられないと、仕事と言うものは、じり貧になっていく。これは各社の、社長はじめ幹部の方々の考えによるものである。さらに、勉強意欲である。よく、社員教育とか技術の伝承とか言われるが、じゃあそのために何をやっているか?である。間違いや失敗は、誰にでもある。それをいかに是正できるかが問われる。真摯に向き合い、きちんと対応できれば信頼にもつながる。ごまかそうとするのが良くない。大手も中小も結局は担当者個人が重要であり、信頼できる人間が多ければ多いほど、その企業は評価が上がる。コンサルタント業は企業であるが、個人でもある。信頼できる個人は、その方の所属企業が変わっても個人として信頼できる。
 信頼できる企業が一番であり、その中の個人の技術者が重要である。どこどこの誰誰と言う評価が一番。コンサルは、企業であり個人であるということ。これは、そうなるのは地方のコンサルでも十分可能であると思う。いかに研鑽し経験を積むかが、土木技術者には必要である。本来は、いわゆる一匹狼的技術者が、世界的に見ればいてもよいのであるが、今の日本社会では無理である。特に公共事業の世界では、なかなか難しい。

 今の入札制度はそれを許さない。公平とか競争性という判断のもと、決まってくるわけであるが、実情は価格で決まってくる。「安かろう悪かろう」も当然のごとく出てくる。富山市では、評価制度を導入した。点数をつけるのはもちろん、コメントも書かせている。読むと面白い。「二度と一緒に仕事したくない。」と言うのが結構有ったり、点数は35点(100点満点)だったりする。35点は不合格である。これを今後公表していくようにしようと思う。自信満々な企業が居るからだ。(オット!また批判になってしまう)これは企業と言うよりも個人の問題なのかもしれない。
 なんでそういうことになるのかを考えていくと、やはりコストの問題が出てくる。ある程度余裕を作ってやらないと、人財も育てられない。研究開発もできない。官側も、民間の方々が、発展できるように、相談に乗ったり支援したりするくらいの度量は必要だと思う。
 現在は混迷の時代である。何が正解で何が間違いなのか、判断が非常に困難である。現在、「構造物の維持管理分野」は有望視されているが、世の中の実態が追随しておらず、結局は官の予算執行も遅れており、一事業としては成り立ってないのが現実である。実はコンサルが現場を知らないから問題なのではなく、予算の問題が大きい。
 近年、いわゆる「不調」が増加している。これは、業務内容と金額が合わない状況であるということだと思う。現場でも資材価格の増加や人員不足などにより厳しい状況である。入札契約時と現場の状況が違っておれば、増額工事として認めてもらえばよいのである。しかし、役所側が認めないという場合もある。私は、そもそも日本国内の公共工事の発注システムにおいて、最大の問題は「積算」の問題であると思う。かつて積算体系の一部を担当していたが、造るのは大変だし、なかなか事態と合わせられない。本来はもっと細かく見直しをかけなければならないができない。発注の問題と、積算の問題は、大昔から言われている。しかし、なかなか改定されない。これは何かあるのだろうか?世の中が変わってきているのにそれでは実態とかけ離れていってしまう。先進国でこんなことを未だにして居るのは、わが国だけではないか?高度成長期にはよかったかもしれないが、もっと実態に合ったものに変えていかないと、かえって大変である。
 コンサルタントとはそもそも「問題解決」と「雑用」である。「雑用」と言うとまた憤慨されるが、雑用は立派な仕事である。私は「国土交通省本省の雑用係」を自認してきた。コンサルは誠実であることが重要だ。課題解決のために、誠実に真摯に対応する。泥臭い地道な作業も必要だ。我々の世界では、さほど天才的な頭脳も、発想もいらない。基本的に単純なことをやっているのだ。だから私にもできた。科学技術的に言っても、普通の解明されている手法での対応だ。実証でき説明できる手法を使って課題を解決するこれが重要なのだ。
 そして、プライドは捨てることだ。自己満足ではなく如何に物事を実現するかなのだ。これには、地道な経験が必要なのだ。大学や院を出てすぐにできるものではない。恐らくそういう教育はされていないはず。我々は「実務家」なのである。

4.まとめ
 市が破綻するか? 橋を減らすか?

 年末に、「ミヤネ屋」のディレクターから電話があり、以前、NHKのクローズアップ現代での私の発言「橋を守るために、市が破綻するのか?市を守るために橋を減らすのか?」と言うことに関して、スタジオで激論したいので、取り上げてよいか?と言ってきたのでOKした。どんな激論になるのか?期待して視ていたが、激論にもならず、あっさりと終わった。橋本徹さん以外は、これと言った意見は無かった。自分に関連しない事柄は、コメントもしないほうが無難なんだろう。今は、何か気に障ることを発言すると、嫌がらせに合うから、本当の議論にはならない。「ミヤネ屋」には、「大激論には程遠かった。がっかりした。どうぞ、ご自分の身はご自分でお守りください。」とコメントしておいた。平日だったので、見た方は少ないだろう。一般の方も興味ない内容なのだろう。理解されないならば、あきらめるしかない。皆さん、もはや自分の身は自分で守るしかない。
 「無名碑」という小説がある。社会に出た時に、上司に読んでみろと言われた。「土木のこころ」という書籍も復刻された。国鉄の大御所 故:鬼頭誠氏の「我に私心なきや」という本も、いただき拝読したが、私も土木技術者の基本は、社会の縁の下の力持ちであるべきだと思う。最近の社会的風潮として、目立ちたいというのは、悪いことではないが、我々は政治家でもなければタレントでもない。政治家やタレントは自分を売り込むのが商売である。我々は実務家であるので、目立たなくても、地道に使命を実行するのが基本である。しかし、近年の傾向を見ると、発信していくことも重要であり、そういう活動に取り組んでいる方々もおり、素晴らしいと感じる。やはり、多くの方々の理解と、知名度を上げないことには勝負にはならないのかもしれない。この辺の役割分担さえ、うまくできればよいのである。土木の地道な世界にもヒーローが必要なのかもしれない。

 我が国では技術者の地位が低すぎる。医師や弁護士に比べ欧米とは違った評価である。医師会や弁護士会は自分たちの地位を上げよう。立場を守ろうという意識が見える。しかし、技術士会はどうだろうか? 地味である。だから人気が無いのか?技術立国と言いながらそれが無い。日本と言う小さい国で、資格を作りすぎなのではないか?だから、価値や地位が薄れてしまう。資格主義から実力主義に変えていかないと世界では勝負できない。性能設計なのか?仕様設計なのか?と同じではないか?いわゆる、点検のみなし資格だけで二百数十ある。その割に自治体での無資格業者による点検は30%から40%に上るそうである。発注者が勉強していないので、なんでもありなのだろう。
 役所だけでは何もできない。しかし、造る時代から管理していく時代へと新しい社会が変わっていく。人口減少、超高齢化社会へと移行し、日本創生会議の検討では、我が国の約1800ある自治体の約900が消滅可能性があるという。つまり半分しか残らない。残れないかもしれないのだ。自治体の皆さんも、それに携わる地方の建設業地場コンサルの皆さんも、思考を改めないと、頼りにしていた地元の役所がなくなってしまう時代が来るかもしれない。先日、夕張の状況が気になったので、北海道の知人に頼んで夕張の状況を見てきてもらった。ひどい状況だったようだ。結局、町が破綻すれば、住民は悲惨な暮らしになる。何とかしようとしても手遅れである。移れる人たちは良いが移れない人たちもいる。

 まあ、いつも好きなことを書いているが、私一人ではなにもできない。もう現役ではない。前期高齢者なので、年寄りのたわごとである。(次回は2月16日に掲載予定です)

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