道路構造物ジャーナルNET

第71回 トリアージ・インパクト

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.12.16

4.マネジメント戦略の考え方

 マネジメントを考えるうえで、不確定要素は多々ある。できるだけ分析し、実情に合ったものにしたいところではあるが、なかなか難しい。最大の要素はいろんな意味で「ヒト」である。これは分からない。以下はあくまで参考として載せる。あくまで私の考えと事例なので、もし使う場合には工夫が必要である。理解できずにそのまま使うと“劇薬”な部分もあるので注意してほしい。

まずは戦略を示す

 

【基本方針】
 新たな効率的な管理手法を導入し、段階的に効率化・高度化をはかるため新たな維持管理手法により、「持続可能な富山市」「インフラ・マネジメント」を実践する。さらに、職員の労力削減を目指す。さらに、職員のレベルアップを図る。「考えられる職員」を造る。
 これは、長い道のりと、これまでにない思考と覚悟が必要となる。戦略を持ち挑戦する。それが持続可能な富山市を可能とし、生き残る道である。

【事前準備】
 ① 最初にデータ分析(現状)
 ⇒橋や構造物の数、人口、予算レベル、職員の技術レベル、人間性、地理的要件、地形、地盤、
 ② 外的要因
 ⇒市民レベル、委託先のレベル、請負先のレベル、国交省(地整)・県のレベル、周辺市町村のレベル⇒過去の構造物は適正か?今後は是正できる可能性はあるか?
 ③ 将来の可能性
 ⇒新な仕組み受け入れられる土壌はあるか?
 ④ 近隣大学の調査
 ⇒土木教育の充実具合。実験設備の確認(これによって教育レベルがわかる)
  さらに、将来、協力してもらえそうな分野の確認(例:地質、構造試験 等)

【目標】
 ○限りある予算の中で、メリハリのある管理を行い、効率化をはかる ⇒橋梁トリアージ
 ○データの蓄積をはかり、より合理的なインフラ維持管理を実施する ⇒システム構築
 ○当面は過年度の橋梁点検で発見された損傷や今後の点検により発見された損傷について対策を行い、確実に「安全」なレベルを確保することを目指していく。(第三者被害防止)
 ○将来的には、「安全」なレベルの対策が進んでいく中で、対策コストや道路ネットワークによる市全体の経済活動や災害時の社会的影響などによる外部コストなどの視点、個別橋梁の健全性や体力(耐荷力、耐震性)などの視点を取り入れた維持管理に移行することで、「安心」の向上と管理コスト縮減を目指していく。
 ○中小橋梁に関しても点検を実施し、重要橋梁と中小橋梁とのメリハリのついた、新たな維持管理手法による試行を行いながら、橋梁維持管理手法の効率化・高度化をはかっていく。(新技術の試験フィールド提供と評価)
 ○信頼の出来る新技術の採用などによる徹底したコスト縮減や点検、を実施し効率化を図る。(同上)
 ○簡単な点検や清掃などの多くの場面での「市、利用者、大学、他機関」との連携・協働、民間活力の導入をはかっていく。「インフラ管理の総力戦体制」⇒しかし制限あり

 例:方策1:新たな委託発注形式(案)
 ① 地元単独
 ② 地元+大手
 ③ 現在の委託先以外の地元+大手 (例:検査会社、測量会社)
 ④ 国交省系財団+地元(例:土木研究センター+地元)
 ⑤ 大手単独
 ⑥ 点検会社(最近できつつある。)
 ※これはだいぶ整ってきた。しかし、職員が発注の際に悩んでいる。日経コンストラクションの毎年出るコンサルランキングを参考にするように指導。あとは、事後の評価との両輪で。

【課題等】
 ○構築には数年懸かる。まずは、仕様書に資格要件などの明確化。
 ○現在のまま実施していく方法もあるが、いつか破綻する、税金の無駄。
 ○「橋梁点検」「診断」に関して責任を明確にしていく必要がある
  ⇒今後の会計検査 等
 ○「診断」は、管理者が行うべきである。(コンサルに依存するな)
 ○先進事例の調査も必要であるが、全国、国ですら、どこも模索している状態
 ○いわゆる設計ミス等瑕疵問題に対する責任を明確にしていく必要性が有る
  ⇒賠償金(受注額を超える賠償金の事例あり)、現状は甘すぎ
 ○コンサルに依存しすぎ
  ⇒職員勉強しろ


橋梁トリアージという考え方

【実行施策】
 ⑤ 橋梁トリアージ(選択と集中)
 「技術的仕分け」「社会的仕分け」を総合し、順位付けを行う
 ⑥ 富山市橋梁データベース
 富山県のDBからの離脱。シュミュレーションを可能に。独自DBの構築とシュミュレーション
 ⑦ セカンドオピニオン
 点検精度等の再確認と精度アップ
 ⇒点検と診断の精度がその後の補修などのコストに関わる
 ⑧ マネジメントカンファレンス
 学識者による検討会。職員の負担軽減(決定資料)
 ⇒第三者による評価をつけることで説得力を
 ⑨ 積極的フィールド提供
 新技術・工法などの実証の場の提供
 ⇒新技術の開発と導入
 ⑩ 研究協力協定
 大学、研究機関、民間企業との研究協力協定の締結
 ⇒総力戦
 ※注意しなければならないのは、あくまで研究者は研究者
 ⑪ 職員教育「植野塾」
 インハウスエンジニアの教育。考える職員、マネジメント思考 等 毎月1回の実施
 ⑫ 補修オリンピック
 補修工法の標準化へ向けた評価のための試験施工の実施
 ⇒実装のための試行
 ⑬ 難易度による発注
 構造物の難易度によりコンサル等の選別
 ⇒信頼性の確保


セカンドオピニオンは大切

【今後の検討課題】
 ① 包括的管理、PPP/PFI
 ② 架け替えのマネジメント
 ③ 補修方法の(富山市)標準化⇒伸縮装置から始めたが、同意を得られず中断

【新たな効率的管理手法】
 ○点検等の新たな委託発注形式の設定
 ⇒例:難易度に応じた委託、橋梁専業者への点検発注
 ○注目すべき損傷の絞込みと継続的な点検(モニタリング)
 ⇒ASR
 ○点検と診断の役割と責務を明確に分離し実施
 ⇒業者と職員、カンファレンス委員会の創設
 ○寿命に関わる損傷と技術基準の充足度から健全度を評価(健全性と体力)
 ○コスト縮減を目指した中長期的な視点での事業計画の立案
 ○新設・更新時にはメンテナンスを考慮した設計の実行
 ○施工時の品質管理、完成検査の徹底
 ⇒鬼の検査官
 ○構造ディテールおよび付属物の標準化とその採用
 ⇒、水切り、伸縮、高欄 等
 ○補修、補強工法の標準化 ⇒補修、補強設計の可能な限りのパターン化
 ○PPP、NPM、包括的維持管理 等新たな仕組みの検討
 ○モニタリング技術や点検ロボットの的確な採用、導入
 ○補修新技術の適正な判断と採用
 〇新技術の活用促進
 ⇒民間の実証不足 仮称「補修オリンピック」の開催
  ・実証の場と実績の提供
  ・公募にて実施、評価メンバーは、金沢大、金工大、石川高専、長岡高専等 北陸SIPと植野
 ○富山県立大学、富山大、金沢大学、金沢工大、京都大学 等の協力
 ⇒“挨拶”として、各大学に行き、実験設備を見て実力と教育の充実を把握。
 〇富山の地元コンサル
 ⇒評価制度の創設。
 〇「技術の継承」というけれど
 ⇒そもそも、継承するような技術は何があるのか?
 〇職員ヒアリングから「何が大変なのか?」
 ⇒発注業務とのこと。
 ⇒将来の包括化へ向けて

5.まとめ
 戦略的に「危機感」を植え付ける

 東日本大震災の発生後、物が不足していた。水、電池、ろうそく、食料………。しかし支援物資は遠くの友人達が送ってくれた。包帯や熱さまシートまでも届いた。宅急便屋さんが「お宅は何なんですか?」といぶかしがる。「遠くの親戚よりも、近くの他人」とよく言われるが、実は「近くの親戚よりも、遠くの友人」が頼りになる。実際の災害時には、地元の団結は重要だが、周辺の支援がさらに重要であり、被災していない余裕のある所が頼りになる。一番困ったのが、何かといえば車のガソリンであった。ガソリンが入ってこなかった。

 そして、前述の構想を、赴任前に行いこれを携えて、乗り込んだ。しばらくは、様子を見ていた。(半年間)そして、橋梁のマネジメントを実施していくにあたり、当初に「トリアージ」と言った。これは、戦略的に言ったのであって、無理してやるものではない。実施者でない方々の批判の的になり、評論家の「住民との対話、同意、説明責任・・・」などとのギャップから、批判を受けたが、そんなのは百も承知で、戦略的に「危機感」を植え付けたかったのである。老朽化対策はこれまでの作る時代の話ではなく、縮小社会の構図である。これまで道路や橋を作って喜ばれていた技術者も、橋を撤去して嫌われる時代に突入していく。嫌われる覚悟が無くて何ができるだろうか?富山市は、私のいる間に、嫌われる仕事はどんどん、「植野のせい」にすればよかった。今後、インフラ・マネジメントに関しては待った無の佳境に入っていく。生半可の覚悟では対応できないだろう。社会的風潮の「協働」で乗り切れるのか?お手並み拝見と行こう。私はもう引退の歳である。

 「人材が育ってない。いない」と言う。では今まではいたのか? 「人材の育成と言う」これも、今までになにか、やってきたのか? 「技術の伝承」ともよく言われる。伝承するような技術はあったのか? 「OJT」教育ともよく聞く、それで本当に人が育ったのか?  実行者は、戦略を立て、いちいち細かい説明はしないで、黙ってやっていくもんだ。

 今回書いたことは、無策よりはましであろう。最近、昔、爺さんから仕込まれた、兵法、戦略と言うのを勉強し直しているが、これは用法であり、肝心なのは使う人間である。昔から、形は変われど人は、様々なものと対応する方策を考えてきている。考えないのが一番悪い。障壁になるのは「ヒト」である。必ず反対意見は出てくる。そんなことを恐れてどうするのか?嫌われればよいだけである。
 先日、いよいよ65歳になった、そろそろ引退の年である。あとは後進に譲り、お手並み拝見と行こう。思ったように進まなかったのは残念だがインパクトは残せたと感じている。最近、疲労感が増している。どうも調子が悪いので、病院へ行ったら、「植野さん、歳の割に少し動きすぎではないですか?  ゆったり過ごしたらどうですか?」と注意された。それもそうだ! また、「世捨て人」生活にまた戻ろう。(次回は2021年1月16日に掲載予定です)

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