道路構造物ジャーナルNET

第70回 長寿命化計画とマネジメント

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.11.16

3.新技術の導入をどうするか?

「道路メンテナンス事業補助制度における優先支援」で、新技術の導入をしていれば優先的な交付金が得られるということに対する過剰反応が現在起きているようである。「新技術・新技術」と大変だ! 新技術は使えるところに使えばよいし、それによるリスクもあることを忘れてはならない。新技術の導入には、使う側の能力も問われることを重々考えなければならない。
 ここでは「無理に導入しようとしている」ということが最大の問題であろう。勝手な判断解釈によって、何が何でも新技術を使わなければならないとなると、インフラ・メンテナンスも新技術の導入も、本来の道からどんどん離れていってしまう。まったく、お笑いものである。
 目的のない新技術の導入は無駄であり、価値がない。何のためにやるのか? 考えられないと意味がない。「新技術を導入すればコスト縮減になる」は妄想である。常識的に考えれば新技術を導入すればコスト高になるはず。これは昔から言われているが、どうしたらそういう考えになるのか? 私には理解できない。
 確かに人工は削減できるかもしれないし、足場や仮設設備なども縮減できるかもしれない。しかし、本当に安価で新技術が使えるのか? 新技術の開発費はどこで回収していくのか?
 目的もなしに新技術の導入は、するべきでない。明確な目的があってこそ技術は生きる。目的もないまま、新技術と言われるものを使おうとするのは、大きな間違いである。何か使っておけばよいというのもよくない。
 例えば、私は「ドローン」は新技術ではないと思っている。これは、カメラをその場所にもっていく手法である。近接目視を行おうとする場合に、人が行くのか、カメラが行くのか? カメラだけ行けば必ずその分点検精度が劣ると考えるのが普通であるが、それを補完できるメリットがあるから使うのである。その運用法と結果の利用を考えたうえでの活用ならば、使う価値はある。手法と技術は本来違う。撮った画像を見て、きちんと判断できる能力が管理者にあることが求められるということである。さらに判断がつきにくければ、再度、現場に行く手間も必要となる。ドローンでスクリーニングを行い、疑わしいところは、確認するという手法は非常に効率的である。
 つまり、「何を使うか?」というかよりも「どう使うか?」という、運用の方法、考えが重要なのであるが、日本人の苦手なところかもしれない。結局は「ヒト」の問題なのである。
 例えば、BIM/CIMの議論もされているところではあるが、「どこまで表現するか?」「どう活用するのか?」の議論が薄い。BIM/CIMも運用目的を明確にすることによりデータ構成や、造り方も変わってくると考えられる。
 図-2・3は、8年前に作成した八田橋架け替え工事でのBIM/CIM画像であるが、施工途中の運用、その後の運用が途切れてしまっている。これは業者と職員の考慮不足、理解不足によるところが大きく、宝の持ち腐れである。私の構想では、将来の維持管理や職員教育に使用していく予定であったのだが!


図-2・3 8年前に作成した八田橋のBIM/CIM画像(設計時)

3次元データの一元化

 DXの本質は、デジタルデータの継承にある。それが、理解不足の者のために途切れてしまう。そういうことはこれまでも多々あった。せっかく開発したものも、使い切っていない状態になってしまい、結局は無駄遣いになってしまう。
 いま議論されている新技術の導入もそうならないことを願う。結局は、使う側の認識なのである。

4.まとめ

 最近また、「トリアージ」に関しても聞かれることが多い。「うまく行っているか?」「実際に何橋減らしたか?」「その時、住民の反応は? どう説得したのか?」……など。
 私にすれば、「やっと気づいたか?」である。多くの自治体では減らさなければ生き残れない。しかし、そういう議論は少ない。誤解もある。これもある意味、新技術と同様で、考えないやつには理解できないであろう。教えてもらってできるものではないので、私のトリアージ戦略について、次回にでも述べる。
 今回の話では、とにかく考えることが重要だということである。新技術を導入するということは、導入する側にリスクがあることを考えているか? である。ただ使えばよいということではない。運用にも考えが必要である。私の経験では、日本人はそういうことが非常に苦手であり、これができる人間は限られる。これは、教えてできるものではない。「知見に基づく感性」である。ある程度の知識と経験そして感性が重要なのである。これすらわからない方々が多い。

 同じものを見ても、感じ方はさまざまである。どう感じるかが重要であるが、新技術という話となると、使えるか使えないか? どう使うか? どう判断するか? と考えていかなければならない。また、新技術はある意味「投資」であると考える。失敗すれば損をする。無駄になるというリスクがあるが、それを承知で使えるかどうか? である。
 最近、空き時間に、幼いころから学んできた、武術や戦略に関する書籍を読み直している。実は戦略を理解し感じ取るために、様々な武術を学んできたのであるが、どうも、我が国は個々に関する流派は数多く存在し、様々なものがあるが、組織としての戦略に関する資料は少ない。やはり戦略は孫子、六韜三略、三十六計等が体系的にまとめられている。
 これらの戦略といわれるものは、様々な奇抜な手法も記されているが、「自然の道理に従って考える」ということが重要だということであると考えている。状況は変化し、周辺の環境や状態も様々であり、最大の不可解なものは人間であることから状況に合わせて、考えて動きながら軌道修正していく必要がある。社会的にはマニュアルに頼る傾向にあるが、マニュアルに頼っていたのでは臨機応変な対応は難しく、イレギュラーな事象には対応できないであろう。そもそもが相手(人間)の心理に対する対処法である。
 だからすべてにおいて「考える」ことが重要なのである。そういう人材は大事にして育てたいと常に考えている。結局はすべて「ヒト」の問題であり、新技術を使うか使わないかではなく、「あなたのところに、それなりのヒトはいますか?」(首長も含めて)が重要なところだと思う。
(次回は12月16日に掲載予定です)

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