道路構造物ジャーナルNET

第69回 『新技術』への過剰反応

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.10.16

3.気になるところ インフラメンテにおいて新技術で何が活用できるか?

 DX関係も新技術と言えるだろう。我々建設の世界においてDXと言われてもなかなかぴんと来ない。かつて、i-conと言われた自動化施工や3D化もそうだと思うが、実際にはBIM/CIMに関しても言葉ではよく言われているが、活用をどうするかのほうが、使う側にとっては重要なのだが、そういう話が聞こえてこない。
 現在の新技術といわれるもので、多くのものは、調査というか点検の部分である。ドローンもそうだし、点検ロボットと言われるものもそうである。これらは人間が行けない場所へ行ったり、作業の効率化が図れる。レーザースキャナーなどもそうであり、電磁波レーダーなども使われだした。個人的には、ひび割れ損傷図を描いているよりもレーザースキャーナーの画像のほうが確実であると思う。
 そもそも何のために、「ひび割れ損傷図を描くのか?」「(点検を)やった気がするからだろう」とよく言うのだが、0.2mmのひび割れは気にして、一生懸命拾う。その中で見つかった10~20mmのひび割れの対処を放置している。本末転倒である。本来は、そこで検証が必要なのだが、黙っていると、そのまま放置。訳の分からないひび割れは皆、「ASR!」……これではね!
 富山市管理橋梁は約2,200橋であり、年間400橋以上の点検が行われている。しかし、これまでほとんど、点検者から詳細調査の提言はなかった。最近やっと出てきた。現行の点検マニュアルでは、表面しか見れない。定期点検レベルではそれでよいと思うが、「疑問を持つ」ということが抜けている。そのままでは事故を起こす可能性がある。なぜ、詳細調査の提案が今までなかったか? というと理由は分かっている。
 調査しているコンサルに非破壊検査の知識が無いからである。一番簡単なよく使いそうな、鉄筋探査機器であるが、最近はある程度の企業は持っているようだが簡単には使えなかった。機材の値段が高いというのもあった。しかし、最近では結構使っている。これだって立派な新技術である。今まで見られなかったものが見られるわけである。そういう発想もない。しかし、ひび割れの状況を見て鉄筋量不足を疑い、「鉄筋は?」と聞くとみていない。沓座コンクリートが欠けて落下した橋の橋脚の鉄筋なんて、予想通り鉄筋が入ってなかった。それで補強に苦労した。ここでまた課題、設計施工どおり、できているとは限らないということである。
 BIM/CIMに関しては、その使う場面の設定が重要である。実は富山でも失敗しているが、せっかく設計時にCIMデーターを作成しても、その後工程に生きていかなかった。デジタルデータの最大の利点はデータが活用できることにある。これは、官側も納品時の電子データをどう扱うか? という課題も含め、考えていく必要がある。
 そして一番遅れているのは、本来の維持管理の本丸である、補修材料の工法に関してである。現在どこにおいてもその評価ができていない。例えば非常に難しいが、ASRについてある程度の期間有効な補修材料は補修工法は何なのか? どの程度再劣化を抑制できるのか? 今後、間もなく訪れる「大更新時代」に向けて、撤去方法や再構築の新たな手法の検討などは準備できているのか? という問題である。

4.まとめ

 最近首都圏で大きな地震もあったし、水管橋の落橋もあった。インフラへの意識がまた少し高まったのだろうか?
 そもそも、維持管理とは、設計・施工時よりも方程式が複雑になっているはずである。未知数Xの数も増え、次元も上がっているはずであるが、その議論もない。点検し、ひび割れがあるのはだれでも分かる。見ればわかる。しかし、真相は分からない。
 先日、打ち合わせをしていて気になったのが、設計した“はず”のコンサルが、詳細がわかっていない。カタログ値で話をしている。カタログ値はそれでよいのだが、じゃあ、技術者としてこれまでの知見から、どれがどうだという判断が無い。本来はそれが設計であろう。机上論なのである。机上論は土木の世界ではあまり価値が無い。机上論では、カタログ値に無い部分が理解できない。
 人それぞれ目指すものは違うだろう。しかし、土木の世界では、実際に物を作らなければならない。そして管理していかなければならない。管理していればいろいろ問題が発生する。私が最近感じているのは、果たして高度成長期に、設計は間違っていなかったのか? 施工は正しくされたのだろうか? ということである。割り引いて考えていかねばならないのではないだろうか?
 現在あまりできていないが、3次元解析などを、もっとやっていく必要がある。手間を考えると、新技術同様検証して必要かどうか判断すべきだが、本来は必要だと考えている。職員はもちろんコンサルさんもこの辺は考えていない。CAE(Computer Aided Engineering)というものがある。本来はCADと対になるものである。昔は実験等に頼っていたものを計算機上で解析し答えを導きだす手法である。日本ではあまり聞かない。

3次元解析

 維持管理は奥が深い。そして十分な知見が必要となる。まずは造るところが理解できていないと維持管理は無理であろう。そして最近は、非破壊検査。これは、新技術と言われだしてやっと来たか? と感じている。そして、モニタリング技術、補修方法と生半可な経験では対処できない。しかし結構自信満々にやってはいるが、少し突っ込むと黙ってしまう。コンサルの言うことを鵜呑みにしてしまう職員……、我が国の建設システムが崩壊しそうである。私は一番の原因はコンサルを便利屋として使いすぎているのが問題だと思う。なんでも頼って、適正なフィーを払わない。新技術の導入に夢中になり安易にコンサルを使うとこういうことになり、かえってコストがかさみ、しかも中身がわからないから、次が無い。

 管理者は、うまくあしらうのが得意である。適当に急場をしのぎ、検証ができない。新技術の価値を見抜く目を持たなければならない。自ら感性を磨き学ばなければならない。維持管理の世界では、「新たな業態」も必要なのではないかと考えている。世界的に見ればコンサルタントなのだが、今の我が国では無理である。(次回は11月16日に掲載予定です)

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