道路構造物ジャーナルNET

第69回 『新技術』への過剰反応

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.10.16

1.はじめに

 前回、「伸縮継ぎ手の標準化」に関して書いた真意をお分かりだろうか?
 最近、自治体の維持管理の発注者は、「新技術、新技術」と頭を悩ませているのではないだろうか? そして、これにコンサルさんも応えなければならない。で、例えば無理やりドローンを使う、AIを使う(AIの完成度には疑問があるが)となってくる。そこで、例えば、伸縮装置をどう考えるか? という事例を示したのである。新技術の導入には明確な意思表示と導入プロセス、そして検証が重要である。その例として、一見、新技術にもインフラのメンテナンスにも関係のないような、私の考えた思考のプロセスというか思考法を示したのである。皆さん、標準化と言うと馬鹿にするが、標準化もできないようでは、新技術の発想などできない。

2.新技術、新技術......

 最近、相談があったのが、来年度の交付金の申請にあたり、「新技術・新技術」と大変だ、ということ。「道路メンテナンス事業補助制度における優先支援」で、新技術の導入をしていれば優先的な交付金が得られるということに対する過剰反応である。
 話を聞くと、「無理に導入しようとしている」ということが最大の問題であろう。私は、実は本省の社会資本整備審議会の下のインフラメンテナンスに関する新技術導入WGのオブザーバーなのだが、誰からも正式な質問はない。しかし、世の中では困っているようだ。普通、困っていれば、わかっている人間に聞くのが、最も効率的である。委員会のメンバーは、国土交通省のHPを見れば出ている。

トンネル坑口の20mmのひび割れにモニタリングを。設置位置も問題/同様に擁壁の亀裂にモニタリングを

 しかし、勝手な判断解釈によって、何が何でも新技術を使わなければならないとなると、本末転倒な状況である。こういうことでは、インフラ・メンテナンスも新技術の導入も、本来の道からどんどん離れていってしまう。まったく、お笑いものである。
 前回、「インフラメンテナンス時代における伸縮装置」について書いたが、実はこれを見越してのことである。皆さん、標準化と言うと馬鹿にしているが、標準化の考え無くして新技術などありえない。
 物事を試行するプロセスであり、発想⇒情報整理⇒思考⇒試行⇒検証という一連の流れが新技術開発には必要である。誰も開発しろと言っているのではなく、使うにあたってはせめて目的の明確化と検証ぐらいは必要である。まあ、これは、理解できない方々にいくら話しても無駄であるので、「導入」だけに絞って話をすると、
 ①目的もなしに新技術の導入はできない。
 ②「新技術を導入すればコスト縮減になる」は妄想である。
 ③新技術を導入するには、最悪失敗する可能性もあるが覚悟はあるか?
ということになる。

①目的もなしに新技術の導入はできない。(するべきでない)

 何のために、その技術を導入するのか? 使う側のほうが理解できていないと、成果は出ない。これが今言われないから、何にでも使おうとする。自分たちの目的は何なのか? である。大学の先生や新技術を開発している方々にとっては、価値があるのかもしれないが、管理者としてはどうなのか? たとえば、まだそこまでは行っていないだろうが、「モニタリングシステム」を活用しようとしたときに、何が目的なのか? 何を計測したいのかは管理者側で決めないと。

高度な、光ファァイバーによる/測定目的を明確に。直線変位計

富山市 補修オリンピック

 また、よく「しきい値」という言葉が使われるが、しきい値とは何なのか? どういう数字なのか? 理解しているのか疑問である。設計上の数値なのか? 個別の構造物の現状の管理目標なのか? 解析もしてみないで、言っている場合が多い。目的のないモニタリングは無意味である。
 今管理しようとしているものに設計値を当てはめてよいのか? という問題もある。設計が正しかったのか? 施工はどうだったか? 材料は? 設計時の物理定数が現在も活きているのか? コンクリートの強度は、低下していないのか? 周辺の状況はどうなのか?……これらの判断無くして安易に設置しているのではないか? 設置することが目的になってしまっていないか?
 モニタリングだけではなく、インフラ・メンテナンス全体に言える「インフラの長寿命化」「予防保全」とよく皆さん語るが、確かに言っていることは正しい。しかしそれが本当に自分たちの目的なのか? である。私はそこが一番の疑問である。目的によって戦略も戦術も変わってくる。

②「新技術を導入すればコスト縮減になる」

 本当だろうか? 私は30代のころから様々な新技術開発、新技術の委員会などに参画してきたが、美しい言葉として「コスト縮減になる」ということをよく聞く。しかし、実際に導入するとコストが上がってしまうという苦情をよく聞く。実はこれは当たり前なのである。本来は評価手法を変えなければならないところを現行の状況で判断するからである。具体的に言うと、積算や歩掛といった厄介な問題もある。それがうまく人工の縮減で表現できれば良いのだがなかなかうまく行かない。しかし、人工を削減できるというのは一つの価値である。これをうまく表現する手法が必要である。
 よく質問を受けた時に、たとえる例として「ジェネリック医薬品」がある、なぜか? ジェネリック医薬品は安いのか? 新規開発の新薬ではなく、物まねだからである。通常の社会では、新規開発した技術などに関してはコストが上がるのが普通である。開発費が評価されるわけであるので、私はこれは正しい世界だと思う。では、なぜ土木技術に関してはそう言わないのか? 開発費はどこで回収するのか? 「新技術を導入するのでコストは上がるが、手間が省け精度が上がる」と言うのがまっとうな世界ではないのだろうか? そうでないと、頑張って開発しようとする者がいなくなる。ある意味、今の日本がそういう世界になってしまっている。

③新技術を導入するには、最悪失敗する可能性もあるが覚悟はあるか?

 新技術を導入した場合、十分、県と市きちんとやったが失敗することがあるというのが正常な判断だと思う。人間の歴史は失敗の連続で発展してきている。インフラだってそうである。その時の覚悟ができているかということである。どうも見ていると適当に隠蔽して終わりというのが公共事業の悪いところである。別にわざわざ公表しろと言うのではない。次の処理をどうするか? そして落ち着いたら公表し社会のために役立てることはできるか? が重要である。
 新技術の適用は、ある意味「将来への投資」であると考えている。きれいごとで済ませるのではなく、失敗したら、どう対処するか? が価値となる。失敗しても、それが将来価値になれば投資は成功したことになる。
 こういったことができてはじめて、新技術を導入すべきである。そして何よりも、橋梁ならば橋梁のことをどこまでわかっているかということが重要である。
 富山市では、研究機関や民間企業などと協定を締結しフィールドを提供し様々な実証試験を実施してきている(現在も行っている)。現在は15団体ほどになっている。実はこれはなぜ行っているかというと、職員教育という目的が大きい。職員教育というよりも新技術に対する、アレルギーを無くすための方策なのである。お分かりだろうか。来るべき今を目指して8年前からやってきた。問題は職員がわかっているかが最大の問題である。今さら点検するコンサルに聞いてもよいものは出てこない。彼らはそこまでアンテナが高くはない。何か言うと「カタログ値」しか出てこない。
 カタログ値は誰でも調べられる。小学生でも調べられる。前回伸縮装置でも書いたが、たたえば伸縮装置を決定するときにカタログ値はいらないのである。実際にどうか? なのである。よく比較表を作って満足しているが、それでは、新技術は出てこない。

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