1.はじめに
前回、「伸縮継ぎ手の標準化」に関して少し書いたが、何人かの方にご意見をもらった。その中で、考え方のフロー図の左下の写真で、あれは、ダメな伸縮の例ではなく良い伸縮の例です。一部誤解を招いたようで申し訳ない。あの、伸縮の写真の企業には職員を連れて工場を見させていただき、止水性の試験の様子も見せてもらっている。協力的な企業である。
そもそもであるが、ここに書いている内容は、低級な内容になっているのは申し訳ないが、高度な内容は論文や他の方々に譲り、何か考えようという入門編にしている。自分で、経験・実行したことを書いて皆様の参考にしていただきたい。「教科書」ではない。当然反面教師の部分もある。違う考えをお持ちならば、どうぞ自分の考えでやっていただきたいと思う。それがインフラ老朽化において、今後の全体の発展につながる。「厳しく書いている」と言われるが、なかなか本音は書きづらい。この国がそういう国になってしまっている。徐々にきつく、もっと本音を書いていきたいと考えている。
伸縮装置の詳しい内容に関しては、後日、さらにまとめたものを公開したいと考えており、協力いただいている業者さんとも話している。
2.そもそも
伸縮装置は橋梁付属物であり、意外と真剣に考えていない。私が社会に出たころは、鋼橋であれば、工場での製作鋼製フィンガージョイント(伸縮装置)が主流であった。ペイペイのころは、伸縮装置の図面ばかり毎日、描かされて嫌になった。当時、図面は手書きだったので、伸縮の図面と床版の図面から、描かされる。しかし、これも構造を理解させるための上司の恩情だと思う。
従来の鋼製フィンガージョイント(工場製作) ASRが懸念される場合は赤丸部分からの漏水にも注意!
この製作伸縮装置は、構造が複雑で、細かい部品が多く、溶接量も多く各社悩みの種であり、大手企業では採算性から伸縮装置を専門工場に外注していた。伸縮装置のように構造が複雑で溶接量の多い構造物は、どうしても人工が上がってしまい、コスト高になる。構造の単純化を行い、部品数を減らし溶接量を少なくする工夫が必要である。そのような中、コンクリート系の比較的伸縮量の少ない橋梁などから既製品の伸縮装置が採用されるようになり、その既製品伸縮装置の製品化の歴史は、おおむね下記のとおりである。
1960年ごろ それまで輸入品を使っていたが、横浜ゴムがセルタイプの製品を発表
1970年ごろ ショーボンド建設が突合せタイプの製品を発表
1985年ごろ ニッタが表面ゴム製の製品を発表
これらが日本の既製品の伸縮装置の老舗といえるところである。そして、2000年ごろからは新規参入も進み、複数のメーカーがさまざまな形状の製品を発表している。
(左写真)日之出水道機器 鋳鉄製伸縮装置/(右写真)橋梁メンテンナス 伸縮装置
実は私は、この伸縮装置の「標準化」の取り組みをこれまでの経験の中で、3度実行してきているが、いずれも世に出ていない。
【1回目】メーカー時代に、将来は既製品に置き換わっていくことは十分予想していたが、製作伸縮装置の標準化をシステム化と合わせて、メーカー数社と研究会を作って検討していたことがある。1980年代の終わりくらいだと思う。合宿なども行い、同年代の各企業の精鋭技術者達と検討した。
これはあくまで、将来の「製作自動化」をにらんだ検討であり、機能を有しつつ構造の単純化などを検討した。実際にこれは評価されなかったが、研究会での勉強はかなり役立った。これが1回目の標準化の失敗である。
【2回目】JICEにいた時。当時の私の担当は、国の標準設計と自動設計システムのお守り、構造物関連の基準類等であった。そこで、平成8年度に鋼橋の積算体系の大改訂を行った。構造の単純化を促進し、積算体系を大幅に見直した。鋼重最小主義から人工最小主義を採用した。これの評価も様々なことが言われたが、全体的には、鋼橋のコストを約10%縮減した。
そして皆さんお気づきかどうか? であるが、橋体の剛性をアップし構造の単純化を狙い、来るべき維持管理の時代を目指したのであるが、そこまで理解はされていないであろう。例えばドローンやロボットによる点検なども容易にしようという考えもあった。実はそこまで考慮していたのである。これを公表するまでには数年間の検討を必要とした。
この後に、付属物も標準化しコストを下げようということで、伸縮装置、高欄、検査路に関して、本省の国道課(当時)と検討を行った。途中、高欄に関してはすでに既製品のアルミ高欄への移行が進んでいたため伸縮と検査路を行った。しかし、これも最終的に世に出なかった(検査路も、今後は直轄も必要という見解があった)。
【3回目】富山市に赴任して、自治体の負担を軽減しようと思い、行ったのだが、これもまた認められなかった。3度目の失敗である。個人的にはまだまだ修行中の身であるが、やはり皆さんの思考とは違うようだ。
世の中が進み、技術がすたれていくときに、最終的な目的地はAIなどに代表されるロボット化、自動化である。これを実現するためには、徹底的な合理化の思想とディテールの単純化・標準化が必要となる。これには、デザインなどが専門の方々には反論もあるだろうし理解もできないであろう。しかし、自動車の製造などを見てもらえばわかる。私にとっては因縁の検討である。しかし、皆さんの理解は得られ難いのが残念である。そもそも、真剣に考えているのか?