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-分かっていますか?何が問題なのか-
第59回「建造物の景観と色彩設計 ‐誰でも色は変えられるが、色を変えた責任は重い‐」

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2021.09.01

隅田川主要橋梁の定着していた色彩の変更

2.3隅田川主要橋梁の定着していた色彩の変更
 今回、隅田川主要橋梁色彩変更の基本理念は、公表された資料を見ると「地域の歴史・風土を活かし、橋の品格や個性が感じられる色彩とする」とのことである。この理念に基づく色彩変更基本方針は、①橋ごとの個性を活かした色彩、➁地域に慣れ親しまれている色彩、③地域の歴史、風土を活かした色彩、④品格ある落ち着いた色彩、⑤橋の歴史を未来に伝えていく色彩の5点である。私が関わった、30年以上も前に検討、実施した隅田川著名橋整備事業における色彩変更の基本理念も、ほぼ同様である。対象橋梁は同じ、取り巻く環境も同じ、理念が異なるなら分かるが、これもほぼ同じ、であるから基本方針等が当然同じ結論となって当たり前である。

それではここで、具体的に主要橋梁の色彩変更についてポイントを示す。
(1)白鬚橋
 白鬚橋は、主構造の色彩は従来色とし、高欄、歩車道境界柵、橋梁灯はグレイッシュ・グリーンに変更している。

(2)吾妻橋
吾妻橋は、主構造は従来の色彩である赤系を基本とし、彩度を落としたディープ・イエローウィッシュ・レッド(弁柄色)色、上路アーチを際立たせるために高欄には連続性を求め、レディッシュ・ブラウン色に変更している。また、橋梁灯や歩車道横境界の横断抑止柵は、周囲の景観と一体となるように配慮し、グレイ系のオリーブ・グレイ色に変更している。

(3)駒形橋
 駒形橋は、図‐7に示すように主構造物(中央径間及び側径間)は、従来から住民に馴染みのある青系の色彩を周辺環境との調和を考え変更はしないが、落ち着きを求め若干彩度・明度を落としたダル・ブルー色に変更し、高欄と横断抑止柵は、テラスとの一体感、視覚的な統一感を求めグレイ系のライト・ブルッシュ・グレー色、橋梁灯はブルッシュ・グレー色に変更している。

(4)厩橋
 厩橋は、図‐8に示すように主構造と主構造に添架している橋梁灯は周辺環境と一体感のある従来のグリーン系の色彩を基本とし、周辺の建造物と適度なコントラストを求めたグレイッシュ・グリーン色に変更している。厩橋の高欄及び横断抑止柵もこれまで紹介した橋梁と同様に、連続性を持たせ、ライト・グレイッシュ・グレー色に変更している。

(5)蔵前橋
 蔵前橋は、これまでの色彩であるイエロー系を基本としているが、光沢があり色彩が明度・彩度が強すぎるとの意見が多かったとのことから、蔵前橋の品格を重視し、図‐9に示すようにダル・レディッシュ・イエロー色に変更している。高欄及び横断抑止柵は、架設当時の色彩を考慮し、主構造と同系色のイエロー・ウィッシュ・グレー色、照明灯は、オリーブ・グレイ色に変更することで、周辺環境との調和と上路アーチ蔵前橋全体の統一感を求めたとのことである。
 しかし、隅田川著名橋整備事業、東京都著名橋整備事業に関わった私としては、蔵前橋に採用した従来の色彩について、色味を抑えた色調としているはずなのに、それを品格が無いとの評価には驚きである。それでは、そもそも橋に求められる品格とはどのような定義なのかを教えて頂きたい。

(6)清州橋、永代橋、勝鬨橋
 日本国重要文化財となった3橋は、先述の隅田川著名橋整備事業において、清州橋は「縹色」、永代橋は「あおふじいろ」、勝鬨橋は「しろねずみいろ」に塗り替えられ、その後も同色に塗り替え、既に変更採用色が都民や利用者等に認められていることなどから、大きな変更は行わないとしている。

 ここで、読者に問いたい、ここまで説明した2020東京オリンピックを迎えての隅田川主要橋梁の色彩変更は、本当に良かったのであろうか?

 私としては、2020東京オリンピックを迎えて色彩変更をしたいとの考えが出ることは理解できる。しかし、建造物の色彩は周囲に与える影響は大きく、隅田川著名橋整備時に検討した過程や内容、結果を正しく評価したのであろうか? さらに、それまでして今回変更した色彩は、都民や利用者、観光客にインパクトを与えることが出来たのであろうか。隅田川の主要橋梁を対象に、敢えて色彩変更を行ったことを一般の人や利用者、水上バスの乗客の目にはどのように映ったのであろうか?
 私が現状を何度か見て考えるに、色彩を変更したインパクトはほとんど無く、費用対効果から考えても無駄な投資を行ったと思えてならない。また、私の多くの知人(水上バスで良く遊覧する)に聞くと、今回行った吾妻橋から永代橋までの色彩変更に全く気が付いていないようであった。

 先にも触れたように、昭和50年代までの隅田川主要橋梁に採用していた色彩は、震災復興事業当初の色彩か、若しくは周辺住民等からの要望を受け個別に色彩変更を行っていた。震災復興事業等の主要橋梁は、特徴ある個別の構造採用については好評であったが、色彩に関する評価は、色彩の流れが感じられず、異物として映る添架物(電気、ガス、水道等)の色彩や形状が景観を損ね、マイナス評価が多かったのが当時である。昭和年代末の、江戸時代からの市民に愛されていた大川・隅田川に戻そうとの社会の流れを受け、隅田川の浄化を急速に進め、水辺空間を楽しめる空間づくり、歩行者や周辺住民等のモニュメントづくりがコンセプトとなって、隅田川著名橋整備事業を提案し、事業化した。

 特に事業で行った主要橋梁の色彩変更は、この機会を逃すと大きな変更は不可能と不退転の決意で理論構築し、一時期に集中して行った。隅田川及び東京都著名橋整備事業自体には、「芸者の厚化粧のようだ」他、確かに種々な問題もあり、多くの景観や橋梁の専門技術者から厳しい指摘を数多く受けた。しかし、昭和の末から平成の始めにかけて行った著名橋整備事業自体は、世の中に大きなインパクトを与えたことは事実である。隅田川主要橋梁の変更した色彩が、30年の期間を経てようやく都民や利用者、周辺住民に馴染んだのが近年である。何故ここで、敢えて馴染んだ色彩を変更するのか、隅田川著名橋整備事業に関わり、種々な検討を行ってきた私には残念でならないし、現体制に意見が言える私としては、先人に申し訳ない気持ちで一杯である。

 中でも問題と感じているのは、今回の色彩変更内容をよく読むと、日本国重要文化財の3橋、清州橋、永代橋、勝鬨橋の色彩変更は、今現在の色彩に塗り替えたとのことである。今現在の色彩とは、清州橋は「はなだいろ」、永代橋は「あおふじいろ」、勝鬨橋は「しろねずみいろ」が経年でチョーキングし、色褪せた色調に塗り替えるのがコンセプトとのことである。塗装は、経年で色褪せるのは当然であり、今回塗り替えに使用した中・上塗りの材料である弱溶剤形ふっ素樹脂塗料も経年で劣化し、明度も彩度も変わる。何のために有識者を入れた委員会を設置し、何が狙いで色彩変更検討を行ったのか私には全く理解できないし、塗り替えのコンセプトを何度読んでも同意は出来ない。行政技術者として、新たな施策を内外へPRし、都民等へのアカウンタビリティーを重視するのであるならば、何のための色彩変更を行ったのか、効果検証の必要がある。行政技術者として、やるならばやる、やらない、出来ないならば無駄な投資はすべきではない。今回行った色彩変更は、そのコンセプトに『切れ』がないし、住民や利用者の強いニーズとも思えない。

 何か新たな提案をと無理して考え、過去と同様なことをまた行う、やることが中途半端なのだ。私が隅田川主要橋梁に関して心配している事は、今回の塗り替えが、塗り重ねてきた旧塗膜を全て素地調整して剥がしたのではなく、不完全な塗り替えとなったことに大きな問題があると考える。次回塗り替える時は、長期防食とはどのような事か、環境汚染とはどのような事か、種々な方面から検討し、隅田川に架かる多くの著名橋がより長く供用できるような防食仕様にしてもらいたい。その起点となるように、私は清州橋、永代橋、勝鬨橋を日本国重要文化財指定に努力したのである。私がなぜここまで、橋梁だけではなく建造物に関して、強固な意志を貫こうとしているのか、読者の多くや私の愛する後輩達に少しでも分かってもらえれば幸いである。

 私が強い愛着を感じている隅田川に架かる著名橋に対し、日々メンテンナンスを行っている東京都の行政技術者への厳しい『お小言』はここで終わりとしよう。ここまで、建造物(道路橋だけではない)の景観と色彩について、事例を挙げてどのように検討を行い、その結果が何をもたらしたのかを説明してきた。読者の多くは、私と異なった意見をお持ちの方が多くいると思うが、今後同様なことを行う際に今回のエキスを是非参考としてもらいたい。今回の最後に、我が国において、決して起こしてはならない橋梁に係る事故情報を提供する。

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